軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第32話・魔国女王メトゥス・ラウルスリム②

朝の魔国王城は、砂漠の乾いた熱気と、森の冷ややかな風が、まだ拮抗している時間帯だった。

東の空から差し込む陽光は、すでに白く強い。だが、城の石壁は夜の冷たさをまだ抱えており、廊下にはひんやりとした空気が残っている。遠くの中庭では、獣人兵たちが掛け声を上げ、ドワーフの工房からは早くも金槌の音が響き始めていた。

その喧噪から、もっとも遠い場所のひとつ――女王執務室。

メトゥス・ラウルスリムは、夜のうちに軽く結い直した銀髪を、背中に流したまま机に向かっていた。深い森色の簡素なローブ。肩だけ厚手の生地で補強され、長時間の執務に耐えられる仕立てだ。

机の上には、すでにいくつもの書類の束が積み上がっている。

地方税収の報告。

軍備の補充計画。

祭事の出席予定。

南王国との交易量推移。

それらにひとつひとつ目を通しながら、メトゥスは細身の指で、迷いなく署名を加えてゆく。

「……次は、南王国駐在大使からの報告です、陛下」

斜め後ろに控えていた書記官が、一通の封書を差し出した。

王国仕様の封蝋。舶来の香料の、かすかな匂いがする。

「ありがとう。優先度は?」

「『特記すべき事象あり』との記載がございます」

メトゥスは頷き、封を切った。

中から現れたのは、几帳面な筆致の報告書だ。目を通していくうちに、彼女の半眼気味の紫水晶が、わずかに光を飲む。

そこには、こう綴られていた。

――暑い季節でも、室内を涼しく保つ新機構、『エアコン』と呼ばれる装置の実験が行われていること。

――魔力と水、あるいは特定の鉱石を用いた冷却術式を、部屋全体に巡らせる仕組みであること。

――まだ持続時間も範囲も限られているが、その場を体験した大使自身が「心が穏やかになるほどの快適さ」と評したこと。

そして、別の段落には――

――王都の貴族街で、石鹸の品質が飛躍的に向上していること。

――香りや泡立ち、汚れ落ち、肌触りのすべてにおいて、従来品とは別物と呼んで差し支えないこと。

――これら新石鹸は、いずれ平民にも出回る予定だが、今のところは王家とごく一部の高位貴族のみが使用していること。

そうした記述が、整然と並んでいた。

(……ふむ)

メトゥスは、報告書から視線を離さないまま、心の中で小さく息をついた。

暑い季節でも室内を涼しく冷やす『エアコン』。

石鹸の品質向上。

どちらも、単体だけを取り上げれば「便利な新技術」の一つに過ぎない。

だが――

(……知恵者がいる。それも国の中枢に)

