軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

戦後と陞爵(2)

ルフェーヴルが顔を上げると、ベルナールとアリスティードが満足そうに微笑む。

周りの貴族達はルフェーヴルの陞爵を祝うように拍手を行い、国王の決定に異議がないことを示した。

「報奨金に関しては他の者達と同様、討ち取った相手の立場と数に応じて出そう。もちろん、敵国の王太子を捕縛したという功績も考慮しての金額となる」

「ありがとうございます」

ルフェーヴルは恐らく、今回の戦争で最も多く敵軍の指揮官達を討ち取ったはずである。

それらだけでもかなりの額の報奨金になるだろうが、王太子の件もとなると、確かに報奨金だけで済ませるのはどうかという話になる。

既に子爵位にいるので、伯爵位を授けるというのは妥当なところだったのだろう。

「今後も我が国のため、尽力するように」

「かしこまりました」

ルフェーヴルは立ち上がり、礼を執ってから下がる。

多くの貴族達の視線を受けながら謁見の間を後にする。

そのまま貴族達の列に並んでも良かったが、子爵だった者が我が物顔で伯爵位の列に並び、周囲の貴族と余計な軋轢を生む必要はない。

何より、ベルナールとアリスティードが下がった後に他の貴族達に話しかけられるのも面倒だ。

ルフェーヴルは社交も全くしていないので、今回、こうして出てきたことが非常に珍しく、この機会を逃さんと声をかけてくる貴族もいるだろう。

国王や王太子との縁を繋ぎたがる貴族は多い。

さっさと出てしまったほうが色々と楽である。

廊下へ出て、背後で扉が閉まると、アリスティードの侍従がまだ待っていた。

「応接室へご案内いたします」

どうやらベルナールの侍従は主人の下へ戻ったらしい。

アリスティードの侍従の案内で応接室へ移動した。

謁見の間近くの応接室へ通されるかと思いきや意外と歩かされる。到着したのはかなり奥にある応接室だった。

それだけルフェーヴルを信用しているということか。

王城は奥へ進むほど、国王や王太子の政務室などに近くなるため、普通はこれほど奥まで通されることはない。

……まあ、義理の家族だし〜?

