作品タイトル不明
再度屋根裏へ
神学校に入学してから、初めての休日を迎える。
しかしながら神へ仕える身であるゆえ、休みといっても羽を伸ばせるわけではない。
外出するのはもってのほか、カードゲームや遊戯盤などの持ち込みも禁じられているので、遊びようがないのかもしれない。
休日というよりは、体を休める休息日と表したほうが相応しいのだろう。
寮内とはいえ、歩き回るときは制服を着なければならない。
朝食後、パウウルは面倒だと言って制服から着替えずに寝転がり、そのまま眠ってしまった。
フィンとヘィン、ホィンは自習室で勉強するらしい。
偉いな、と思っていたら、ヘィンは嫌だと訴えるも、フィンに引きずられて向かっていた。ホィンもしぶしぶといった感じでついて行っている。
フィンの提案で、意思に反して勉強会をすることになったようだ。
ホィンが私を振り返り、誘ってくれた。
「アルヴィも一緒に僕らと勉強しようよ」
「やりたい気持ちはあるのですが、これからユリウスと共に外出する予定でして」
「ええ、そうなの!? でも、外出はできないって、ブラザー・マテオが言っていたような?」
「そうなんです。ユリウスが特別に、私の外出許可まで取ってくれて」
ユリウスの実家に行って、 兄弟(ブリューダー) だと紹介してもらうのだと言うと、同情の眼差しを向ける。
「いろいろ大変なんだね」
「ええ……。ユリウスに相応しい者か認めてもらえるか、ドキドキしています」
「大丈夫だよ! アルヴィは礼儀正しいし、物腰も柔らかくて、人もいいから」
「ありがとうございます」
三つ子を見送ったあと、私服に着替える。
アインホルン聖国にやってきた日に着ていた、黒を基調にした聖職者を思わせる一着だ。
そろそろ約束していた時間になる。
出かける前にパウウルにも声をかけておいた。
「パウウル、起きていますか?」
「あーーー、うーーーん」
「ごめんなさい、起こしてしまって」
「大丈夫。半分起きていたから」
半分起きていたとは? と思いつつも、時間がないのでそのまま会話を続ける。
「少し出かけてきますね」
「なんか、さっきホィンと話していたな。ユリウスの家に行くんだっけ」
「ええ、そうなんです」
パウウルはカーテンを開き、大きな欠伸をする。
「外出は私服でいいんだ」
「みたいですね」
「かっこいいじゃんか」
「ありがとうございます」
そろそろ夏に近づきつつあるので、この装いでは暑くなるだろう。
まあ、この先頻繁に出かけることもなくなるだろうが。
「なあ、アルヴィ」
「なんでしょう?」
パウウルがいつになく深刻な声色で話しかけるので、思わずまっすぐ顔を見てしまう。
「前にさ、噂で聞いたこともあって。貴族の屋敷に行った人がさ、戻らなくなった話を聞いたことがあってさ」
「私も聞いたことあります」
昨日聞いた、ホフマン家が関わっていた件かもしれない。
「ユリウスだから大丈夫だと思うが、貴族はいろいろ 焦(きな) 臭い話を聞くから、気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」
時間があれば、お土産を買ってこよう。
そういう余裕があるかわからないので、今は言わないでおく。
「では、行ってきますね」
「ああ、行ってらっしゃい!」
パウウルの見送りを受けつつ、太陽寮を出てユリウスと落ち合ったのだった。
今日もユリウスが先にきていた。
「お待たせしました」
「いいや、今来たところだ」
人に見られないうちに、早急に行動に起こす。
月寮の生徒はほとんど出かけてしまったらしい。
ブラザー達も寮の監視員以外いないようで、校舎のほうはもぬけの殻となっているようだ。
ユリウスは屋根裏で発見した骨を包んで背負っている。
これ以上増えませんように、と祈りつつ屋根裏へ向かった。
校内は施錠されているので、校舎をよじ登って屋根裏の窓から中へと入る。
ユリウスは最短の侵入ルートを考えていたようで、案内してくれる。
木を伝って二階に上り、さらにバルコニーから窓枠に飛び移って屋根を目指す。
ユリウスは慣れた様子で、するすると上って行っていた。
「アルヴィが運動神経がよくて助かった」
「その、ついて行くことができてよかったです」
どうしてこんなことができるのかと言うと、ユリウスは幼少期によく屋敷を抜け出し、街をぶらぶらしていたらしい。
「今振り返れば、誘拐されなくてよかったと思っている」
「子どもの独り歩き、恐ろしいですよね」
幼少期のユリウスはさぞかし愛らしかっただろう。一度も誘拐されずにここまで生きてこられたことを、奇跡のように思った。
なんて話を挟みながら、屋根の上に到達することができた。
屋根裏の窓は施錠されていないので、難なく侵入したのである。
昼間でも、屋根裏は薄暗くて不気味だった。
漂う異臭も相変わらずである。
ユリウスは侵入ルートを考えるために、昨日の夜にここまで来ていたらしい。
「そのように危険なことをされていたとは」
「まあ、暇を持て余していたからな」
次にそのようなことをするときは、私を誘ってほしいと伝えておく。
「迷惑だろうと思って」
「迷惑なんかではありません」
「そうか……わかった。次はアルヴィも誘おう」
一人で危険なことをさせるよりも、一緒のほうがいいだろう。
今回、外から異変を感じ取れないように、暗幕を窓に張り付けておく。
続いてユリウスは前回と同じように、聖術で光の球を作り出す。
明るく照らすよう、大きめに展開させた。すると、屋根裏は一気に明るくなる。
初めて全貌を目にした私達は、絶句してしまった。
これまで闇に包まれていた屋根裏に、無数の骨が散らばっていたから。
頭蓋骨もいくつか確認できた。
「――っ!!」
これだけの白骨化した遺体があれば、異臭もするはずである。
「なんなんだ、これは」
「いったい何人分のご遺体なんでしょうか?」
近くにあった骨は、ずいぶんと月日が経っているように思えてならない。
何年、何十年と前から、ここに隠しているようにしか見えなかった。
「ここにある骨をすべて持って行くのは無理だろう。というか、一つを確認すれば十分だ」
ユリウスは傍にあった頭蓋骨に聖水を振りかけてから、祈りを捧げる。私も彼のあとに続いた。
魂が穏やかになるように祈ったあと、ユリウスは頭蓋骨に布を被せて包む。
それを先日拾った骨と一緒に背負った。
「まず、医者のところに行って、調査を頼もう」
「そうですね」
神学校の敷地内の外に馬車を待たせているという。
それに乗って、聖都シエルに行くようだ。