そう結論づけるのに、さほど時間はかからなかった。

南の王国における技術発展の流れは、魔国にもよく知られている。

まず、王家――国王や第一王女といった王族の周辺で、試験的な技術が芽吹く。

そこに王族の意向で貴族たちが取り込まれ、改良が加えられ、形が整えられる。

ある程度、安定した品質と安全性が確認されてから、ようやく「型落ち」したものが、平民向けとして開放される。

最初に王族が豊かな暮らしを享受し、その後に恵みを民へ与える。

王政の道筋としては非常に正しい。

支配者階級が自らを実験台にし、責任を負う構図とも言える。

つまり。

今、王都の中枢で進んでいるこの技術革新は――王家に近い「技術者」あるいは「知恵者」が、王族と協調して動いている証左だ。

これがもし、どこかの平民街で偶然生まれた天才が齎した発明だったなら、必ず歪みが生じる。

貴族が権力を盾に設計図を奪おうとする。

王命を掲げて、王族側が無理に接収しようとする。

学者が天才を囲い込み、自らの功績として取り込もうとする。

その過程で、騒ぎや対立が起きないはずがない。

……南王国には、魔国が放った「草」がいる。

もちろん、南王国も同じことをしているだろう。魔国にも、彼らの草がいるに違いない。

それは国という単位で見れば、ほとんど礼儀作法の一部のようなものだ。

信頼と友好を謳いつつ、腹の内まで丸ごと晒すほど愚かではいられない。

だが――問題は、そこから上がってくる報告の内容だった。

「……内乱の気配も、技術者争奪戦の噂も、まったく無し、ね」

メトゥスは、指先で報告書の余白を軽く叩いた。

書記官が、おそるおそる問いかける。

「なにか、不穏な点でも?」

「不穏、というより――整いすぎているのです」

淡々とした口調で返しながら、メトゥスは別の束から、南王国関連の情報を一枚引き抜いた。

王国貴族たちの最近の動向。

新興商会の台頭。

王都で噂されている流行りの遊戯や菓子。

ざっと目を通した限りでは、「異常な天才」が民草の中から現れた痕跡は見当たらない。

特定の一家だけが急激に財を成した形跡もない。

平民街で妙な騒ぎが頻発しているわけでもない。

(草たちが見落としている……とは考えづらいわね)

魔国の諜報網は、決して苛烈ではないが、王国相手にはそれなり以上の実績を誇ってきた。

少なくとも、「突如として天才が現れ、平民の中から這い上がった」なら、その痕跡は掴めるはずだ。

それがない。

にもかかわらず、ここ一年ほどで、王国の技術発展速度は目に見えて加速している。

「つまり、『何処からともなく現れた知恵者が、いつの間にか国の中枢にいる』状況、というわけですね……」

書記官が、恐る恐る言葉を繋いだ。

メトゥスは小さく頷く。

「ええ。それがもっとも自然な推論でしょう」

貴族側で発明があったのなら、こうはいかない。

欲深い貴族たちが、功績の取り合いで争う。

王家が、その功績を王権の下に取り込もうとする。

誰が前に出て、誰が一歩引いたのか。そうした人間臭い駆け引きの跡が、情報の端々に滲み出るはずだ。

だが、ない。

何事もなかったかのように、成果だけが王家のもとに集まり、王都の上層に流れ込み、穏やかに定着している。

(南の王国で……何かが起こっている……)

メトゥスの視線が、机の上から徐々に遠くへと向かう。

城の外。

砂漠。

森。

そして、その更に先にある、王国の海。

隣国が栄えること自体は、歓迎すべきことだ。

友好条約を結ぶ相手が、貧困と混乱に沈めば、交易も成り立たない。支え合うべき相手が弱り切っていては、いざという時、互いに背中を預けられなくなる。

あ(・) る(・) 程(・) 度(・) 栄えてもらわなければ困る――それは偽らざる本音だ。

だが――

( あ(・) る(・) 程(・) 度(・) で、止まってもらわなければいけないのも、また事実)

それは、魔国を統べる者としての視点だった。

魔国の魔導技術は、これまでは南王国の上を行っていた。

少なくとも、一年前までは、確実に。

魔導器の精度と応用力、軍事運用、樹海との距離を活かした資源利用――。

今も「一応」は上だ。

まだ優位は保たれている。

だが、もしもこのまま、王国が「知恵者」の発明によって栄え続けたら――。

魔国の優位は、時間の問題で崩れるかもしれない。

優位が崩れたから即座に敵になる、という話ではない。

だが、力の均衡が変われば、女帝の目線も変わる。

女帝が見る「枝葉」の取捨選択は、常に冷徹だ。

森の西側に、力を欠いた国がぶら下がっているより。

森の南側に、豊かで力強い国が伸びている方が、「全体」としては均衡が取れる――そう判断されれば。

(……西の森にとって、「切り捨てる価値しかない枝」になりかねないわね、こちらが)