通された部屋に入れば、すぐに紅茶が用意された。

ルフェーヴルはその紅茶を一口飲んだ。

紅茶はベルナールやアリスティード、そしてリュシエンヌが愛飲している高級なもので、それを出す相手も限られてくる。

つまり、ルフェーヴルは王族が愛飲する紅茶を出す相手、王族にとって重要な人物であり、家族であり、歓待する相手であるという証であった。

……そう思うと悪い気はしないよねぇ。

どんなものでも飲食出来る自負はあるが、やはり、味の良いものを口に出来るなら、それに越したことはない。

ルフェーヴルはしばし、紅茶を楽しんだ。

クッキーやケーキなどの食べ物も用意されていたけれど、それには手をつけなかった。

家に帰ればリュシエンヌに陞爵を改めて話すことになるだろうし、どうせなら、愛する妻とティータイムをゆっくり楽しみたい。

屋敷を出る前、目を輝かせてルフェーヴルを見つめてきたリュシエンヌを思い出しながら、二杯ほど紅茶を飲み終えたところで部屋の扉が叩かれた。

ずっと控えていたアリスティードの侍従が応対し、そして、ベルナールとアリスティードが入ってきた。

その後ろからベルナールの侍従も入室したが、それだけだったので、ルフェーヴルはソファーに腰掛けたまま、ひらりと片手を上げる。

「お疲れ様ぁ」

ゆるいルフェーヴルの態度にベルナールとアリスティードが、よく似た顔に苦笑を浮かべ、ルフェーヴルの斜向かいと正面のソファーへそれぞれ着席した。

アリスティードの侍従が動き、新しい紅茶を用意する。

ルフェーヴルは三杯目は断った。

ベルナールとアリスティードが、自身のティーカップに口をつける。

「それで、話ってなぁに〜?」

ソファーの背もたれにどっかりと寄りかかり、両肘を乗せたルフェーヴルにアリスティードが呆れた顔をする。

「先ほどまではきちんとしていたのに……」

「だって義父上とアリスティードの前で外面してたって意味ないでしょぉ?」

「まあ、それはそうなんだが」

ベルナールがティーカップとソーサーをテーブルへ置く。

「話は報奨金についてだが、その前に、お前は討ち取ってきた者の首を持ったままだろう」

「あ、そういえばそうだっけ〜? でもさぁ、ヴェデバルド王国が金を用意出来なかったんだしぃ、仕方なくなぁい?」

捕虜となった王太子や貴族の身代金は受け取ったが、討ち取った者達の首を返してほしいとは言われていない。

ヴェデバルド王国からしたら、金を払って死体を引き取ることになるので、少しでも払う額を減らしたかったのかもしれないが。

「ヴェデバルド王国から、討ち取られた指揮官の首の返還を求められた」

「へぇ、意外だねぇ」

「だが、金はまだ用意出来ていないらしい」

さすがに複数人分の身代金──と言っていいものかは分からないが──をすぐには用意出来なかったようだ。

王太子と貴族達のために周辺領地から金をかき集めただろうから、それ以上となると、どうしても即座に出すのは難しいのだろう。

ルフェーヴルがニヤリと口角を引き上げた。

「金が用意出来なきゃ渡せないねぇ」

先に返還して、なかったことにされても困る。

ルフェーヴルとしては空間魔法に放り込んでいるので腐らないし、向こうが金を払うまで、いつまででも入れておける。

あとはヴェデバルド王国次第であった。

アリスティードが若干身を引く。

「お前、悪どい顔してるぞ」

「ええ〜? オレは当然の権利を主張しただけだよぉ。オレが討ち取った相手の首なんだから、それをどうするかはオレの問題だしぃ、敗戦国のくせに『金は払えないけど物は欲しい』は通らないよぉ」

