軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第143話・進まない会議

魔境の大森林、南部。

有羽の居住空間内のログハウスにて、世界の上位存在が集まっていた。

有羽、スキエンティア、女帝、そしてニクス。

女帝のみ、通信用の宝玉越しでの参加だが、世界有数の存在が顔を合わせていることに違いはない。全員が、目前に迫った破滅的な未来に備えて対応策を考えている。

ニクスから語られた世界の真実。黒竜大魔、神聖国、そして有羽の存在理由まで。

全てを知った今、世渡有羽は自身の選択を決める段階に来ていた――。

「ま、俺がどの選択を選ぶにしても……神聖国はどうにかしなきゃならんよな?」

自室の椅子に座り直して、天井を見上げる有羽。

全員が似たような表情。つまるところ、どのような道を選ぶにせよ……北の神聖国を放置することはできない。光の神を擁する、かの国こそ全ての元凶なのだから。

ここでの無視は有り得ない――あまりに世界の癌すぎる独善を、無視はできない。

「ニクス。仮に光輝神と戦うとなったら、どうなる? 俺たちに勝ち目はあるのか?」

有羽は見上げていた天井から視線を戻し、向かいに座るニクスに問いかける。

それは重要な問いだ。全ての元凶と一戦交えるとなった場合、はたして勝負の天秤はどちらに傾くのか。それを測れる者は、四年間近くで潜伏していたニクスだけだろう。

有羽だけでなく、女帝も真剣な眼差しを向ける。

すると。

「――正直、森の番人の誰が相手しても、アイツには勝てると思うぜ」

拍子抜けなほど端的に、勝てる相手だとニクスは断じた。

『……えらく、あっさり言うの。そんなにあれか? 雑魚なのかあやつは?』

「いや、雑魚じゃねぇよ」

ニクスは即座に首を振る。

「分身体の俺じゃ、普通に勝ち目はない。腐っても上位神。世界の格付けをすれば、上から数えた方が高い 存在格(レベル) だと思うぜ」

女帝の疑問に、ニクスは光の神の強大さを示す。

相手は決して容易くない。仮にも上位神だ。真っ向勝負で勝ちの目を拾える者は、世界中探しても片手で足りる程度であろう。

そして、その片手の範疇に森の番人がいるだけ。甘い相手ではない。

しかし、だ。

「だけどなぁ……ほら、加護ばら撒いてるって言っただろ? それによる力の分散も多少あると思うんだよ。そもそも、俺が四年も潜伏できたくらいにザルなんだし。千年も箱庭経営して鈍ってんだよ、きっとな」

