軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

16.二人の距離

王宮には、姿形を変えさせてくれる専属の魔法使いがいて、その力を利用してシューベルトはここに来ているのだが……そんなことはどうでもいい。

(何度も画面で見てきたから、分かる……シューベルトに違いないわ……!)

リアーナはここに来ていないし、本来のイベントとは変化した「雪山のイベント」において、どうして彼がここにいるのか。

じっと彼を見つめていれば、変身しているシューベルトは眉根に力を入れて――困った様子で話した。

「山の裏側のほうに……まだ氾濫しそうな湖がある」

「裏側……?」

シューベルトの言葉を、レインが確認するようにつぶやく。

その時、私はハッと思い出した。

(そうだ……このイベントって、連れてきてもらった箇所以外に……もう一つ氾濫しそうな湖が近くにあるんだ……!)

そう、「雪山のイベント」で長い時間がかかっていたのは――トラブルが大きかったから。

だから先ほどレインと魔法を使い終わって……あまりにも早くに終わったことに、釈然としない気持ちになっていた。

シューベルトは国民を深く想う気質を持っている。

彼自身が地味なインフラ創成事業を進める性格もあって、今回の氾濫トラブルについても入念に調べていたのだ。

だからこそ、リアーナとのイベントではなくとも――ここへやってきたのだろう。

(私はどうしてシューベルトが、ここにやってきているのか知っているけど……レイン様は……)

一方のレインは、突然現れた変身姿のシューベルトに懐疑的だ。

「ふむ……嘘はついていないようですが――突然現れて、そう言うなんて……怪しすぎますね?」

「……その気持ちを否定はしない。ただ……お前たちの魔法によって、こちらの湖の氾濫危機がなくなった。だから、その力を借りたいと思ったのだ」

「……ほう。ですが――あなたも魔法を使えるように感じますし……僕たちを前にしてもビクともしない。到底、一般人ではなさそうな方のお願いとは……」

「……っ」

シューベルトは自身の身分を頑として明かさないが、レインの鋭い言及にバツの悪そうな顔をした。

(確かに、どう見ても怪しいのよね……でも……)

相手がシューベルトだと知っている私としては、彼が身分を明かせない理由が分かる。

もちろん王太子という高貴な身分ゆえに……というのもあるが、相手が王家とは仲が悪い公爵家の――レインだからだ。

(もし王太子が、表立って公爵家に頭を下げるとなれば――シューベルトの王族内での立場が悪くなるだけではなく、公爵家への王家からの反感もすさまじくなるし……)

身分を明かす方が、悪いことが大きいのだ。

そうしたデメリットを考えて、シューベルトはすべてを正直に話していないような気がした。

しかし明かさないままでは、レインが頷くとも思えない。

(実際に、山の裏側には……氾濫の危険がある湖があるのよね。確認しづらい位置にあるせいで、シューベルト以外は見逃していて……そこも決壊したら、街に被害が及ぶわ)

正直なところ――公爵家においても、この裏側にある湖の対処は行っておいたほうがいい。

というのも、王命で指定された箇所はちゃんと対処したが、裏側の湖が決壊すると……。

(王家側は……いえ国王は、公爵家にいちゃもんをつけてくるでしょうね……)

ただでさえ、王命で嫌がらせをしてくる状況なのだ。

国王がレインを追い詰めるのは、既存の物語でもあったことなので、その隙を与えるのはよくない。

かといって、現状レインは――目の前のシューベルトを助ける気はない。

そこまで考えた私は……意を決して口を開く。

「レイン様、私は……裏側の湖の状況も――見たいと思っておりますわ」

「オリビア……?」

「お、奥様……!? この怪しい者の話を信じるのですか……!?」

「……」

レインと騎士たちはどうしてといった表情で私を見つめてくる。

一方のシューベルトは、現状を静観していた。

「公爵家として――した方がいいと思っているんです」

「エヴァンス家として、した方がいい……ですか?」

「はい、ここ一帯は……王太子殿下が最近力をいれて、政策を行っている地域です。もし公爵家が二つの湖の氾濫を食い止めたと知ったのなら……王太子殿下はこの働きを知って、公爵家に今後便宜を働いてくれるきっかけになると思うのです」