メトゥスは、無意識に胸元の樹のブローチに指を添えた。

冷たい金属の感触が、思考を少しだけ落ち着かせてくれる。

「宰相を呼んでください。それから、情報局の長も」

彼女は、書記官に静かに命じた。

書記官が慌ただしく部屋を出て行く。

短い沈黙。

メトゥスは、その間に一枚の紙を引き寄せ、さらさらと何かを書きつけた。

南王国に対する情報収集の優先度変更。

特に、「新技術に関わる人物の洗い出し」を目的とした項目が追加されていく。

ただし――そこには明確な制限も書き加えられた。

王国の内部安定を乱す行動は禁止。

友好条約を損なうような直接介入は禁止。

知恵者の「奪取」も禁ずる。

(……ここで乱暴な手を打てば、一番得をするのは――帝国か、大樹海の魔物たちだもの)

メトゥスは唇の内側をわずかに噛んだ。

自国の優位を守るために、軽率に友好国の足を引っ張るつもりはない。

ただ、知っておく必要がある。

誰が、どこから来て、何を望んで、その技術を齎しているのか。

その知恵者が、王国にとって、ただの祝福なのか。

それとも、何か別の意図を孕んだ「種火」なのか。

「まずは、負担を押し付けられるのが誰か、きちんと見極めないとね」

ふと、いつもの口癖が、半ば独り言のように漏れた。

南王国の技術発展がこのまま続けば、最初に負担を押し付けられるのは、魔国だ。

力の均衡が崩れた時、大樹海の西側の「枝」がどう扱われるかを、真っ先に味わわされる立場にある。

(……調べる必要があるわ)