「そこはお前さんの腕前も良かったんじゃねぇのか? 俺だって、お前がここに近づいてくるの気がつけなかったぞ?」

有羽は今日、アウローラたちの接近に気付けなかった。

最初はしばらく昏倒していたが故の、体の不調が原因と思っていたが……ニクスの正体を知った今、その理由は明確だ。

ニクスの優れた結界術。神聖国から遠回りでここまでやってきた、やって来れた理由の多くにニクスの実力が並みはずれていることも関係している。

とはいえ、自分の実力を高くは見積もっていないのか、ニクスはただただ苦笑を浮かべるばかり。

「それくらいしか取り柄がないだけだ。攻撃的な力は、殆ど本体が所有してる。俺に出来ることは結界と、自身の隠蔽くらいで……そりゃ、少しくらいは戦闘も出来るけどさぁ」

『白い見た目のせいか、隠者より貧弱に見えるしのぉそなたは』

「おい女帝さん。それ、遠回しに俺が貧弱そうって言ってない?」

『いやぁ? そんなことはないぞ隠者?』

じろりと睨む有羽の視線を、愉快そうに笑いながら受け流す女帝。映像越しではなく、実際にこの場に女帝がいたのなら、すぐにでも取っ組み合いが始まりそうな気配。

そんな二人の様子を、ニクスはジト目で眺めつつ……問題の本質を示した。

「問題は力の大小じゃなくて――あんたら番人が森から出れないってところだ」

「お」

『う』

呻くような二者の声。何か反論しようとして……何も言えない、西と南の森の番人。

「……そういやそうだ。そうだった。俺とか特に、森から出たら死んじゃうじゃん……」

『我はどうなるんじゃろうな……隠者のように死ぬことはないと思うが』

「枯れるんじゃね? 知らんけど」

『うーむ、有り得そうで非常に困るのぉ……』

女帝は、心底げんなりした顔で溜息を吐く。

有羽は考える。有羽自身が森の外に出たら、すぐさま命が枯渇して「三人目」に交代することが、ほぼ確定だろう。

女帝はというと……こちらは分からない。何しろ女帝自身、森の外に出た事がない。

ただ、碌な事にならないだろう。有羽の言うように、枯れる未来も考えられる。

そうなった場合、おそらく――。

『新しい 樹精霊(ドライアド) が番人に据えられるのじゃろうな……まったく、ふざけた森よ』

「ホントにな」

「まったくだ」

有羽もニクスも、同じ顔で頷き合う。

魔境の森はふざけた存在。どこまでも無慈悲な安定装置。それは皆が分かっている。

だから今考えなければならないことは、森の無慈悲さではない。どうやって神聖国を止めるか、そして誰が光の神を打倒するかだ。

有羽も女帝も外には出れない。ならば打つ手は――。

「――ソルは、わたしが相手をするよ」

静かに、スキエンティアが声を落とす。

低く落ち着いた――それでいて氷のように冷たい声色。

その眼鏡越しの瞳は、どこまでも冷え切っていて。

「ソルとは、わたしが戦う。あいつはわたしに任せて」

そう断言した。光の神は自分が倒すと、一切揺るぎない声で。

その硬い音を聞いた有羽は、眉を寄せながら問いかける。

問いかけには、女神を心配する労わりの色が宿っていた。

「……大丈夫なのか、女神さん? そりゃ女神さんだって強いとは思うけど、相手はそもそも女神さんの同僚――」

「あんなの、もう同僚じゃない」

まるで、斧を振り下ろすような容赦のない言い切り。

スキエンティアの声に宿る感情は、何もない。嫌悪も怒気も、何一つ。

「同僚なんかじゃないんだよ、有羽君」

ただただ、対象を排除するだけの無感情。

思わず有羽が息を呑む。上位神が、探求神が、今明確に力を振るうと断言した。

有羽と同格のその力を。太古の昔より世界に君臨する神の力を使って、光の神を殺すのだと。

だが。

『……でも、お主が地上で暴れたら、覇皇神が動くと思うんじゃが?』

「あ」

横から女帝に突っ込まれるスキエンティア。

呻く女神。そういえばそうだったと言わんばかりの顔。

上位神の一角であるスキエンティアが地上で力を振るい、ソルと戦えば……間違いなくヴェルミクルムは動き出す。盤面を安定させるため、両者の戦いに介入するだろう。

その結果、どうなるかは全く分からない。ただ、問題が増加することだけは確実である。

そして最悪なことに気づいた有羽が、冷や汗垂らしながらぼやく。

「というか、俺らも同じじゃね? 仮に森の外に出れても、覇皇神にバレたら……」

『うむ……まあ、探求神ほど目に留まらぬだろうが……』

女帝は思う。結局のところ、早いか遅いかの違いでしかないと。

全員、思わず沈黙。痛いくらいの静寂が、有羽の自室内に充満する。

無言。どうしたものかと考えつつ……耐えきれなくなった有羽が、ぽつりと。

「……えーと、結論は?」

『勝ち目は十分。誰が戦うことになっても、光の神はボコボコに出来る』

「ただし、ボコボコにしに行くことが出来ない。森の外に出れないのが二名。動けるけど、お上が動き出すの確定なのが一名。で、流石に分身の俺じゃ勝ち目は皆無」

「つまり?」

有羽が問い返すと、またしても全員沈黙。

ただ……ただ流石に黙ったままではいられないので、スキエンティアが手をあげながら発言を。

代表者スキエンティアが、結論を言葉にする――。

「神聖国が森にちょっかい出すまで、わたしたちは何も出来ないね……あ、あは、あははははは……」

――そんな、どうしようもない結論。

当然のように、それはもう弾け飛ぶように、残りの三名が唾飛ばしながら叫び出す。

「雁首揃えて会議して、話がまったく進まねぇじゃねぇか! どうなってんだいったい!?」

「俺に言うな! 仕方ねぇだろうが!! お前らが、揃いも揃って森から出れねぇんだからよぉ!?」

『なんじゃと!? 我が悪いとでも言う気か貴様!? 若白髪(わかしらが) の分際でよう言うわ!!』

「誰が若白髪だ! 俺の髪は、雪の純白!! スノーホワイトと言うんだよ!!」

「何がスノーだ何が!! この雪だるま野郎!!」

「ああ!? やるか兄弟!? やる気なら相手になってやるぞ!!」

『やかましいわ、この黒白双子!! 少しは黙っとれ!!』

ぎゃあぎゃあ。

醜い言い争いが部屋に響く。結界を張っているため、この罵詈雑言が外に漏れることはない。アウローラたちのもとまで一切届かないだろう。ただ、世界の上位存在が口汚く罵り合うだけだ。

三人の、悪ガキ同士の口喧嘩を視界に納めつつ……スキエンティアは脳内で、現状を纏め上げた。

(――とりあえず、わたしたちだけじゃ駄目ってことだよね。神と、神に近しい存在が力を合わせても、今の状況を打破することができない)

そう。それが結論。それが答え。

今、世界に迫っている危機は超常存在が動けば、それでどうにかなる類のものではない。

神聖国は人の国だ。だから、それをどうにかするためには――。

(――力がいる。超常の力じゃなくて……地上を生きる、人間の力が)

そうして思い浮かべる。部屋の外にいる、王国の第二王女を。

ログハウスの外、庭の客間にいるであろう、あのお日様の王女を。

超常だけでは動けない。

人間だけでは届かない。

ならば必要なのは――その両方。

それこそが、この詰みかけた盤面をひっくり返す、最初の一手。