軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

・35

「大勢、ですか?」

リーノがそう言うと、ジェスタはさすがに戸惑った様子だった。

たとえ罪を犯していたとしても、大勢の前で見世物のように晒すのは、気が進まないのだろう。

けれど、隣にいるアリーシャがそっと呟いた。

「クロエ嬢が受けた苦痛を考えたら、それくらいは仕方がないのでは……」

「……そうだな」

その言葉を受けて、ジェスタも頷いた。

「すべてを父に話し、これからのことを決めたいと思います」

ジェスタはまだ王太子なので、決定権がない。国王に話を通すということで、話し合いは終わった。

おそらくアダナーニ王国の国王も、拒まないだろう。

カサンドラが魔女ではないと言われた以上、魔法大国のジーナシス王国に逆らうのは、得策ではない。

まして、貴重な魔女がひとり亡くなっているのだ。

ジェスタとアリーシャが退出したあと、クロエとエーリヒは、リーノを彼女の客間まで送り届ける。

客間に戻ると侍女が控えていた。その侍女にお茶を頼んだリーノは、クロエとエーリヒにも着席を促す。

「ここから先の会話は、三人にしか聞こえないようにしているわ。アダナーニ王国の国王は、これからどう動くと思う?」

リーノの問いに答えたのは、エーリヒだった。

「こちらの申し出を受け入れるのは、間違いない。歓迎パーティでも開くのではないか? そこで訪問理由を尋ねて、団長やキリフ殿下の罪を問う形にすると思うが」

「そうでしょうね。ジーナリス王国の魔女の前だから、きっと厳しく追及されるでしょう。魔女であることを知らなかったと言い訳をするでしょうが、娘や婚約者にそんな扱いをしなければ、断罪されることもなかったのだから、自業自得よ」

リーノは血生臭いことは求めないと言っていたので、おそらくそれほど厳罰にはならないだろう。

だが、クロエのことは忘れられなくなるに違いない。

「きっとそのパーティには、カサンドラ王女も参加するでしょう。悪いけれど、彼女を釣る餌になってほしいの」

そう言われて、エーリヒは不思議そうに聞き返す。

「餌、とは?」

「クロエさんの計画に必要なことよ」

エーリヒの視線を受けて、クロエは頷いた。

「カサンドラ王女殿下の魔力を、封じようと思うの」

静かにそう言うと、エーリヒは動揺したようにクロエとリーノを交互に見つめる。

「そんなことが、できるのか?」

カサンドラの魔力の強さは、傍にいたエーリヒもよく知っている。

クロエとリーノが魔女だと知っていても、不安になってしまうのだろう。

「大丈夫。魔女と魔女もどきでは、魔力も桁違いよ。それに、クロエさんを前には出さないわ。私が王女と対峙する。だから餌が必要なの」

キリフやクロエの父の断罪が終わったあと、リーノがエーリヒをダンスに誘い、ふたりが踊る様子をカサンドラに見せつける。

きっとカサンドラは、リーノに敵意を向けるだろう。

でも、どんな言葉を投げかけられても、リーノは反応しないつもりだ。すると怒ったカサンドラは、いつものように魔法で攻撃してくるに違いない。

だが何度攻撃しても、リーノには通用しない。

「そこで、警告するつもりよ。魔女ではないのだから、そんなに魔法を使ったら魔力が尽きてしまうわ、と」

だが実際にカサンドラの魔力は膨大で、おそらくその程度で魔力が尽きることはないと思われる。

「そこで私が、サージェにしたように、王女殿下の魔力を封じる」

クロエはそう言うと、エーリヒの手を握った。

「もう彼女に、誰も傷付けさせない。だから、私を信じて」

エーリヒはしばらく俯いていたけれど、やがて決意したように言った。

「俺に、できることはないか?」

「カサンドラ王女殿下を煽るために、リーノさんとダンスを踊ってほしいの。エーリヒって、踊れる?」

「……何とかする」

「クロエさん以外と踊るのは嫌かもしれないけど、作戦のためなの。そこは我慢してね」

リーノにもそう言われ、エーリヒは本当に嫌そうだったが、最後には承知してくれた。

「でも、他国で正式に魔女を名乗ってしまって、大丈夫ですか?」

しかも王子であるキリフを、断罪するように誘導している。ジーナシス王国は大国だが、それでも国同士の問題になるようなことを、リーノひとりの判断で動いて大丈夫なのだろうか。

