作品タイトル不明
6 生意気な弟子(2)
「ローウェン師匠、ごめんなさい…会いたい…」
現実に戻ってきて、ルークは顔を上げる。
そして自分の手を見た。まだマメのひとつもない、幼くて柔らかい手を。
「ゆ、夢…?」
「魔法の未来シミュレーションだよ。今のまま楽をしてると、十中八九ああなるんだけど、さてどうする?」
ルークはローウェンさんにおずおずと近づく。そしてばっと頭を下げた。
「師匠、ごめんなさい!僕、あんな風になりたくないです!」
「ルーク…!」
「これからは練習サボりません!師匠に言われたことを、全部守ります!」
ローウェンさんは深く息を吐き、弟子の肩をがしっと掴んで引き起こした。
「投げ出すなよ」
「はい!」
素晴らしい師弟愛だ。
頭でっかちなお子ちゃまが、苦言を呈してくれる人のありがたさに気付いたところで…
「今の幻影を詰め込んだ『初心忘るべからずカプセル』というオプションがありまして。これを飲ませると『弟子思いの師匠を捨て、才能を枯らした後悔』がフラッシュバックします。今なら一ダース銀貨一枚。明日以降は二枚になります」
「あ、ああ、もちろん…いや」
ローウェンさんはポケットに手を突っ込んで、止まる。
「…?」
「いや、また今度にする」
「なんで?今買うほうが安いですよ?」
「いや、今度でいい」
「結局買うなら、今買わないと後悔しますよ」
「後悔はしない。今度でいい」
顔を真っ赤にして、変な人。絶対後悔するのに。
それとも「今度からは魔法に頼らず俺が止めてやる」みたいな脳筋発想?
「幻影を見せてやろうか」と思って、私は踏みとどまった。
「押し売りされた」とか言われたら嫌だし。
「そうですか。じゃ、失礼します」
「ああ、本当にありがとう…ティナ殿」
「師匠が買わなかった理由、僕わかる!」というルークの声は、私には聞こえなかった。
「貧乏でお金がないから?」
「違うよ。別の日に買いに行ったら、またあの魔法使いに会えるからだよ!」
「いや、違…っ!」
「わ、師匠真っ赤ぁ!」
「あの魔法使いのこと、好きなの?」
「お前たち、師匠を揶揄うのはやめなさい!」
◆
「師匠か…大事だよね」
自分の師匠のことを、思い出す。
天才ひらめき型の破天荒な魔導士で、急に鬼のような修行メニューを考えついては、朝から晩まで弟子を振り回す人だったけど…
一緒にいると楽しくて、思い出すのは笑える出来事ばかり。
それに今思うと、締めるところはしっかり締めてくれていたような。
「癖の強い魔法式の解読に苦労しないのも、魔力量が増えたのも、師匠のおかげだもんな」
それは彼女が私のことを大切に育ててくれたからなのだろう、とようやく気付く。
「…久々に、手紙でも書いてみるか」