私がそう話すと、シューベルトが少しだけピクッと身体を反応させた気がした。

そしてレインは私の話を聞き、「政治の状況をご存じのようですね……確かにあの王太子殿下なら、公平に判断してくれるかもしれませんが……」と、話したのち。

「けれど、公爵家は司法の仕事が中心です。あるかどうか分からない氾濫を食い止める慈善事業をするよりも……早くに帰って司法業務を続けたほうが得ではありませんか?」

「……確かに公爵家は、司法院の仕事が主ですが――この頃、民間での諍いが少なくなっているとは思いませんか?」

「ふむ……よく知ってますね」

「それは……この国の王太子殿下が、民たちに治水や暮らしの支援の政策を積極的に行っているからだと思っています」

「!」

私がそう言うと、レインはハッとなったように目を見開いた。

そう、これはゲーム内で知っている王太子サイドの物語で知っていることだ。

シューベルトが力をいれる政策は、地味で王宮や貴族内ではスポットライトが当たりにくいが……実際に効果は出ていたのだ。

その一つが、国内の治安が改善したこと。それに伴って、国民同士のトラブルが少なくなったことだ。

ただでさえ、司法院では人同士のトラブル処理でいっぱいいっぱいだったはず。

そこに王家からの嫌がらせも相まって、パンク状態に等しい。だからこそ、少しでもトラブルが減るきっかけは大事だし――なにより。

「レイン様の負担が少なくなりそうなチャンスがあるのに……見捨てるのは惜しいと、私は思います」

「……」

私の話を聞いたレインは、少し思案するような表情になったことに気が付く。

加えて先ほどは、賛同できかねる雰囲気だった騎士たちも、一考の余地ありかも――という顔つきだ。

(もうあと一押し……! ここはもう気合で……少しでも……!)

そう思った私は、レインの両手をそっと取り――ぎゅっと握った。

その瞬間、彼は目を見開いてこちらを凝視する。

少しでも彼に本気の気持ちが伝わるように……私は口を開いた。

「私からのお願いとして……聞いてくださいませんか?」

「オリビアからのお願い?」

「はい。仕事ばかりの夫を気遣う……妻として、少しでもあなたのためになってほしいんです!」

「っ!」

「ダメ……でしょうか……?」

じっとレインを見つめながら、言葉を紡ぐ。

すると彼は、はくはくと口を動かしたのち。

「指輪をつけているからこそ……害意はありえなくて……それなのに、僕のことを本当に思って……?」

「レイン様……?」

「純粋な思いやりなんて……そんな……」

レインは瞳をキョロキョロと動かして――眉を八の字にした。そして私の方を見つめると――。

「わ、分かりました……オリビアの気持ちとしても、公爵家を思ってくださっているんですね」

「はい! レイン様のことを想っているんです!」

「あ……僕の……っ。ふぅ……、もうここまで言われたのなら、判断に迷いません。オリビアのお願いを――夫として、叶えたいです」

「!」

レインの言葉を聞いて、私はパアッと明るい気持ちになった。

だって、これによって――間違いなく公爵家には、メリットが生まれるし……レインが仕事漬けの毎日から少しでも解放される。

(彼のクマが少しでも……薄くなってほしいし、なんなら、なくなってほしいわ)

私の気持ちを聞いて、レインがこんなにもオドオドしているのは予想外だったが――結果として、いい方向に話が向きそうなので良かったと思った。

(あ……距離が近すぎて、レイン様が驚いてしまったのかも……?)