「心配はいらないわ。一番目から七番目までの魔女に相談したら、全員が遠慮せずに全力で行け、と言ってくれたから」

にこやかに笑って、リーノはそう言った。

どうやらジーナシス王国の魔女は、離れていても会話することができるらしい。もうクロエのことも、とっくに話していた。

「……ありがとうございます」

本当の身内は冷たかったのに、彼女たちはとても優しい。クロエは少し涙ぐみながら、礼を述べた。

王城に向かっていたアリーシャは、どうやら夜中過ぎに戻ったようだ。

国王を交えた話し合いが、それほど長引いたのだろう。

その結果、エーリヒが予想したように、魔女リーノの歓迎パーティを王城で開いてくれることになったようだ。

そこに、キリフとクロエの父が参加することも教えてもらった。

「ありがとう。希望通りにしてもらって、感謝すると伝えてください」

王族は全員参加するらしいので、カサンドラも参加するに違いない。

クロエはその日まで、リーノと念入りに打ち合わせをしたり、エーリヒとダンスの練習をしたりして過ごした。

そして、数日後に王城でパーティが開かれた。

朝から準備に追われ、ひさしぶりにドレスを着たクロエは、もうパーティが開催される前から疲れ果ててしまった。

でもクロエよりも、エーリヒの方が緊張しているように見える。

作戦とはいえ、カサンドラの前に立つことになるのだ。過去のトラウマが蘇ってしまったのかもしれない。

「エーリヒ、大丈夫。何があっても、私が絶対に守るから」

そう言うと、ドレス姿のクロエを見つめていたエーリヒは、ふと笑みを浮かべた。

「俺は大丈夫だ。ただ、クロエのことが心配で」

「私も大丈夫よ。王女殿下はリーノさんが引き受けてくれるし、私は陰でこっそり魔法を使うだけだから」

「そうか。でも、用心してほしい。もし王女の意識が少しでもクロエに向いたら、中止してくれ」

「うん、わかった」

クロエは頷く。

それを聞いてようやく安心したらしいエーリヒは、クロエのドレス姿を見て、目を細めた。

「今日のドレスも、とても似合っている。綺麗だ」

「……ありがとう」

そういうエーリヒの正装も、誰にも見せたくないくらい、格好良かった。

客間に向かってみれば、リーノも正装していた。

「目立つように頑張ってみたの」

そう言う彼女のドレスはとても豪華で、魔女であることもあり、会場で一番目立つに違いない。

やがて馬車の用意が整い、アリーシャは一足先に向かったようなので、三人で王城に向かう。

会場入りするときは、クロエのエスコートはエーリヒが。リーノのエスコートは、王太子のジェスタが勤めることになった。アリーシャはリーノのサポートのため、最初から会場で待っているようだ。

今日は、魔女の歓迎会ということで、ほとんどの貴族が参加するらしい。

会場も綺麗に飾り付けられ、色とりどりの花が咲いている。

(何だか、婚約破棄されたときのことを思い出すかも)

そんなことを思っていると、エーリヒが手を握ってくれた。その温もりが、今の自分は幸せだと思い出させてくれる。

(うん、大丈夫)

パーティは予定通りに進んだ。

アダナーニ国王が歓迎の言葉を言い、リーノがそれに感謝を述べる。

訪問の理由を聞かれたリーノは、会場を見渡して、冷たい声でこう言った。

「魔女について、お伺いしたいことがあります」

その言葉に、人々の視線がカサンドラに向けられる。

父である国王に大人しくしていろと言い聞かせられたのか、エーリヒの姿を見ても駆け寄らなかったカサンドラは、その代わりにずっとクロエを睨んでいた。

「何よ?」

その視線を受けて、不機嫌そうに声を出す。

「あなたではないわ。あなたは『魔女』ではないもの」

リーノがそう言うと、途端に会場がざわめいた。

「静粛に」