軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・36

宰相の一声で、静まり返る。

それを見て、リーノはゆっくりと語り出した。

「ジーナシス王国では、魔女の条件というものが決められていて、それに当てはまらない者は、魔女と認識しない。魔女は必ず、私と同じ髪色で生まれる。だから、あなたは違うわ」

カサンドラの髪は、ふたりの異母兄と同じ金髪である。

自分の髪に両手で触れたカサンドラは激高し、嘘だと繰り返した。

「私は魔女よ。あなたたちの国の条件なんか知らないわ」

「そうね。名乗るのは自由よ」

カサンドラは、クロエたちの予想よりもずっとわがままで、短気な性格だった。

エーリヒを餌にしなくても、その言葉だけで逆上して、リーノを攻撃してきた。

「勝手なことばかり言って。私を、誰だと思っているの?」

カサンドラの感情に呼応するように、会場中に置かれていたグラスが砕け散る。

「私は、魔女よ。今の言葉を訂正しなさい!」

悲鳴が上がった。

けれどリーノは動じず、視線を会場中に巡らせる。

それだけで、グラスはすべて元通りになった。

人々が驚きの声を上げる中、リーノがクロエに目配せをする。

クロエも、小さく頷いた。

順番は変わってしまったが、先にこの爆弾のような王女に退場してもらった方が良いかもしれない。

カサンドラはしばらく会場中の物を壊して暴れていたが、リーノがすべて直してしまう。

アダナーニ国王が何度も制したが、まったく言うことを聞かなかった。

最近のカサンドラは、とても不安定になっている。

パーティの前日に、アリーシャがそう言っていたことを、クロエは思い出す。

エーリヒが去ってから癇癪が酷くなっていたが、彼がクロエと婚約してから、それがますます悪化していたらしい。

「何度も言うけれど、あなたは魔女ではない。この国がそう決めたとしても、ジーナシス王国では、あなたを魔女と認めない。魔女ではないのだから、魔力には限界があるの。あまり無作為に使い続けると、魔力が枯渇してしまうわ」

「私は魔女よ。魔力もまだ、充分に!」

カサンドラはそう叫んだ。

クロエは、エーリヒの陰に隠れてそんな彼女を見据えていた。

(うーん、たしかに魔力はすごいわ)

豊富な魔力量は、このまま朝まで暴れていたとしても、枯渇することはないかもしれない。

でも、こんな子どものようにただ暴れるだけの人に、魔法を使わせるわけにはいかない。

魔力が桁違いなので、サージェのように簡単にはいかない。

でも扉をイメージして、彼女の魔力を封じ込めていく。

「……っ」

自らの魔力が急激に減ったことに、カサンドラも気が付いたのだろう。

青ざめた顔で、自らの体を抱いた。

「カサンドラ?」

様子がおかしいことに気が付いた国王が、娘にそう呼びかける。

でも心配しているのは国王ひとりだけで、他の人たちは皆、恐ろしいものを見るような目で、カサンドラを見ていた。

「嫌……。どうしてこんなことに……。た、助けて」

手を差し伸べても、誰も助けようとしない。

誰もが視線を逸らし、後退していく。

カサンドラの周囲には、誰もいなくなっていた。

「どうして助けないのよ。私は、魔女で、王女よ? 誰か……」

彷徨っていたカサンドラの視線が、エーリヒに向けられた。

「エーリヒ、助けて。私のところに戻ってきてよ!」

悲痛な声でそう叫ぶカサンドラを、エーリヒは冷たい目で見つめていた。

「なぜ、俺が助けると思える?」

「え……」

エーリヒの憎悪しか感じさせない声と表情に、カサンドラが怯む。

彼女は本気で、エーリヒが助けてくれると信じていたのだろうか。

「どうして……」

その隙に、クロエは扉を完成させた。

(あとは、扉を閉めて……)