ルフェーヴルは武勲の証明のために首を持ち帰った。

それは戦争ではごく普通のことで、討ち取られた者の首が返ってこないのも珍しくはない。

返すか否かはルフェーヴルの気持ち次第だ。

「あちらは『遺体が傷んでしまう前に返還を望む』と言っているがな」

ベルナールの言葉にルフェーヴルは、あは、と笑った。

「とりあえず『空間魔法で保管しているので支払いの目処がついたら連絡くださぁい』って伝えといて〜」

ヴェデバルド王国の『遺体が腐ったらそっちも困るでしょ? だから早めに物だけちょうだい』という催促だと分かっていて、ルフェーヴルはそう言った。

言葉は優しいが、要は『払うものを払ってからな』と返事をするわけである。

しかも空間魔法に入れておけば時間の経過はない。

ヴェデバルド王国が支払いを諦めるか、ルフェーヴルが持っているのが嫌になって返すか、どちらかだろう。

ただし、ルフェーヴルが『返す』選択をすることはない。

「今回の戦争で伯爵位は得られたしぃ、金も手に入るけどぉ、一月もリュシーと離れ離れだったんだから、その分、それなりの額はもらわないとねぇ」

貴族の一員として招集されての参加だが、ヴェデバルド王国が宣戦布告などしなければルフェーヴルはリュシエンヌと穏やかな一月を過ごせたはずだ。

その時間を奪われた以上、対価はしっかり取る。

「分かった。ヴェデバルド王国にはそう伝えておこう」

「ヨロシク〜」

ベルナールが頷き、ルフェーヴルがひらひらと手を振る。

「それはともかく、これがお前の報奨金だ」

ベルナールが軽く手を上げると、ベルナールの侍従が静かに近寄って来て、空間魔法から箱を取り出した。

ルフェーヴルはそれに内心感心した。

空間魔法は闇属性で、ある程度の親和性がなければ扱えない。

この侍従は闇属性に親和性があり、空間魔法を扱えるくらいには魔法に秀でているということだ。

テーブルの上に置かれた箱をルフェーヴルは持ち上げ、膝の上に置いた。なかなかの重さで、箱を傾けると中からジャランと金属同士の擦れる音がする。

鍵を渡され、箱の正面の穴へそれを差し込み、回すと、箱が開いた。中身は全て金貨だった。

「一月分の収入にしては悪くないねぇ」

すぐに箱を閉じて鍵をかけ直すと、ルフェーヴルは膝の上に空間魔法を展開させて、鍵ごと箱を収納した。

その様子に一瞬、ベルナールの侍従が目を見張る。

空間魔法をここまで自由自在に展開出来る者はそういない。

少なくとも、ルフェーヴルは自分以外にこれを行える者を見たことがない。

ベルナールが小さく笑みを浮かべた。

「数えなくていいのか?」

「義父上がケチるとは思ってないよぉ。この金はオレに渡されたけどぉ、結局はリュシーのものになるんだしぃ」

ベルナールは血の繋がりがないと言っても、リュシエンヌを娘として可愛がっているので、報奨金の額を誤魔化すようなつまらない真似はしないだろう。

最初に雇われた時から、ベルナールは依頼料を値引きしたり、支払いを渋ったりしたことは一度もなく、仕事に関して理解のある雇用主だった。

ルフェーヴルなりにベルナールを信用している。

だから、わざわざ金額を確かめる必要はない。

「話はそれだけ〜?」

「ああ」

「じゃあオレは帰るよぉ」

ルフェーヴルはソファーから立ち上がった。

ベルナールもアリスティードも引き留めはしない。

いつでも連絡は取れるし、会おうと思えばルフェーヴルは転移魔法で即座に会える。

転移魔法の詠唱を始めたルフェーヴルに、アリスティードが声をかけた。

「また、落ち着いたら茶会をしよう」

ルフェーヴルは『了解』の意味を込めて、片手を上げた。

そして転移魔法が発動し、視界が切り替わった。

* * * * *

居間で過ごしているとルルが転移魔法で帰って来た。

「おかえり」と声をかけると「ただいまぁ」と返ってくる。

ソファーに座っているわたしの横に、ルルも腰掛けた。

「どうだった?」

と聞くと、いつも通りの声でルルが言う。

「伯爵位をもらったよぉ。まあ、相変わらず領地もなし、私兵もなしの宮廷貴族のままだけどねぇ」

「ルルの場合、お父様の侍従とか側近として仕えてるわけでもないから『幽霊貴族』って言うほうが正しいかも」

「幽霊貴族?」

「うん、そこにいるけどいないって言うか、存在はするけど仕事はしてない感じを幽霊に喩えた感じ」

わたしの言葉にルルが「そうだねぇ」と笑った。

本来、伯爵位を授かるなら領地は持っていて当たり前なのだけれど、ルルもわたしも領地をもらったとしても上手く扱えない。

領地につきっきりになるのをルルは好まないだろう。

……一応、ドランザーク鉱山はわたし所有だけど。

あれも結局は王家が管理をしてくれている。

「オレはもうニコルソン伯爵だしぃ、リュシーは伯爵夫人だよぉ。報奨金ももらったから、陞爵のお祝いでもする〜?」

「お祝いかあ」

わたしは何もしてないのでお祝いと聞いてもあまりピンとこなかった。

「ルルは陞爵のお祝いしたい?」

「ん〜、リュシーがしたいならすればいいかなぁ」

ルルもそれほど爵位にこだわりや興味はないらしい。

考えて、ふと思いつく。

「それなら、屋敷のみんなにお祝い金って名目で臨時給金を出さない? わたし達がいない間もお屋敷を整えてくれたり、警備したりしてくれていたんだし」

「使用人はソレが仕事だよぉ。でも、悪くないかもねぇ。金払いの良い雇い主ってのは信用も得られやすいしぃ」

ルルが頷く様子に、わたしは思わず訊き返した。

「それってお父様のこと?」

ルルがおかしそうに小さく笑った。

「そうだよぉ。義父上は昔っから金払いが良くてさぁ、だからオレも義父上の依頼は優先して受けてたなぁ。金払いの良さは今も変わらないけどねぇ」

そう言って、ルルが空間魔法から大きな箱を取り出した。

所々に金属を使った木製の箱は、どう見ても宝箱だった。

「これが今回の報奨金だよぉ」

パカ、とルルが箱を開けると大量の金貨が中にあった。

つい「うわあ……!」と声を上げてしまった。

わたしは慌てて箱を閉める。

「こんな大金、怖くて触れないよ……!」

「ドランザーク鉱山で金塊は触ったのに〜?」

「あれはお金って感じじゃなかったし……」

金と聞いても鉱物や金属の仲間みたいな感覚だった。

だが、同じ金でも、金貨となると途端にお金だと思う。

無造作に取り出して見せるものではない。

「リュシーは面白いねぇ」

ルルが金貨の入った箱を膝の上に置き、頬杖をつく。

「これだけ金があればぁ、使用人達にちょ〜っとあげても問題なさそうだねぇ」

「……わたしから言っておいてだけど、本当にいいの? これはルルが頑張って稼いだお金なのに」

「オレのものはオレのもの。でも、オレのものはリュシーのものでもあるからぁ、リュシーがそうしたいならすればいいよぉ。そりゃあ、金はあっても困らないけどさぁ、金払いの悪い主人は使用人に嫌われて、裏切られることもあるからねぇ」

わたしは使用人達に労いの意味を込めて払いたいのだが、どうやらルルは裏切り防止のために使うというイメージらしい。

どちらにしても、お金がもらえたら嬉しいだろう。

この屋敷の使用人達は物静かで、淡々としていて、滅多に表情を変えない人達ばかりなので喜んでいる姿は想像がつかないが。

「あと、リスティナ辺境伯に『果物を買いに行きます』って手紙を送らないとねぇ。報奨金で果物沢山買おっかぁ」

「買ったら、しばらく食後の果物祭りが出来そうだね」

ルルが楽しそうに笑ってわたしを見る。

毎日、新鮮な果物が食べられるなんて幸せだ。

想像していたら、つん、とルルに鼻先をつつかれた。

「出征のおかげでリスティナ辺境伯領まで転移を使えるようになったからすぐに買いに行けるし、優先して売ってもらえるしぃ、ず〜っと果物祭りだねぇ」

わたしの考えなんてお見通しらしい。