メトゥスは、もう一度、ゆっくりと心の中で繰り返した。

隣国が栄えるのは良い。

本当によいことだ。

ただし、その栄え方が、森の均衡をどう揺るがすか。

その一点だけは、決して見過ごせない。

ほどなくして、扉が叩かれる音が響いた。

「宰相、参りました」

「情報局長も到着しております」

次々と報告が届く。

「入りなさい」

女王の声は、静かで、よく通った。

扉が開き、重鎮たちが順に入室する。

その視線のいくつかは、今朝もやはり「空白の王冠」に向けられるものだった。

それでもメトゥスは何も言わない。

言い返す必要もない。

彼女はただ、机の上の報告書を軽く指で叩き、集まった者たちへと向き直った。

「南の王国で――何かが起きています」

短い一言で、場の意識が一気に引き締まる。

「調査を開始しましょう。ただし、友好国に泥を塗らぬ形で。これは、魔国の――いえ、この森の西側に生きる全ての者にとっての、保険です」

その瞳には、昨夜読んだ英雄譚のような派手な輝きはない。

代わりにあるのは、借り物の平和を少しでも長く保つための、冷静な現実主義者の光だ。

机の上には、南王国関連の資料が幾つも広げられている。

技術発展の年表。

ここ一年間の交易量の推移。

王都周辺の地図と、王族の動向を示す報告書。

「――まず、南王国の新技術に関する情報収集の枠組みから詰めていきましょう」

メトゥスは、いつも通りの落ち着いた声で口火を切った。

その瞳は、机の上の紙ではなく、集まった顔ぶれの一人ひとりを、静かに見つめている。

宰相が一歩進み出た。

「は。情報局との連携を強化し、王都近辺の動向を優先的に――」

そこで、言葉が途切れた。

メトゥスの瞳が、ふいに宙をさまよったからだ。

何かを見ているようでいて、何も見ていない。

いつも半眼気味の紫水晶が、すっと焦点を失い、遠いどこかに意識を持っていかれた人間特有の、微妙な空白をつくる。

「陛下?」

宰相の声が、ごく低く響く。

続いて、情報局長も眉をひそめた。

「女王?」

だが、メトゥスはそれどころではなかった。

――声が、届いたからだ。

『息災か? 魔国の王よ』

音として耳で聞くのではない。

鼓膜を震わせるのではなく、脳の奥底に、直接「意味」が流し込まれる。

だが、それは紛れもなく「声」だった。

低く、澄み、森のざわめきと土の匂いを伴ったような響き。

大樹海西部を縄張りとする者。

魔国の真の守護者。

太古よりそこに在る、「この土地の主権」を持つ存在。

樹神女帝(ドライアド・エンプレス) 。

森には、稀に 樹精霊(ドライアド) が生まれる。

魔物の一種でありながら、森を守護する希少種。

森を友とするエルフたちにとっては、畏敬と憧憬の対象でもある。

今、メトゥスへと言葉を投げかけているのは、その中でも最古の個体。

何千年、あるいは何万年も前から生き続けているとされる、世界の生き字引。

その力は、もはや上位神にも並ぶと噂される、世界最古のドライアド。

樹神女帝。

メトゥスは、喉の奥で息を飲んだ。

(……また、声を)

「陛下? ご気分が優れませんか」

重臣たちの声が、遠く聞こえる。

メトゥスは、わずかに手を上げて制した。

そして、短く言う。

「……失礼。今、森の西の主より、言葉を賜っています」

その一言で、室内の空気が一変した。

樹神女帝の名を、魔国の全国民が知っているわけではない。

むしろ、「そこに途方もない何かがいるらしい」程度の朧げな認識に留まる者の方が多い。

だが、この場に集う上層部は違う。

武官も、文官も、この国の根幹に関わる者なら、誰もが一度は叩き込まれる。

女帝の強大さも、恐ろしさも、時折見せる慈悲も――そして、何よりも、その圧倒的な無関心さも。

息を呑む音が、いくつも重なった。

冗談を挟む者など、一人もいない。

言葉を遮るなど、考えただけで背筋が凍る。

重苦しい沈黙の中、女帝の声が、再びメトゥスの内側を満たす。

『今から伝える日に、我が住処まで来るが良い』

短く、簡潔な命令。

どこか、人間の言語とずれているようでいて、意味だけは鮮明だ。

女帝は、日付を告げた。

森の暦と、人の暦がかろうじて噛み合うよう調整された、特定の日。

メトゥスの頭の中で、瞬時に予定表がめくられていく。

(……その日なら、祭事も無い。軍事行動の予定も無し。外交儀礼も、他の日に分散できる)

