軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

25.証言

私たちが公爵家の応接間に入ると――お父様とお兄様は座っておらず、私たちを見てすぐにお辞儀をして挨拶をした。

「……お久しぶりです。公爵様、そして……公爵夫人様」

お父様が先陣を切ってそう言い、お兄様は何も反論がないのか――同じ挨拶をした。

そんな彼らにレインは、冷えた――低い声を出して。

「未だに慰労会のことは、許しておりませんが――今回は貴殿らが“裁判状”について、聞いてほしいことがあると伺い、証言としていただこうと思っています」

「もちろんです。我々としても――公爵家にとって有益な情報を提供したいと思っています」

「ほう?」

お父様がきっぱりと言い放つ中、レインは探るような視線を向けたのち――応接間のソファに両家ごとに座った。

レインは疑問に思ったことを、彼らに告げる。

「そもそも今回の裁判の……告発者は、あなたがたの養女ですよね? どうして彼女の肩を持つのではなく、わざわざ公爵家へ?」

「……まず、我々はリアーナの告発に納得がいっていません」

(納得がいっていない……?)

お父様が言った回答に、私もレインもさらに疑問が深まった。

だってリアーナは、彼らにとって目に入れても痛くないほど可愛がっていたはずだ。

それなのにどうして……。

「ご当主はこう言っていますが、ご子息も同じ考えでよろしいのですね?」

「はい、父の言う通り……僕も納得はしておりません」

「……ふむ」

お兄様の発言を聞き、さらに謎は深まる。

そんな中、お父様が補足するように話し始めた。

「そもそも、リアーナの告発について……我々は相談を受けておらず――困惑しております。それでリアーナに真意を問いたくても……彼女は現在王城で過ごしており、会えないのです」

「伯爵家の養女が王城に……?」

「ええ、陛下のご意向で……裁判までは事件があった現場ではなく、心穏やかに過ごせる王城での滞在を勧めたそうなのです」

(リアーナが王城にいるなんて……)

まったくの予想外だった。

彼女はシューベルトルートを進めている様子もなかったのに、どうして陛下とそんなに親しくなっているのかは不明だが……。

でも現にこうして、陛下と手を組んで――私を裁判の場に引っ張ろうとした。

「だから、我々も……なぜリアーナが、公爵夫人が伯爵家に居る時に……私の妻の墓を荒したなんて、嘘を言ったのか――理解できないのです」

「……養女の発言を“嘘”と断じて、よろしいのですか? ご当主殿」

「ええ、真実ですから――何も問題はありません。司法院に言った通り、我々は本日……公爵家の有益なこと……嘘偽りないことを話すために来たのです」

「……ならば、その発言に責任を持って――裁判の場で話していただくことも可能と、受け取ってよろしいでしょうか?」

お父様の発言を受けて、レインは問いかけるようにそう言った。

レインの言葉を受けて、場の空気が重くなる。

レインが言ったのは、お父様が証言をする証人として来れるかどうかを聞く内容だった。

(でも伯爵家は、もともと――王家側よりの貴族だわ。だから証人として、裁判に赴いたら……)

間違いなく権力構造内では、不和が起きる。

なんなら伯爵家の立場は、地の底に落ちる可能性だってある。

それくらい王家側に立つ貴族は、基本的に――王家に従順だから。

室内の空気が重苦しくなる中、お父様は――レインの顔を真っすぐ見て。

「もちろん、証人として出ましょう。証人においては、噓偽りを禁じる魔法が施されるので――今の内容と同じことを言えます」

「父と同じく……僕も、証人台に立てます。少しの数的有利に過ぎませんが……その覚悟があります」

目の前に座るお父様とお兄様の目は据わっていた。

彼らの言葉に私は目を見開く。

私が伯爵家から出ていったあと、彼らはどんな心境変化をしたのだろうか。

(けれども……だからといって、彼らへの印象はあまり変わらないわ)

ずっと脳裏には、彼らから受けた仕打ちがこびりついている。

レインは二人の話を聞いて、「ならば、早速ですが――当日の証人をお願いしましょうか。嘘偽りなく、ここで話した内容を話してくれるみたいなので」とニコッと冷ややかな笑みを浮かべていた。

レインは続けて口を開き――。

「証人は司法院から追って、案内が届きますから確認してくださいね。それと……あなたがたが知っている伯爵家のお墓の状況を知りたいです」

「状況ですか……それならば、リアーナが王城に行く前、ちょうど数日前に王城の騎士たちがぞろぞろ、我が屋敷にやってきました。その時に、我が妻の墓が荒らされた形跡を見ました」