初めて見る彼の様子から、手をギュッと握って迫っていたからだと推測した。

すぐに「何も言わずに、ごめんなさい」と彼に言ってから、私は手を放して距離をとる。

「いえ……何も、あなたは悪くありません……」

「レイン様……?」

レインは解放された両手を、自身の顔を覆うように持っていき。

表情が分からないように、手で覆っていた。そんな彼の姿に、私はキョトンとする。

一方で騎士たちは、「公爵様が、決められたのなら――従うまでですね」と、どこか嬉しそうな様子だった。

そしてシューベルトは……。

「……そんな表情もできるのか、貴族社会だけでは分からないことだらけだな」

なんだか観察するかのような発言をしていた。

もちろん、彼にも――レインを説得したからには、釘を刺した方がいい。

きっと内容を側で聞いているから、大丈夫だとは思うが……念には念をだ。

「そこのあなたも――王太子殿下なら、正当な報いを返してくれそうだと思いませんか?」

「!」

「国民から見ても、信頼が高い王太子殿下は……きっと公平な判断をされますよね」

「あ、ああ……きっとそうだと……一意見だが、思う……」

ニコッと笑顔を浮かべて、そう言えば――私の言葉を聞いたシューベルトは、額に汗をかきながらそう答えた。

彼からの言葉を聞いて、私はホッと胸をなでおろす。

そして私の言葉を聞いたのち、レインは「ふむ……?」となんだかシューベルトを見ながら、考えるそぶりを見せていた。

なんだか焦った様子のシューベルトは、気を取り直すように「では、裏側の湖へ行こうか」と話し――案内をしてくれるのであった。

◆◇◆

裏側の湖までは、そこまで距離が遠くなく――歩いて、すぐに到着した。

先ほどまでいた湖よりも小さめだが……やはりこちらも、水かさがいっぱいになっており、近くの山の斜面から、氷塊が落ちたようだった。

しかし半分ほど、元あった場所へ氷塊が戻っている様子で……。

「ふむ……あなたが、この氷塊を直したのですか?」

「……ああ、そうだな」

「なかなか魔法が、得意な方なのですね」

レインは変身姿のシューベルトに、淡々とそう言った。

その内容に、シューベルトは肯定も否定も返さなかった。

「確かに、水かさがこれ以上増えたらまずいようです。先ほどみたいに、空中に浮かずとも――ここから魔法を使いましょうか、オリビア」

「! はい! 分かりましたわ」

レインは周囲を観察したのち、そう提案してくれた。

彼の魔法の知識は、私以上に詳しいので、彼がそう言うのならそうなのだろう。

レインは先ほどと同じく、片手を湖のほうへ向けると――先ほどよりも少なめの量の水を宙に浮かせ……球体にする。

「では、同じように――あそこへ動かしますね」

レインの言う「あそこ」とは、氷塊が半分ほど入っている場所だ。

おそらく半分は、シューベルトが魔法でどうにかしたのだろう。

(けど、魔力が尽きたのか……それ以上は難しかったんだわ)

レインと協力してやっているからこそ、私が魔法を使うのは凍らせるだけで済んでいるが――この芸当を一人で、しかも二か所やらないといけないのは……困難だ。

「雪山のイベント」の難しさを感じていれば、レインが魔法で――球体の水を所定の場所まで持っていったのを確認した。

「ありがとうございます、レイン様。では凍らせますね……!」

レインの動きに合わせて、先ほどと同じく――意識を集中して球体の水を凍らせた。

二回目ということもあり、難なくスムーズに終わる。

「すごいな……公爵は知っていたが――令嬢も、魔法の才があったのか」

シューベルトの独り言が聞こえて、私はあまり反応しないように努める。

(ちゃんと身分を隠す気があるのか……分からなくなってきたわ……)