魔力がほとんどなくなってしまったのがわかるのか、カサンドラは悲鳴を上げてその場に突っ伏した。

「嫌よ、私の魔力が……」

泣き叫ぶカサンドラに、誰も駆け寄らない。

少し哀れに思うが、今までの結果が返ってきただけだ。

完全に扉を閉じて、固く鍵を閉める。

これでもう、カサンドラは魔法を使うことができない。

リーノを見ると、彼女は小さく頷いた。

「あなたは魔女ではないのに、魔女のように力を使うから、こんなことになってしまったのよ。王城のパーティ会場で、こんな騒ぎを起こして暴れるなんて」

呆れたようなリーノの言葉に、ざわめきが広がる。

今までこの国唯一の魔女として、わがまま放題に振る舞ってきた王女が、その魔力を失い、しかもジーナシス王国の魔女によって、魔女ではないと宣言されてしまったのだ。

「カサンドラの魔力は、戻るのだろうか」

アダナーニ国王が震える声で問いかけたが、リーノは首を横に振る。

「いいえ。こんなに無茶な魔法を使って急激に失ってしまったら、もう戻ることはないでしょう」

国王は動揺していたが、さすがに歓迎パーティだということは忘れていなかったらしい。

カサンドラを連れ出させ、こんな騒ぎになってしまったことをリーノに謝罪した。

「クロエ、大丈夫か」

やり遂げたことで、少しぼうっとしてしまったらしい。

エーリヒの心配そうな声で、我に返る。

「うん、大丈夫。ただ少し疲れてしまって」

心配そうに抱き寄せられ、素直にその胸に寄りかかる。

「王女殿下は、これからどうなるのかしら」

「これだけ悪名が広まると、王女としての価値もなくなっている。このまま地方で静養するだろうな」

「……そうね」

「クロエが罪悪感を覚える必要はない。自業自得だ」

エーリヒの言葉にそっと頷くと、リーノの声が聞こえてきた。

こちらも始まったようだ。

「カサンドラ王女殿下は魔女ではなかったけれど、でもこの国には私たちと同じ、本物の魔女がいた。でもその魔女は、この国で虐げられ、追放されて行方知れずになってしまった」

リーノの言葉に、先ほどよりも大きなざわめきが聞こえてきた。

「この国に、本物の魔女が?」

「虐げられていた、とは?」

リーノは噂をしている貴族たちを見渡し、その中からふたりの名前を呼んだ。

メルティガル侯爵。

そして、キリフ。

呼ばれたふたりは、怪訝そうな顔をして、リーノを見ている。

「先ほど、魔女は必ず私と同じ髪色をしていると説明しました。この色に、見覚えはありませんか?」

反応したのは、キリフが先だった。

「ま、まさか、クロエ?」

そう言われてようやく、父もクロエがそうだったと思い出したようだ。

「父親に虐待され、婚約者に捨てられて失踪したクロエ嬢は、私たちの仲間。この国で生まれた、本物の魔女でした」

リーノがそう言うと、父もキリフも真っ青になった。

「知らなかった。クロエがそうだと知っていたら、あんなことはしなかった!」

キリフはそう喚いた。

「クロエが魔女だと? 何てことだ。念願の魔女が、私の娘だったとは」

ふたりとも、失ったものの大きさに愕然としていて、周囲から向けられる厳しい視線には気が付かない。

「すぐに探し出します。クロエは、私の婚約者で……」

「クロエは私の娘です。メルティガル侯爵は、娘に継がせます」

あまりにも利己的な言葉に、さすがにカサンドラのことで意気消沈していた国王も苦い顔をした。

「もう遅いわ。クロエ嬢は亡くなっている。これが、王都の闇市で売られていたの」

リーノが差し出したのは、クロエが失踪当時に着ていたドレスと、宝石である。

ドレスはアイテムボックスに入っていた物。宝石は、闇市で売ったものを魔法で複製したものだ。

それを見ても何だかわからない様子の父とキリフに、クロエは呆れてしまう。

(本当に、私のことなんてどうでもよかったのね)

吹っ切れていたので悲しい気持ちにもならなかったが、エーリヒが厳しい顔をしているのを見て、慌てて宥める。

「エーリヒ、私は大丈夫だから」

「クロエ……」