軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26.裁判の日

レインが言っていた通り、検査はとても大変だった。

いや、大変というレベルではなく……。

(とんでもなく、時間と……労力がかかるのね……)

朝日を受けて、光を浴びている中。

姿見の前に映る自分の姿は、げっそりとしていた。というのも、まるで健康診断のごとく私の体調を検査してもらうのだが――。

動いてはいけない時間が多すぎて、変に神経がとがりすぎてしまうのだ。

言うなれば、全身が緊張しっぱなしの状態。

医師もきっと大変だったのだろうが、同じ姿勢を……おおよそ一日の大半でキープし続け……気づけば裁判の前日までかかったのだ。

その結果――ちゃんと医師の検査は終わり、私の魔力には遺伝した魔力とお義母様の魔力以外ないことがわかった。

その書類はちゃんとレインに渡してあり……“今日”使うことになるのだろう。

(そう――今日が……私の裁判の日)

ほぼ一日中検査にかかりきりの状態だったため、私がやれることは検査に集中することだった。

そして一方のレインもまた、王家についての疑問を探りにいくので……ほぼ毎日深夜帯に帰ってくるのが常だった。

あの日を皮切りに、互いに顔を合わせる時間すらもうまく取れなくなってしまった。

しかしそれも今日という日のため。

侍女のエマに支度を準備してもらったのち――私の自室の扉からドアノックが響く。

「オリビア、僕です」

「! レイン様……!」

彼の声が聞こえ、すぐに扉を開ければ……今日も今日とて美貌が輝くレインがそこにいた。

彼はニコッとほほ笑んだのち。

「さぁ、行きましょうか。準備は完璧に整いました」

「! はい……!」

彼の手を取って――私は裁判をする予定の場所……この国の裁判所へレインと共に行く。

初めてなことだらけのため、緊張してしまい――うまく話せるか不安になるも、レインが隣にいるという事実に勇気づけられる。

一人じゃないというのが、こんなにも心強かった。

そして裁判所の中へ足を踏み入れれば――すぐに私は容疑者が立つスペースにつれて行かれる。

(ゲームでも見た……有罪を言い渡される場所……)

私が立った場所を中心に、段差をつけて――周囲を囲むようなドーム状になっていた。

そして多くの人が私の方を睨むように見つめていた。

そう、今は――被疑者として立っているのだから、疑われて当然の立場なのだ。

そんな私の隣に、堂々とレインが立つ。

「オリビア、大丈夫ですか?」

「ええ……問題ありませんわ……!」

彼は私を気遣うようにそう言った。

彼の思いやりを受けて、私は――シャキッと背筋を伸ばす。

「ふふ、少しでも緊張がほぐれたのなら――良かったです。目の前の……あの大きな天秤が見えますか?」

「え? は、はい……あれは……」

「あれが、魔法具でして……貴族たちが持つ小さな天秤の魔法具と連動して、我々の有罪無罪が決まります」

「!」

レインに促され、視線を目の前の奥に向ければ――裁判長が座るであろう席の手前に、大きな天秤がふよふよと浮かんでいた。

その存在の説明を聞いて、私はじっと見つめる。

(今は……平衡を保っているのね)

天秤は横にまっすぐをキープしており、どちらかにふれてはいない。

レインが言うには、有罪なら右に――無罪なら左に傾くそうだ。

そんな判決を担う――周囲の大勢の貴族たちは、思い思いに私たちの裁判について語っている。

「まったく――公爵家と王家の戦いがこうしてあらわれるとは、な」

「さて、公爵家はここで終わってしまうのか……見物ですね」

「でもオリビア嬢の状況は劣勢では? 公爵家はこの容疑を晴らせるのか……」

各々が意見を言い合っていた。そんな時――。

――コツコツコツ。

足音を立てて、一番最上部の席へ歩く陛下の姿があった。

そして側には、リアーナがいて……こちらを見てニヤッと笑みを浮かべていた。

陛下が口を開く。

「――静粛に。今から裁判を始める。リアーナは……原告の席に座りなさい」

「分かりましたわ」

陛下に促されて、リアーナは一段下の席に座った。

そして陛下の声を合図にして――裁判が始まった。

「此度は、オリビア嬢……ひいては公爵家の罪について、裁判をする。リアーナ、訴えた内容について説明してくれ」

「はい、私は……お姉様の墓荒らしが看過できなくて、訴えを起こしましたの……っ!」

リアーナは開口一番から、同情を誘うような……泣いているような声で、話し始める。

「伯爵家に来てから、ずっと――お姉様は私のことが気に入らないようでして、何度も私に嫌がらせをしてきましたわ……! そして最後には……癇癪の末、伯爵家の奥様……私のお母様のお墓までも荒してしまって……」