「ほう……」

「どうやらリアーナが第一発見者だったようで、騎士たちに状況を細かに説明していたのを覚えています。この一回きりです、私の妻の墓が荒らされたのは」

お父様は悲し気に、視線を下に落とした。

お兄様も同様に俯いている。

「そのため公爵夫人が墓を荒すなんてことは、ありえません。彼女が、去ったのち……私の妻が屋敷へ来たのですから。死者は……無作法な行いに応えたりはしません」

「なるほど、ご当主の奥様――私の妻の母君が現れたのですね?」

「ええ、息子も目撃しております」

「はい。父の言う通り、間違いありません」

お父様の発言を聞いて、私は内心驚いた。

まさか私が伯爵家から出ていった日に、お母様が屋敷に舞い戻ってきていたなんて。

おそらく、既存の物語にある通り……魔力に共鳴して現れたのだろうか。

「それで……離婚歴のないご当主殿の――指輪が消えたのは、奥様が現れたこととご関係が?」

「っ!」

レインはお父様の薬指に視線を落とし、そう言った。

お父様の薬指には、指輪を付けていた痕がくっきりと残っていた。

その発言を聞いたお父様は、ビクッと身体を揺らす。

そして苦しそうに、お父様は眉根に力を入れたかと思うと。

「ええ、妻に愛想を尽かされて――指輪の契約をもとに、私の指輪はなくなりました。身体的な痛みもなく、スッと消えたのです……」

「――通常なら契約を害すると、苛烈な痛みが身体を襲うらしいのですが……奥様が故人であるために、指輪の効力が弱まって……彼女の魔力をもとに消えるだけになったのでしょうね」

「……っ。そうだとしても、私にとっては――耐えがたい苦痛を感じました」

(そうよね、お父様も……お兄様も、お母様が一番大切だったから)

お父様の話を聞いて、私は彼が嘘をついていないのが――「お母様」という単語が出てくるからこそ、信じられた。

お母様を意識させる話がこうも出たからだろうか、つい私の口からは……。

「お母様……」

「……妻は、オリビアのことをずっと気にしていた」

「!」

「オリビアの魔力に反応して……屋敷に戻ってきたのだ。妻は、君のことを深く愛していた。我々は時遅くして――その大切さに気づいたのだが……」

お父様とお兄様は私の方を見て、申し訳なさそうに――後悔の表情になっていた。

(そうか……お母様が現れて――二人の心境が変化したから……慰労会ではいつもと違う様子で……)

今更、あの時の謎が解ける。

「ここからは……証言のことも、なにも関係がありません。我々は、証言はすることを決めておりますので……ただその前提で、言わせてほしいことがあります。オリビア、君から……許されようとは思ってはいません。だが……謝罪をさせてほしいのです。最低な父で……本当に申し訳ございません」

「ごめんなさい……僕が兄で……オリビア、本当に申し訳ございません……」

お父様とお兄様は、罪を受け入れて――そう話した。

そんな彼らを見て、「証言はすること」を決めたと言ったことも――もちろん頭に入れて、私は自然と口から言葉が出た。

「私はあなたがたを――許しませんわ」

「……」

「これから、伯爵家がどうなろうと私は知りません。この証人を承諾してくれたのは、ありがたいですが――それだけです。私個人の想いは――到底、覆りそうにありません」

「ああ、それで構いません。証人だって……君の気持ちを曲げたくて、言ったわけじゃなく……伯爵家当主として、そして我々がしたくてしていることなのですから」

本来なら、伯爵家からの証言は――公爵家にとって有利に働くので、彼らの機嫌を良くしたり、和解が一番とは思うのだが……。

たとえ表面上としても、許せる気持ちは出なかった。

むしろ彼らも言っている通り――許されようと思っていないのなら、その通りの状況だと思ったのだ。

気づけば私は、彼らの顔を見たくなくて――俯いていた。

その時、私の肩をレインが温かく抱き寄せてくれた。

「僕は、伯爵家の私的な気持ちを話す――権限を与えたつもりはありませんが?」

「っ! た、大変申し訳ございません……公爵様」

「どうやら、貴殿らは……まだまだ許してもらえると甘い考えをお持ちのようだ。僕の妻の気持ちを考えるのなら――この話を今するのは……不適だと気づきませんでしたか?」

「……さようでございます。我々の気持ちばかりが先行していたようです」

「もし証人をだしに――妻からの許しをもらおうとしているのなら、僕の方からこの証人は頼みたくありません。他の証拠をもってして……裁判を勝つ方法を見つけるまでですから」

レインは冷ややかにそう言い放った。

レインの言葉を受けて、お父様とお兄様は言葉を失っているようだった。

「先ほどの謝罪は抜きに――証人は受けていただけるという認識で合っていますか? 合っているのなら……この場で、公爵家に宣誓をする形でおっしゃってください。屋敷にあなた方からの証言が残りますから」

