軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ホフマン家の厄介者

急ぎ足で帰り道を通り抜ける。

そんな中で、ユリウスがぽつりと呟くように言った、

「ホフマン家か……。厄介な一族に目を付けられたな」

「商人一家、とおっしゃっていましたね」

「ああ。ホフマン家が経営するホフマン商会が取り扱う商品は、この世に存在するものすべてと言われている」

そんなふうに聞いたら単純に、品揃えが豊富なお店だという印象しかない。

しかしながら、扱う商品を知ったらそうも言えなくなるという。

「違法薬物に人身売買、偽装旅券に偽装手形――」

商品のラインナップを聞いただけで、関わってはいけない商店だと思ってしまう。

「あの商会は代々、一族の者達だけで経営していると言われている」

そんなホフマン家の者が家業を継がずに神学校に通っているということは、余程の問題児なのだろうとユリウスは推測していた。

「いったいなぜ、突然あのように絡んできたのでしょうか?」

「断食で苛ついているときに、私達が偶然前を通りかかったからとしか思えないのだが」

もう一つ、ユリウスには心当たりがあったという。

「数年前に、父がホフマン商会を摘発した、なんて話を耳にした覚えがある」

なんでも仕事があると言って集めた人々を、次々と売り払っていた事件があったらしい。

「その者達はオブリガシオン王国から招き入れた移民だったという」

国家間の争いの種になると危惧したユリウスの父、エーデル公爵が介入し、事件は解決したという。

「オブリガシオン王国にも報告し、身柄を預かっていた移民を返還したようだが、当時は国宝の崩御と王位継承権の問題で事は大きくならなかったようだ」

「そんな騒動があったのですね」

その事件以降、エーデル公爵家とホフマン家はぴりついた関係が続いているようだ。

「まさか私にまで飛び火が降りかかるとは……」

ユリウスは私にも迷惑をかけたと謝罪する。

「いいえ、お気になさらずに」

それよりも気になるのは、私とユリウスがまるで恋人関係だと決めつけるような噂である。

「謂われのない噂が神学校の外部にまで知れ渡ったら、逆に迷惑をかけてしまいます」

「外部に? どうしてそう思った?」

「いえ、ユリウスが将来を約束しているお方が耳にしたら、ショックを受けるのではないかと思いまして」

「ああ、そういう懸念か。心配するな、婚約者はいない」

エーデル公爵が決めた婚約者がいたようだが、神学校への入学をきっかけに関係を解消したという。

「兄がいなくなった途端、後継者扱いするかのように名家の令嬢を婚約者に立ててきたことが不快だった」

ユリウスはエーデル公爵家の 予備(スペア) として育てられた。

本来であれば、その役割をまっとうしなければならない。

けれども一族の者達から半端者だと非難され、家族も兄バルドル以外ユリウスを気にかけることはなかった。

長年そういう扱いをしながら、次代のエーデル公爵であるはずだった兄バルドルが行方不明になった途端、手のひらを返したように態度が変わったという。

ただそういう流れになるのも、兄バルドルが亡くなったのならば理解できる。

「兄は行方不明なだけで、死んだわけではない」

ユリウスはそう信じて捜索を重ねているのに、一族の者達は死んでしまったような扱いをしていたという。

「それが許せなくて、父が決めた相手との結婚も拒絶した」

相手は十五歳と年若く、次の婚約者を見つけるまでの猶予は残されている。

一度も会ったことがないご令嬢だという。

「この先も、彼女と顔を合わせることはないだろう」

遠い目をしながら語っていた。

そんな話をしているうちに、寮の敷地内に行き着く。

「すまない、長々と話してしまって」

「いいえ、話してくれて、ありがとうございます」

一方的に話を聞く形となり、申し訳なく思う。

けれどもオブリガシオン王国出身である私の素性を明かすわけにはいかない。

きっとこの先も、聞き役ばかり務めるのだろう。

「また明日」

「ええ」

ユリウスと別れ、太陽寮へ帰ったのだった。

一階の食堂前では、すでにお腹を空かせた生徒達が集まっていた。

床に膝を突き、食堂の扉に向かって祈りを捧げるような姿でいる。

こういう神に救いを求める者達の宗教画があったような、なんて思いつつ部屋に戻った。

「ただいま戻りました」

床に転がっていたパウウルが「お帰り……」と力ない声で返してくれる。

「あの、パウウル、どうしてそのような場所に転がっているのですが?」

「寝台に寝転がる余力もなくて」

「そうだったのですね」

夕食の時間までまだ一時間以上ある。それまで耐えきれるのか心配になった。

いつもより大人しい、フィン、ヘィン、ホィンの三つ子も普段と異なる行動を見せる。

フィンは虚ろな目で聖書を読んでいた。よくみたら本が逆さまで、ページもまったく進んでいない。

ヘィンはホィンをフィンと呼んで話しかけている。

ホィンは白目を剥きかけつつ、ヘィンに対して「そうだよね、フィン」と言葉を返していた。

食事を一食抜いただけで、皆、極限状態になっているようだ。

私も彼らを見習い、なるべく体力と気力を消費しないよう、静かに過ごしたのだった。

そして――ついに訪れる食事の時間。

皆、どこに元気を残していたのか、と思うくらい勢いよく食堂へ下りていく。

ブラザーが目を輝かせているので、食堂に入ったら控えめで大人しくなり、食事が載ったトレイを受け取って席に着く。

点呼にはきはきと返事をしたあと、神への感謝の祈りを捧げ、待望の食事をいただくこととなった。

空っぽになっている胃がびっくりしないように、卵を溶いただけのスープからいただく。 指先からじんわり温まり、体全体がぽかぽかになる。

皆、心地よい湯に浸かっているような表情でスープを飲んでいた。

二品目はマッシュポテト。おそらく味付けは塩のみだが、これが信じられないくらいおいしい。

一食抜くことによって、普段当たり前のように食べていた食事への感謝の気持ちが極限まで高まる。

これが断食を行う目的でもあるのだろう。

おいしい食事を最後まで味わい、部屋へ戻ったのだった。