(なるほど、そういうストーリーを作り上げたのね)

リアーナの話を聞いて、どの口が言うか……とうんざりするものの――ここで反論のために、声を荒げて周囲の心象を悪くさせたくはない。

リアーナの発言を聞いた王は、ゆっくりと頷くと。

「そうか、それは大変だったな……わしにも、彼女からは――証拠を貰っている。伯爵家には王家の騎士を派遣して――現場を見た」

そう言って、陛下は証拠をまとめた資料を周囲に配った。

そこには、伯爵家で荒れた墓場を見つけたのがリアーナだったこと、そして墓石にからはオリビア……私の指紋が付いており、それが直近で最新の指紋であること――が書かれていた。

「書かれてある通りですわっ! だから私は、あまりにも酷い行いをしたお姉様と……そのお姉様をかくまう公爵家の追放を望みますわ……!」

リアーナはとどめと言わんばかりに大きな声で、そう宣言した。

今回の裁判の概要が分かったところで――レインが口を開く。

「なるほど……公爵家の罪という――“ご意見”をありがとうございます」

「ほう?」

「ですが、そうした事実は全くありませんので……この場で、それを証明しようと思います」

レインはリアーナの話をすべてぶった切るように、そう言い放った。

リアーナは、レインの話を聞いて、こちらを睨みつけてきて――陛下は、小ばかにしたような笑みを浮かべていた。

周囲からも「公爵様は、ああいっているが……どうみても、証拠の資料は間違いないものだ」とか、「陛下が用意されたこの資料を覆すことなんて……」と声が上がっていた。

そんな声をものともせずに、レインは言葉を紡ぐ。

「では、同じ伯爵家側からのご意見を聞いていただけますか?」

「なんですって?」

「……あなたのお父上と兄上が、証人として来てくださったのです」

「お、お父様と……お兄様が……っ?」

レインがそう言うと、明らかにリアーナは動揺した様子だった。

そしてレインの声に促されるように――お父様のヘンリーとお兄様のミシェルが裁判の会場へ入ってきた。

彼らは私とレインが立つ場所から……少し横に距離を取った「証人」という札が置かれているスペースに立った。

彼らがそこに立つと――陛下が、重々しい声で話す。

「ふむ……おぬしらは、わしと親しいと思っていたが……今回は公爵家の側に立つのだな?」

露骨に、権力での圧力を――陛下は伯爵家の彼らにかけてきた。

お父様もお兄様もビクッと身体を震わせたものの……。

真っ直ぐ、陛下の方を向いて。

「はい……我々は、正直な立場で――この裁判に向き合いたいため、証言させていただきます」

「ほう?」

「我々が知っていることを……お話しさせていただきます」

お父様はそう言うと、公爵家で話した「リアーナの告発に疑義があること」について話した。

その話の内容は、会場全体にどよめきを走らせる。

「どういうことだ……? リアーナ嬢との話と全く違うじゃないか」

「伯爵家でこんなにも証言が割れるのなら……この件は、信ぴょう性にかけるな」

そんなふうに、周囲はリアーナの告発の内容に――少しずつ疑問を持ち始める。

そこに追い打ちをかけるように……レインは再び口を開いて。

「今回の墓荒らしについて――もしこの事件をオリビアが起こしたのなら、彼女の母上の魔力が彼女の体内にはいるはずです。そのために、オリビアには魔力の精密検査を受けていただきました」

レインはそう言うと、自身の指をパチンと鳴らして――魔法によって会場内全体に「とある資料」を配った。

その様子を見た私は、口を開く。

「はい、レイン様の言う通り……私は精密検査を受けましたわ。その結果……私はお母様の魔力は、遺伝以外でもらっていないことが判明しました」

「な、何を……っ」

「あら? リアーナは、墓荒らしをしたら……埋葬された人物の魔力を奪ってしまうそうよ?」

「なんで、あんたがそのことを知って……」

リアーナは、混乱した様子で目をキョロキョロと動かしていた。

その間、レインが魔法で渡した資料によって、周囲の貴族たちは驚きを露わにしていた。

「ほぉ……墓荒らし後は、魔力を奪うのですな……なんと非道な……」

「しかし、確かに……オリビア嬢はこの結果から見るに――潔白のようですわよ?」

「いやはや、私も魔力の精密検査を受けたことがありますが……あれはかなり大変な検査ですぞ」

周囲の言葉が、リアーナの耳にも入り……より彼女はパニックになっているようだった。

そして縋るように、陛下の方へ視線を向ける。すると陛下は――。

「ふむ……面白い証拠を提示してくれて――感謝する……公爵よ」

「いえ」

「しかし――被疑者であるおぬしらが手配した医師の診察結果じゃろう? ならば――結果を改ざんすることも容易ではないか?」

陛下は、事も無げにそう言い放った。

そして……。

「それに……伯爵家の証言とのことじゃが……。ヘンリーよ、お主はいつから結婚指輪を外したんじゃ?」

「へ、陛下……それは……」

「確か、離婚の申請はしてなかろうて……それなのに、外しているということは――さては指輪の誓約を破ったのだな? 死してなお、お主が誓約を破ったことを知った奥方は可哀想にのう……死者である奥方によって、その指輪は消されたのか?」

