軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新婚旅行(4)

クリューガー公爵領に来て四日目。

今日は宝飾店と武器屋に行く予定だ。

どちらも珍しくルルが出した希望である。

「リュシーが今持ってる宝石類って王女時代のものばっかりでしょ? 普段使いとかもあったらいいのかなぁってさぁ。もう人目を気にしなくていんだしぃ、ちょっとくらい着飾っても誰も文句言わないしぃ」

とのことであった。

王女時代、わたしはあまり宝飾品を身につけることを良しとしなかった。

旧王家唯一の生き残りであるわたしがあんまり宝石などを身につけていたら、前国王達のように贅沢をしている風に見えるかもしれないと思うと、つける気にはなれなかったのだ。

それにわたし自身はそこまで宝石に興味ないし。

でもルルがそう言うなら、つけてもいいかな、くらいの気持ちはある。

好きな人の前では出来るだけ綺麗でいたい。

宝飾店と武器屋は以前行った場所だ。

今日はお 義姉様(ねえさま) は急用が入ってしまったそうで、来られなくなってしまったらしい。

ちょっと残念だけど、ルルは気にしてないようだ。

「じゃあ、そろそろ行こうかぁ」

宝飾店と武器屋にはそれぞれお義姉様の方から連絡を入れてくれてあるそうで、わたし達が行っても驚かれることはない。

……まあ、前回は王女と侍従で、今度は子爵夫妻になって来たら驚くよね。

「うん」

差し出されたルルの腕に自分の手を添える。

別荘を出て、用意してあった馬車へと乗り込んだ。

湖の周りはちょっとした森になっているので、馬車で街に出る必要があるのだ。

今朝もルルと馬車に乗って街へ出て、少しだけ近くを散策したけれど、朝の街というのも面白い。

「リュシーはどういうものが欲しい〜?」

ルルの問いにうーん、と悩む。

「わたし、あんまり宝石のこと分からないし、ルルがわたしに似合いそうなものを選んでくれたら嬉しいな」

そうしたら、それを使う度にルルを思い出せる。

ルルはわたしの言葉に頷いた。

「いいよぉ、リュシーに似合うのを選ぶねぇ」

……まあ、ルルの場合はわたしに似合わないものは絶対買わないと思うけどね。

「あ、あとルルとお揃いのものが欲しい」

「お揃い〜?」

「うん、ほら、カフスボタンとかブローチとか、男性でも宝石をつけるでしょ? わたしも同じ宝石のネックレスとかピアスをつけられたらいいなって」

ルルは結婚後、好きな格好で過ごしていいと言ってくれて、でもわたしは大体ドレスで過ごしている。

さっきも思ったけど、綺麗な姿をルルに見て欲しいからだ。

そうすると、ルルも私服はわたしのドレスに合う装いをしてくれる。

ラフな格好ではなく、わたしの横に並んでもおかしくない格好をわざわざしてくれるのが嬉しい。

そういう時にカフスボタンやブローチは要る。

別にどこかのお茶会や夜会に出るわけではないけれど、たまに、二人で綺麗に着飾ってお茶会をしたり、ダンスを踊ったりして過ごすこともある。

「そうだねぇ、お揃いを増やすのは賛成かなぁ」

横に座るルルがわたしの手に自分の手を重ねる。

そこにはルルがくれた婚約指輪が輝いていた。

お父様が用意してくれた結婚指輪もあるが、ルルがくれた婚約指輪の方が色々と良いので、いつもこれを身につけている。

見上げたルルの耳には片側だけピアスがあった。

これもわたしとお揃いで、もう片方はわたしが身につけていて、一対を二人で分け合って使っているのだ。

「でも派手なのじゃなくていいからね」

「分かってるよぉ。リュシーが好きなのは控えめで可愛い感じのやつでしょぉ?」

「うん、そう」

「それにあんまり大きくて重いと耳につけたら耳朶が赤くなっちゃうしぃ、首にかけると疲れちゃうからねぇ」

ルルはきちんと分かってくれているらしい。

王女時代、大きな飾りのついたピアスをしたら、重みで少し痛くて、耳朶が赤くなってしまったことがある。