王としての義務を果たした上で、日程を空けられる。

女王は、赴ける。

魔物が蔓延る樹海の中を、ただ闇雲に進むのは自殺行為だ。

だが、女帝の住処へと至る「道」を辿るのなら別だ。

道そのものが、森の意志によって護られている。

メトゥス自身、優れた魔導師でもある。

女帝が許した経路を進むならば、少なくとも「たどり着くこと」について心配する必要はない。

帰り道については、あまり考えたくないが――そこは、考えても無駄だと経験が教えていた。

『ではな』

女帝の声が、すっと引いていく。

『腹を空かせておくがいい……ふふ、楽しい物が見れるやも知れんぞ?』

最後に添えられた言葉は、奇妙に人間臭かった。

腹を空かせておけ。

楽しいものが見られるかもしれない。

食事の心配をする上位存在というのは、どうにも絵面が妙だ。

だが、その「ふふ」という含み笑いに、メトゥスは背筋の冷たさを覚える。

その「楽しさ」が、誰にとってのものか。

女帝自身か。

森全体か。

あるいは、別の何者か。

人間にとっての「楽しい」と一致する保証は、どこにもない。

ふっと、意識を締めつけていた圧が消えた。

女帝からの「通信」が終わったのだ。

メトゥスは、肩の力を抜くようにして、大きく息を吐き出した。

肺の奥に溜まっていた空気が、一気に入れ替わる。

「……ふぅ」

椅子の背もたれに、ほんの少しだけ身を預けた。

120年生きて。

樹神女帝の声を、こうして直接聞いたのは、まだ二度目だ。

初めては――父を救ってほしいと願った時。

荒い息を繰り返す父の枕元で、幼いメトゥスは必死に祈った。

森に向かって。

大樹海に向かって。

その中心に座すとされる、女帝に向かって。

どうか、と。

どうか、この人を。

その願いは、届いたのだろう。

だからこそ、声が返ってきた。

耳ではなく、胸の奥に刻まれた言葉。

――それは、枯れ落ちる枝だ。

ただ一言。

ただ、それだけ。

枝葉の一本。

落とされる部分。落ちても問題ない部分。

救わない理由を、丁寧に説明することすらしない。

それ以上の言葉は、なかった。

今、二度目の声は――一方的な召喚だった。

選択の余地など、どこにもない。

口を挟めば、枝葉として落とされるのは、こちらの方。

メトゥスは思考を現在に引き戻し、集まっている重臣たちを見渡した。

誰もが息を詰めたまま、女王の言葉を待っている。

「……先ほども申し上げた通りです」

喉の奥に残る微かな震えを、言葉に出る前に飲み込む。

「森の西の主――樹神女帝より、召喚を受けました。指定された日付に、女帝の住処へ赴きます」

一瞬、室内の空気が波打った。

宰相が、すぐに一歩踏み出す。

「日程の調整を」

「王都の防備は、私が」

「代理として、誰を――」

言葉が交錯しかけたところで、メトゥスは手を上げた。

「落ち着きなさい」

静かだが、よく通る声。

重臣たちは、反射的に口を閉ざした。

「日付は、ここです」

机の端に置かれた予定表に、女王は指先で印をつける。

情報局長が身を乗り出し、目を細めた。

「幸い、祭事も、他国の公式行事も、重なっておりませんな」

「軍の大規模演習も、予定されておりませんね」

軍務官が続ける。

「陛下ご不在の間の政務は、我らで分担して処理いたしましょう。緊急時の裁可については――」

「三名以上の合議制とします。宰相、法務局長、軍務局長、情報局長、いずれか三人の署名をもって、臨時の王命としましょう」

メトゥスは、淡々と段取りを組んでいく。

誰か一人が暴走しないように。

かといって、決裁が滞り過ぎないように。

借り物の平和の管理人として、こうした手続きは慣れたものだ。

「……女帝の言葉の真意を確かめる術はありません」

ぽつりと漏らした一言に、室内の温度が、わずかに下がる。

「森が何を見て、何を測り、どのような判断をなさるのか。それは、人の手の届かぬところの話です」

だから。

「私に許されているのは、ただひとつ。召喚を受け入れ、指定された日に、そこへ向かうことだけです」

受け入れるのみ。

それが、この国の王に許された、唯一の選択。

沈黙を破ったのは、老エルフの宰相だった。

「……陛下。女帝は、腹を空かせておけと?」

言葉の端に、かすかな迷いと恐れが混じっている。

「腹を空かせておけ」という表現は、人間にとって、あまり穏やかな想像を呼び起こさない。

メトゥスは、ほんの一瞬だけ考え――わずかに肩をすくめた。

「森の流儀での「もてなし」の予告、と受け取っておきましょう」

それが、楽観か、自嘲か、自衛本能か。

本人にすら、判然としない。

ただ、これだけは確かだった。

樹神女帝が、百二十年に一度しか言葉をかけてこなかった少女に、今、再び呼びかけている。

その意味を、人の尺度で測るのは不可能だ。

メトゥスは深く息を吸い、軽く吐き出した。

「――では。女帝の召喚に応じる前提で、南王国の調査計画を進めます。女帝の御心と、王国の『知恵者』の動きが、どこかで結びついているのかどうか……それを知るためにも」

借り物の平和の支えが、少しだけ軋んだ気がした。

それが気のせいであってくれることを、彼女は心のどこかで願いながら。

魔国の女王は、世界の森の女帝に呼ばれた日の印を見つめ、静かに指先を握りしめる。

女帝が指定した日付。それは三日後――何が待ち受けているのか。

この時点ではメトゥスに知る由もなかった。