「……っ」

「無言は肯定の意とする――ならば、指輪の誓約を破った不届き者の証言は……この場にふさわしくないと思わんか? 不届き者が、容疑者を擁護するなんて……笑止千万」

陛下のこの発言によって、周囲は一変して……「伯爵様はやはり、誓約を破ったのだな……」、「死者から罰を受けているなんて――罰当たりな」、「あの不届き者が擁護するのなら。公爵家に正義はないな」とそう言っていた。

(この雰囲気は良くないわ……周囲が陛下とリアーナの方の意見に傾いている)

嫌な雰囲気に、背中で冷や汗をかく。

リアーナは勝ち誇ったように、笑みを浮かべていた。

この場を変えなければ……そう必死に思考を巡らせていた時。

「オリビア、大丈夫です」

「レイン様……?」

「これを――僕は待っていたのですから」

「え?」

レインは不敵にニヤッと笑ったのち。

「ほう、陛下はそのようにおっしゃいますが……おかしいですね?」

「なんだ、公爵よ」

「伯爵家当主の指輪がないということは、確かに陛下がおっしゃるように……誓約を破ったからに違いないでしょう。しかし、死者が指輪の誓約をもとに――指輪を消し去ったなんて……僕たちは言っていませんよ?」

「ふん、それはあくまで憶測で言ったことだ。揚げ足をとって、優越に浸ったか?」

「いいえ、陛下が――死者の尊厳を第一に置くのなら、僕たちもそれに重きを置きたいと思ったのです。陛下ご自身こそ……墓荒らしのご経験があるのではありませんか?」

「っ!? 貴様! この場をかき乱すためにわざと、そんな不愉快なことを……っ」

陛下は憤りながら、席から立ちがる。その時。

――ガチャッ。

「いいえ、父上。私が――その根拠を証明します」

「なっ……シューベルト、なぜここに……。今日は政務を任せて……」

裁判所の扉を開けて、入ってきたのはシューベルトだった。

周囲の貴族たちは、何が起きたのか理解が追い付かないようで、ざわざわとしていた。

「王家の一員である私としても、今回の裁判は他人事ではありません。今回の証拠としてあげられた資料を見て――あまりにも父上が墓について精通してらっしゃるように見受けられまして」

「それが、どうしたんだ……」

「失礼ながら、父上の補佐官を尋問して――父上が何をなさったのか、お伺いいたしました」

「っ!」

シューベルトは薄く笑ったかと思うと、とんでもない事実を言った。

「どうやら、よく母上の……王妃の墓参りをされたそうですね。そこで、父上が無我夢中で墓を掘り起こしているのを、補佐官は見たとのことです」

「そ、それは……」

「それから――父上の主治医からも話を伺いまして、ある時を境に……魔力が増えられたようですね? しかも性質が違う魔力が……」

「……」

「主治医が言うには、王妃の魔力と同質だと――そう発言しましたよ。現に、この通り……資料も残っていました」

シューベルトは懐から一枚の資料を取り出し、レインの方へ近づいて――手渡した。

その内容をレインは、見たのち……魔法陣を起動させて、複製し――先ほど渡した資料と同じく、貴族たちの手元にその資料を送った。

もちろん陛下の手元にも行きわたり……。

「あの医者め……こんな資料を残しておったか……」

そう忌々しそうに、発言していた。

その間に、レインはシューベルトの方を向き。

「殿下、ご足労頂き……ありがとうございます」

「構わない――親愛なる公爵のためなら、な」

二人は単に仲がいいというよりは、互いに貸し借りをつくりたくない様子を露わにさせていた。

これくらい軽口を言えるほど仲がいいというか、なんか――。

そんな二人を見て、私は何とも言えない表情になる。

(きっとレイン様が……私が検査を受けている期間に、殿下とお話をつけてくれた……のよね?)

以前よりは仲良くなったようにも見えたが、まだまだ王家と公爵家の溝は埋まり切っていないのかもしれない。

そんな中、シューベルトは陛下の方を真っすぐと見上げて。

「私としては――母の死への冒涜な行いをした父上、いや現国王には、国王たる資格がないと思っております」

そう、言い放った。