ネックレスも派手なものだと肩が凝るし、動き難い。

だから控えめなものの方が好きだ。

そんな話をしているうちに、馬車は目的地へ到着した。

お店のある通りは人が多いため、少し手前で馬車を降りて、短い距離を歩く。

前に来てから二年と経っていないので、それほど何かが変わった様子はない。

道の左右にあるお店を眺めながら進む。

相変わらずブレスレットやネックレスなど色々なものが売られており、活気があって、華やかな雰囲気である。

それらを眺めながら進めば、目的地に到着した。

ヴィエラさんがお店の扉を開ける。

「ようこそ、お越しくださいました」

前回と同じく、お腹の出た恰幅の良い男性が出迎えてくれる。

きちんとした格好で、薄い髪を丁寧に整えてあり、鼻の下にちょっとだけ髭がある。

ニコニコと笑みを浮かべていて気取った感じがないのも前のままだ。

「お久しぶりですね」

わたしがそう声をかけると男性が頷いた。

「はい、夫人も子爵もお元気そうで何よりでございます。……おや、その指輪、こちらで購入していただいたものですね?」

わたしとルルがつけている指輪にすぐに気付いた。

だからわたしとルルは同時に頷いた。

「ええ、夫が買ってくれた婚約指輪ですから」

「ほほほ、夫婦仲が良くて羨ましい限りです。それにピアスも大事に使ってくださっているのですね」

嬉しそうに男性が笑う。

ここは工房も兼ねているので、作ったものを売って、それが大事に扱われているのが嬉しいのだろう。

「今日はオレの奥さんに似合うものを買いに来たんだけどぉ、あんまり派手すぎなくて品の良いものってある〜?」

ルルの問いに男性がうんうんと頷いた。

「ええ、ございますとも。店内に並べられた商品をご自由にご覧になってください。もし試着したいものがありましたら、遠慮なくお申し付けください」

ということだったので、ルルと二人で店内をゆっくりと見て回ることにした。

前回は持ってきてもらったものを眺めていたが、こうして、飾ってあるものを眺めて買うかどうか決める方が断然楽しい。

宝石は色々な種類があり、どれも鮮やかで、キラキラしている。

それらが繊細な金銀細工に、誂えたようによく調和していて──実際、宝石に合うように作られているのだろうけれど──、とても美しい。

派手なものは欲しくないが、眺める分には楽しいものだ。

「これ、リュシーに似合いそ〜」

ルルが指差した先には金のネックレスに小さな緑色の宝石が並び、トップの部分だけ、少し大きな緑色の宝石がついている。

派手すぎないけど華やかで、確かに品が良い。

金だから、わたしの瞳とも色が合うだろう。

男性がそっと近付いて来る。

「試着されますか?」

「うん、試してみたいなぁ」

ルルの言葉に男性がケースからネックレスを取り出した。

それをヴィエラさんが受け取り、ルルがわたしの首元のリボンを外した。

そうしてヴィエラさんが後ろに回って、わたしにネックレスをつけてくれた。

見た目よりも意外と軽くてつけ心地もいい。

ルルが男性から鏡を受け取って見せてくれた。

「うん、いいねぇ」

今は灰色の瞳だけど、本来の瞳の色に戻せば、きっと似合うだろう。

「こちらは同じ意匠でピアスもございます」

「それも出してぇ」

「かしこまりました」

ルルが即座に反応して、男性がすぐにケースからピアスも出す。

ピアスはルルが持って、わたしの耳元に掲げた。

「似合う?」

ルルが頷いた。

「すっごく似合うよぉ」

ルルがピアスを男性に返す。

「ピアスとネックレス、両方買うよぉ。それから、これと同じ宝石か意匠で、カフスボタンかブローチはなぁい?」

「カフスボタンでしたら同じ宝石でございます」

「それも買うよぉ」

終始、そんな感じでわたし達の買い物は進んでいった。

ルルも特にこだわりはないらしく、わたしに似合うものを選んで、それと同じ宝石か意匠のもので自分の分を揃えて買う、という具合だった。

……ちょっと買いすぎたかも?