彼が言う通り、きっとこの屋敷には彼がかけた――証言の記録が残る魔法がかかっているのだろう。

無属性の魔法を使えるゆえに、イレギュラーで強い……こうした魔法さえも使えてしまう。

お父様とお兄様は、ひどく後悔した表情で――「あらためて、証人として出ることを――謝罪は抜きに誓います」と言った。

その発言を聞いたのち、レインは私の方を見て。

「もう十二分、彼らの聞き取りはできたと思いますが――オリビアはいかがですか?」

「私も――大丈夫ですわ」

「そうですか。ならば……お引き取り下さい。フローレンス伯爵家のお二人とも」

お父様とお兄様に話すレインの声に温度はなく――その厳しい声を受けて、お父様とお兄様はぐったりとした様子で、応接間から去っていった。

二人きりになった応接間で、レインは「……僕のミスですね」と後悔した声をあげる。

「どうしたのですか? レイン様」

「あの二人が謝罪をした瞬間に、すぐ遮ればよかったのに……タイミングを窺ってしまいました……。そのせいで、オリビアには嫌な思いを……」

「!」

レインが申し訳なさそうに、私に言った。

その言葉を聞いて、私はすぐに返事をする。

「レイン様のせいではありませんわ……! 私がまだ……彼らと上手く話す気持ちが切り替えられなくて……」

「オリビア……」

「むしろ今回の言葉をきっかけに、あらためて自分の気持ちがはっきりと分かった気がするんです。だから――レイン様は悪くありません」

私はレインにそう話した。

誰だって、突然相手が謝ってきたら……その真意を聞いてしまうだろう。

今回の場合は、その相手が――自分を伯爵家から追い出したお父様とお兄様だった。

私の言葉を聞いたレインは、まだ悔いが残る表情をしていたので――念押しに、「大丈夫です!」と伝えた。

レインがこうして私のことを深く想いやってくれることに、彼の優しさを感じた。

そしてあらためてレインと二人きりになった応接間にて――レインが思い出すように言葉を紡ぐ。

「しかし……伯爵家では、死者との魔力共鳴が成功したのですね。僕の母が知ったら……オリビアにコツを聞きにいきそうですね」

「お、お義母様が……?」

「ええ、僕を前にしても……ラブラブで……父が亡くなったあとも、父のことを深く想っているので」

レインが自身の母のことを思い出して、そう言った。

彼の言葉の通り、私に対してもお義母様は、自身の夫のことを考えて――隠居先を考えていたくらいだから。

「しかし、今は……母の場合は、ゆっくりと休むことが先決ですから。医師からも、当分の間は――起きてもすぐに体力を回復するために、すぐに眠ってしまう症状が出るとのことです」

「そうなのですね……!」

レインからお義母様の状況を聞き、以前のようにお話しするタイミングがないことに残念に思った。

しかし現在進行形で、私とレインは裁判の準備をしているため――お義母様には無用な心配をかけたくない。

不幸中の幸いなのかもしれないが――レインからも「裁判のことは……母がしっかりと体力が回復したときに伝えるつもりです」と言われた。

そしてレインは「伯爵家の彼らから聞いたことに戻るのですが……」と言ったのち。

「やはり――オリビアが墓荒らしをしたとは、決定づけられませんね。現に死者が魔力共鳴をして、屋敷に訪れておりますし……。そもそも、墓荒らしについて思い出したのですが――こうして裁判ごとになったのは、もう百年も前にあったきりなんです」

「そんなに前から……」

「ええ、だから――判例が少ないんですよね。しかし倫理的には禁忌とされる行為のため、重罰が課されるのが通例になって……だから陛下は、この事例を好都合に思ったのでしょうか……?」

レインの話を聞いて私は、陛下とお墓について――うんうんと考える。

レインの言う通り、判例が少ないゆえに――重罰を課しやすいというのは、公爵家を邪魔に思う陛下にとって、最高な条件だ。

しかしその証拠を集めたり、裁判で証明するにしては……他の貴族にとってもそうだが、扱いにくい「犯罪」のような気もする。

現に、そんな高頻度で起きていないし……もっと楽に公爵家の不祥事をでっちあげることだってできるはずなのに。

(つまり……墓荒らしをしたと、言い張れる知識を持っている……? いや、これは考え過ぎかしら……?)