一連の魔法が終わり、あらためて水かさや周囲を確認した結果、問題ないと分かり……。

「これで、もう……氾濫する箇所はありませんね?」

「ああ、この山では何も問題はない。冬の期間に入ったから――もう気温が高くなることもないからな」

「そうですか……良かったです。ここまで、そんなに険しい道でもなかったので、騎士たちに馬車を持ってきてもらいましょうか」

「! お気遣いくださり、ありがとうございます……! レイン様」

「いえ、ずっと立ちっぱなしでしたからね……気にしないでください」

レインはそう言うと、騎士たち二人に頼んで――馬車を手配してもらっていた。

すぐに到着するとのことだったので、レインと私――そしてシューベルトはその場で待つことになり。

「では俺も……そろそろ……。この度は助けてくれて、感謝する」

「いえ、妻の説得で来ましたが……助けることができて、良かったです。王太子殿下」

「!」

レインの発言に、私は目を見開く。

どうして気づいたのだろうか――やはり先ほどの独り言で……と考えていれば、シューベルトはもう隠す気がないようで。

「はて、なんのことやら……だが――公爵の協力は、忘れない。奥方の想像が叶うといいな」

「ただ貸しを作れただけでも、僕としては嬉しく思いますので」

「ハッ……本当に腹の底がよめないな」

シューベルトは薄く笑いを浮かべたのち。

私の方を見やって、口を開く。

「オリビア嬢」

「! は、はい……」

「君の言葉を――忘れてはいない」

「そ、それは……」

「どうやら、素敵な夫を見つけたようだが――もし何か悩みがあったら、聞こう」

「え!?」

なにやら明るい口調で話しかけてきたシューベルトに、私は戸惑うばかりになる。

一方でレインは、真顔で淡々と――私の代わりに返事をした。

「……そんな悩みを持たせないよう、努力いたしますので」

「フ、そうか……ではな」

レインの返答を聞いて、シューベルトは笑みを浮かべた。

そして懐から、小瓶を取り出して地面に液体を振りかけた――その瞬間。

――ボウッ!

「ほ、炎が……」

「……王宮は魔法の技術が高い者が、たくさんいるようですね」

シューベルトの姿は、大きな青白い炎に包まれてたちまち、その場から消えてしまった。

「あ、あれは――魔法、なんですか?」

「ええ、魔法……というよりも、魔法具が近いのかもしれませんね。他の者が、魔法を込めると他者も使える便利なアイテムです」

「へぇ……そうなのですね」

「だから、殿下は――瞬間移動で王宮へ戻ったようです」

(確か……乙女ゲームでも、魔法具というお助けアイテムがあったような……)

乙女ゲームの攻略が難しかったら使える――ユーザーのお助けアイテムとして、ちらほらあったような気はするが、この世界では「魔法具」という名前で一般に広まっている道具なのだろう。

(料理が上手くなるアイテムとか……ストーリーのイベントで、好感度が上がるために……あると便利なものってイメージだわ)

だが、実際には瞬間移動できる魔法を……レインじゃなくとも誰でも使えるようにできるアイテムがあるようなので、この世界は前世よりもはるかに便利な世界かもしれない。

「公爵様――! 奥様――!」

「おや、馬車が来たようですね」

「あ、本当ですね……!」

魔法具のことを考えていれば、騎士たちの声が聞こえて来た。

そのまま、レインにエスコートされる形で、馬車の中へ入っていくのであった。

◆◇◆

行きと同じく、帰りもそこそこ距離がある。

今日はだいぶん、魔法を使ったせいか――身体が少しだるい気がした。なんだか目も、眠気を感じる。

(あんなにも魔法を使うのなんて――はじめてよね)

先ほどレインと一緒に行った作業を思い出し、あらためて感動する。

そんな時、馬車が悪路で車輪がつっかえてしまったのか――ガタンッと音を立てて、大きく揺れた。

その時、隣から私の肩をギュッと抱かれ……身体を支えてくれる逞しい腕が見えた。

「おっと……」

「あ、す、すみません……レイン様」

「いいえ、雪が積もっていたのですかね?」

「そ、そうかもです……ね」

私は言葉が詰まりながら、なんとか返事をする。

というのも――行きと違って、帰りは……レインと隣り合うように、席に座っていた。

(あまりにも自然な流れで、座る場所を案内されたから……気にしないようにしていたけれど、きょ、距離が近いわよね……!?)