心配になったけど、ルルは難なく代金を支払っていた。

男性が会計をしている間にこっそりルルに訊いてみる。

「あんなに買って、お金大丈夫?」

ルルが笑って頷いた。

「大丈夫だよぉ。前にギルドランク戦でリュシーがオレに賭けたでしょぉ? あれがたんまりあるからぁ」

「そういえば、そんなこともあったね」

あの時賭けたお金は何倍にもなって返ってきた。

確かに、渡した時よりも返ってきた時の方が随分と大きな袋になっていた気がする。

わたしもルルもそれから屋敷に引きこもっていたので、そのお金を使うことがなかったのだろう。

「こういう時こそ使わないとねぇ」

そういうことらしい。

会計を終えた男性がお釣りを持って戻って来る。

それをルルに渡している時に、ふと、男性がルルのつけている指輪を見て「おや?」という顔をした。

「もしや指輪に付与魔法を施されていらっしゃるのでは?」

「そうだよぉ、これって使ってるのが魔石でしょぉ? で、土台部分も魔鉱に魔石が砕いて混ぜてあるからさぁ、結構付与出来るんだよねぇ」

魔鉱というのは魔力に親和性のある鉱石のことだ。

それを使った剣や防具、装飾品には魔法を付与出来る。

魔石もそうだ。魔力を保有することの出来る宝石で、どちらも、魔道具では必要なものだ。

男性がまじまじと差し出したルルの手の指輪を見て、わたしの方の指輪にも目を向け、驚いた顔をする。

「まさか、こんな素晴らしい魔法を複数も付与出来る方がいらっしゃるとは……!」

ルルがスッと目を細めた。

「何で付与されてるのが複数だって分かったの?」

少しひんやりとした空気が漂う。

それに男性がハッと我へ返った。

「申し訳ございません、実は私のスキルは物だけに限定して鑑定を行えるというものなのです」

それにわたしとルルの方が今度は驚いた。

基本的にスキルは人に明かすようなものではない。

たとえば親や兄弟などの家族ならばともかく、それ以外の人間に教えることはあまり良くないとされている。

他人のスキルを勝手に別の人間に教えただけでも、教会の法に触れるくらいだ。

スキルというのは繊細な話題である。

「ああ、ご心配には及びません。私の場合はこのスキルについて公言しております。商人としてはありがたいスキルですよ」

男性が朗らかに笑った。

ルルが「なるほどねぇ」と言う。

「指輪に鑑定をかけたってわけかぁ」

「はい、失礼をいたしました。しかし、それほどの魔法を付与出来る者もそういないでしょう。よろしければどなたが付与したかお訊きしても?」

「訊いてどうするのぉ?」

ルルの問いに男性が目を輝かせた。

「もちろん、この工房で働かないか勧誘するのです。魔法の付与、それも、複数も同時に付与出来る逸材を見つけたのですから、欲しいと思うのは当然でしょう」

それにルルが笑う。

「でもそいつにはもう別に仕事があるからねぇ」

そいつ──……付与をした張本人であるルルの言葉に男性が更に訊く。

「そうなのですか? やはりもう別の商会に?」

「いんやぁ、そもそも全く違う仕事をしてるよぉ。付与とは関係のないやつでねぇ。本人はそれ以外に移るつもりはないみたいだよぉ」

「それは勿体ない……」

男性が酷く残念そうな顔をする。

「もしその方が心変わりするようでしたら、我が商会に是非来て欲しいとお伝えいただけないでしょうか?」

……その本人、目の前にいるけどね。

ルルが自分には関係ありませんと言う顔で頷く。

「いいよぉ、伝えておくねぇ」

「ありがとうございます」

目が合ったルルがニッと口角を引き上げた。

……もう、ルルったら。

買ったものは全部、別荘に送ってもらえるそうだ。

お店を出て、馬車に乗り込む。

馬車が動き出してからルルに訊いた。

「なんでルルが付与したって言わなかったの?」

ルルの手が腰に回る。

「ん〜、しつこく勧誘されそうだったからぁ。それにオレは 暗殺者(ほんしょく) の方が性に合ってるんだよぉ。宝飾品相手にずーっと向き合ってるとかつまらないしぃ」

「でもルル、あんまり他人が好きじゃないよね?」

ルルが頷いた。

「そうだねぇ、他人は好きじゃないけどぉ、人間相手に騙したり戦ったりするのは刺激があって好きだよぉ。それに実入りもいいしぃ」

……うん、なんかルルらしい。

そこで『暗殺者としての誇りがある』っていう感じじゃないところに、ルルの普通じゃない部分が透けて見える。

ルルについて教えてもらった時にも言っていたが、ルルにとって、これまでの人生は退屈だったらしい。

暗殺者の仕事は刺激があって楽しいようだ。

「だからぁ、付与魔法士として働くのは今はいいかなぁってぇ。でもそのうち本職が厳しくなったら方向転換するのもいいかもねぇ」

それは意外な言葉だった。

「暗殺者、辞めるの?」

「今すぐじゃないけどぉ、この仕事って体に負担がかかることも多いからぁ、それなりの歳になったら辞めて後継者を育てるっていうのが基本かなぁ」

「そうなんだね」

……後継者かあ。

ルルの時みたいに、子供を引き取ってきて訓練させるのだろうか。

きっとルルも容赦なく訓練するだろう。

ルルの師匠がそうだったように。

「でもそれだけじゃあ食べていけないからねぇ。他に手に職つけとかないとぉ」

それもそうか、と頷いた。

後継者を育てるということは、その分、むしろ養う人数が増えるということだ。

そのためにも他に職を持っていた方が安定する。

「じゃあ、暗殺者を退いたら付与魔法士として働く?」

ルルが笑って「それもいいよねぇ」と言った。

「転移魔法があるからココにはすぐ来られるしぃ、歳老いたら付与魔法士になってぇ、屋敷で付与して納品してってのんびり暮らすのも悪くないかもねぇ」

そうしたら、ルルと一緒にいられるだろう。

「まあ、まだまだ先の話だけどねぇ」

それでも、ルルと未来の話が出来るのは嬉しい。

その時までわたしと一緒にいてくれるということだから。

「ルルが付与魔法士になったらきっと大人気だよ」

だって、こんなに凄い付与が出来るのだ。

ルルはもっと自分のことを誇ってもいいと思う。