既存の物語では、オリビアは「悪女の振る舞い」を裁かれたのであって――こうした「墓荒らし」を軸に裁判なんてシーンは、全く知らない。

(国王陛下と……お墓……うーん……)

ぐるぐると考えていると――ふと、私の頭の中に……前世の記憶が浮かび、ゲームの主軸ではない会話イベントを思い出す。

たしかシューベルトルートの時に、陛下が「息子は愛した王妃によく似ている」と言って……よく墓参りをしていると言っていて……。

『つい、愛する妻のことを思い出したら……墓を掘り返して、会いに行きたくなってしまうな』

そんなことを言っていなかっただろうか。

「あ……!」

「オリビア……?」

私が思わず声を口に出すと、レインがどうしたのかと聞いてくる。

あくまで推測にしか過ぎないものの、私は思ったことをレインに伝える。

「陛下がどうして墓荒らしで……私を裁こうとするのか、まだ決定的には分からないのですが――でも、こうして“お墓”にこだわるのが少し気がかりになったんです」

「まぁ……この国では死者との魔力共鳴を求めて――色んな者が墓石に魔力をかけに行きますが……」

「ええ、そうですよね。私のお父様も……その方法は試したと思うんです。しかし荒そうとは思わないでしょう?」

「そりゃあ、大切な人の墓を荒すなんて……常軌を逸してますから」

「そうです、おかしいんです。けれど、墓荒らしをした……というからには、私の悪事の証拠を確実に作らないといけなくて――その知識って……」

ここまで話すと――レインが私の顔をじっと見つめて、目を見開いていた。

そう、でっちあげるためには――確実な「証拠」が必要だ。

そして、その知識も必要になるだろう。

そんな中、陛下は「墓荒らし」についての罪を、私にかけてきたということは。

「……なるほど。陛下は、お墓について詳しすぎるようですね」

「!」

「とても趣味の範疇とは言い難い……。僕だって、少ない判例を思い出して……事実を確認するのが精いっぱいでしたが……」

レインはそこまで言うと、「これは……どこかの親切な殿下から話をきいてくる必要がありますね」と話した。

「僕は不可解な陛下の知識について……最近、公爵家に親切になっている殿下と話をしようと思っています。殿下とは魔法でうまく――連絡をとれますからね」

レインはそう言うと、ニコッと笑みを浮かべてそう言った。

そのまま彼は続けて。

「オリビアが話してくれたのをきっかけに――僕も、考えたのですが……墓を荒すと、確か……埋葬された者の魔力が、荒したものに移動すると……以前の裁判記録には書かれていた気がします」

「そ、それって……」

「ええ、オリビアは、伯爵家の奥様の魔力を遺伝で受け継いでいるので……何も問題ないように思うのですが、言いようによっては奪ったのだと相手側は断じてくるかもですね」

「奪ったと……」

「ええ、ですから――この点は対策をする必要がありますね。けして奪ったものではなく、オリビア自身が持っていて、覚醒して得た力だと。そのために、少し面倒ですが……」

レインは私の顔を真っすぐに見つめながら、私がしたほうがいいことを教えてくれた。

それは公爵家に来ている医師に手伝ってもらって、元来の魔力――ひいては、最近はお義母様から受け取った魔力の遷移を表す資料を作る必要があるとのことだった。

「公爵家ではここ最近、魔力ばかりを研究していましたから……この点はすごく強いんです」

「!」

「魔力は身体に馴染んだとしても――種類がちがう成分が残るんです。だから、僕の母以外で……遺伝以外の魔力がオリビアの体内にないことも――証明できるはずです」

「そんな証明が、できるのですね……!」

「はい。その……ただ、その証明をするためには……煩雑な検査が必要で……」

レインは眉根に力を入れてそう言った。

どうやら、お義母様の体調を検査する時に、こうした検査をしたようだが……一週間以上の時間がかかり、かつ面倒な医療器具を使っての診察だったらしい。

そんな過程を知っているレインは、私にその苦しさを押し付けたくないようで……「どうにか医師に、なるべく負担がないようにと伝えますが……かなり面倒な検査を、あなたに強いるのは」と嫌な気持ちを抱えているようだった。

そんな彼の言葉を聞いて、私は決意する。

(たとえ煩雑な検査だとしても――無実の証明になるのならするべきだわ)

だからこそ、レインに話しかけて――。

「私は問題ありませんわ。むしろすぐにでも、検査を受けたいと思っていますの」

「オリビア……」

「必ず、無実を証明して……公爵家でレイン様とお義母様と仕えてくれるみんなと……穏やかに過ごしたいですわ」

私がそう言えば、レインは踏ん切りがついたようで。

「ええ、僕もそれが一番です。では――医師に早速、連絡をして……後ほど公爵家に来ますので、オリビアは検査を受けていただけますか?」

「はい、分かりましたわ」

「その間、僕は――陛下について気になるところを探ってみますので」

私とレインは各々がするべきことを確認して、前向きな笑みを互いに向け合った。

その笑顔を皮切りに、二週間を切った裁判の日に向けて――私とレインは自分がするべきことに集中して動き始めるのであった。