想像以上に、レインとは肩がくっつくほどの距離なため――近い。

それに、さきほど支えてもらった手は私の肩から離れておらず――つまりはより近い。

夫婦という関係性だから、一般的にみれば近すぎることはないのかな……とは思いつつも、レインとはそういう関係ではないから、やはり近すぎるわけで……。

レインに私は対面に座ると――言おうとした時、彼が先に口を開いた。

「あなたには……驚かされてばかりです」

「えっ?」

「昨日の僕を気遣う言葉から……今日は殿下を利用してまで、僕のことを考えてくれたでしょう?」

「! それは……そう、ですね」

自分でやる分にはあまり気にしていなかったことだが、レインの口から聞かされるとつい気恥ずかしさを感じた。

「僕は……とても嬉しかったです」

「……!」

彼の言葉を聞いて、胸の中にじんわりとした温かい気持ちが生まれる。

(そっか……レイン様の役に立てたのなら……嬉しいな)

そんな想いから、私は自然と口を開いて。

「そう言ってもらえて、私も――嬉しいですわ」

レインにそう伝えていた。

すると彼は、こちらに顔を向けると。

「そして今の僕としては、初めての感覚で……あなたに応えたいというか……言葉にするのは難しいですね」

「?」

「つまりは……今日は、魔法を多く使用して、疲れたでしょう?」

「え? そ、それは……でも、レイン様も……」

「僕は慣れていますから」

「え? で、でも……」

「それよりも、あなたのまぶたが、何度か閉じそうになっているのを見かけて……心配になったんです」

「!」

「だから、少しでも――楽な姿勢に」

レインに、少し眠そうにしているのがバレてしまったことに驚くよりも早く――彼は私の姿勢を彼より動かしてきて。

――ポス。

(え、頭に温かい……感触が……これってレイン様の肩……!?)

「どうか、僕に身体を預けて……少しでも休んでくれないですか?」

「えっ、な、え……!?」

突然のこと過ぎて、私は理解が追い付かなくなる。

そんな私に、畳みかけるようにレインが口を開いて。

「僕ばかりが……あなたから助けられてばかりだと、なんだか悲しくて」

「!」

「だから僕に……甘えてくれませんか?」

彼の口元が耳に近いためか、彼の低くていい声が至近距離で聞こえる。

その声と――彼の言葉が相まって、自分の心音が大きくなった。というか、バクバクしている。

(え、え……? レイン様は何を言って、私は何を言われて……これは本当に現実……?)

伯爵家ではもちろんのこと、前世でも乙女ゲームに人生を捧げていた私としては恋愛の免疫力はゼロに等しい。

だからなのか、レインに対して何が正しい反応なのか分からなくなってしまう。

「あなたが嫌なら……無理強いはしませんが――ダメでしょうか……?」

「うっ……!」

何の因果なのか、私が言った「ダメでしょうか」の言葉とは違って、とんでもない破壊力を持つ言葉として、彼の言葉は私の胸にズカッと刺さった。

ここでダメなんて言ったら、間違いなくレインを悲しませる。それはなんだか――嫌で。

ぐるぐると逡巡した結果……私が言ったのは。

「お、お言葉に甘えて……肩をお借りします……ね?」

「ええ! ぜひ……!」

「ううぅ……」

私がそう言うと、レインは本当に嬉しそうな声色で応えた。

キラキラと嬉しさ百パーセントの声だった。

(でも、彼の肩で休めるかしら……?)

すでに心臓は、変な心拍数を記録している。

しかも目は逆に少し冴えわたってしまって……けれど、顔をあげるのも憚られて。

どうか大きな拍動が、レインに伝わりませんように……と願いながら、私は帰りの馬車内を過ごすことになった。