軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

診療所へ

聖都シエルは断食期間中だからか、大通りの食堂のほとんどは閉店し、人通りも少なくなっていた。

「国民の中で断食を行うのは聖職者や 敬虔(けいけん) な信者など、ほんの一部なんだがな。国の方針として示されているから、営業したくてもできない状況なんだろう」

閉店しているように見せかけて、裏で営業しているお店もあるという。

裏口から入って、こっそり注文するらしい。

いろいろ大変なんだな、と思ってしまう。

馬車は大通りを抜け、ギリギリ通れるくらいの狭い道を過ぎ、石畳がでこぼこな下町に到着する。

「ここからは歩きになる」

「わかりました」

馬車が走行できるほど道が広くないらしい。

狭い道では子ども達が歩いていたが、ユリウスの姿を発見するとギョッとし、悲鳴を上げて逃げていった。

そんな様子を見て、ユリウスはため息をひとつ零す。

「あの、先ほどの子ども達はいったい……?」

「貴族に 搾取(さくしゅ) されると思ったのだろう」

その昔、なんでも貴族が労働力を得るために、下町の子を拐かす事件があったらしい。

「ホフマン家が関わった事件も、貴族全体がやっていると思い込んでいる者も多いようで、このとおり避けられている」

「そういうわけだったのですね」

遠くからも子どもの声で「貴族がやってきた! 窓を閉めて!」なんて声が聞こえてくる。ユリウスは切なげな表情を浮かべ、目的地まで向かった。

行き着いた先は、診療所の看板を掲げる建物。

壁には蔓がびっしり這っていて、扉は外れかけている。窓から見える中の様子も薄暗く、機能している建物とは思えない。

ユリウスは慣れた様子で扉を開くと、中へと入っていく。

「先生、いるか?」

「はいは~い、いますよお」

のんびりとした返事が奥の部屋から聞こえた。

「その声は、ユリウス君かな?」

「ああ、そうだ」

ずんずん奥へと入る。

内部はかなり老朽化しているようだ。床は湿気をたっぷり吸っているからか、歩いているとボヨンボヨンという妙な弾力があった。

診察室らしき部屋には、ボサボサ頭に無精髭を生やした、白衣姿の男性がいた。

年齢はよくわからない。

若くも見えるし、年老いたようにも見える。

年齢不詳というやつだろう。

ユリウスが先生と呼ぶ男性は私を見るなり、パチパチと手を叩いて喜び始めた。

「わあ、ユリウス君が恋人を連れてくるなんて!! 今夜はお祝いだあ!!」

「まだ恋人じゃない!!」

まだとは? と思ったものの、きっと聞き違いだろう。

今はその発言を気にしている場合ではなかった。

「じゃあ、恋人候補を紹介しに来てくれたの?」

「そんなわけあるか! 今日、紹介したいのはこいつらだ!」

ユリウスはそう言って背負っていた包みを先生の前に置き、結びを開いて見せる。

はらり、と布の下から登場したのは、頭蓋骨と腕と思わしき骨。

「ぎゃあ!!」

突然だったからか、先生は跳び上がって驚いていた。

もっと出しようがあったのでは……と思ってしまう。

すぐにユリウスがごめんなさいと謝ってしまった。

「いや、いいけれど、びっっくりしたあ! これ、どこで貰ってきたの?」

「神学校の校舎の屋根裏にあった。これだけではない。他にも大量にある」

「ひえええええええ……!」

先生は戦々恐々とした様子で頭蓋骨と骨を覗き込む。

「うわあ、これ、うわあ……」

「何かわかるのか?」

「これね、うーーん、きちんと魔法で解析しないとわからないけれど、全身の血を抜かれて死んだご遺体だと思うよ」

「なっ――!?」

先生は腕の骨を手に取り、机に向かって軽く叩きつける。

すると、あっさり砕けて折れてしまった。

「普通の骨だったら、こんなに簡単に折れやしないんだ」

先生は引き出しから同じような骨を取りだす。

「これもね、人の骨なんだけれど」

「どうして机にあるんだ?」

「処刑された罪人の骨だよ。競売にかけられていたんだよねえ。献体として競り落としたんだよお」

ユリウスの顔は思いっきり引きつっていた。

私は人々の健康のために必要なのだろう、と自らに言い聞かせ、なるべく顔に出さないようにする。

「魔力が骨にまったく残っていない証拠だよ」

「魔力、ですか」

「そう! この国では聖力って呼ばれているかなあ」

ここでユリウスが先生の紹介をしてくれる。

「彼はクーリィ・ジャム。アインホルン聖国では珍しい〝魔法医〟だ」

魔法医、という存在を初めて知った。

なんでも魔法医というのは魔法の力で診断し、魔法薬を処方してケガや病を癒やす存在だという。

「祖国から亡命したあと、行き倒れているところを、ユリウス君に助けてもらったんだよね」

この建物も、ユリウスが買い与えたものだという。

「もっとまともな建物にしたほうがいいって言ったんだが、ここにしたいと聞かなくって」

「いやあ、もう二度と忙しくなりたくないから」

なんでも祖国では患者が国中から殺到し、寝る暇もないくらいだったという。

「ここでの穏やかな暮らしを提供してくれたユリウス君には、感謝しかないよ~」

「おおげさな」

「謙遜しないで」

話が逸れてしまった。

「この頭蓋骨と骨は、詳しく解析したいから、預かってもいいのかな?」

「ああ、むしろ預かってほしいと頭を下げようとしていたところだ」

あの日から、ユリウスは毎晩のように悪夢をみていたという。

「悪夢かあ……。まあ、死んだあと、こんな姿で放置されたら、怒りたくなる気持ちもわかるよねえ」

頭蓋骨の数から、相当な人数のご遺体があることがわかる。

ユリウスがみた悪夢で、ミイラみたいに全身の血を抜かれたような姿をした者から、〝我々の体をどこにやった〟と訴えられた話を思い出す。

あれは複数体の亡くなった魂が、救いを求めるメッセージだったのかもしれない。

「まあ、この国はいろいろご事情があるようだから……。問題は誰がやったのか、だよねえ」

「ああ……」

もしかしたら屋根裏に、行方不明となった者の亡骸があるのではないか。

ユリウスの兄バルドルも……なんて思ったものの、言い出すことはできなかった。

「何はともあれ、骨を調べることが先決かな。何かわかったら、魔法で手紙を飛ばすから」

「ああ、頼む」

ひとまず先生に解析を任せ、私達は診療所をあとにしたのだった。