作品タイトル不明
第三十二話 冬鈴館の開設
正式な冬鈴館の開設式は、春の初めに行われた。
大きな式典ではない。温室の前に小さな白い布を張り、冬鈴草の鉢を並べ、支援者と医師会、近隣の人々を招いただけだ。
マリア第一王女からは祝辞が届いた。
『温かい部屋は、誰かの善意だけに頼るものではなく、整えられるべき環境である』
その一文を読んだ時、私は少し涙ぐんだ。
冬鈴館には、規則がいくつかある。
子どもが寒いと言ったら、理由を聞く前にまず温める。
食べられない時は叱らず、食べられるものを探す。
夜に怖がったら、大人が一度は見に行く。
記録は責めるためではなく、次に守るためにつける。
母親だけに負担を押しつけない。
父親にも説明し、必要なら寝具の干し方から教える。
最後の規則を読んだ時、兄が少し笑った。
「これは誰かを意識しているのか」
「多くの父親を意識しています」
「そうか」
アルノルトは式の間、少し離れた場所に立っていた。軍服ではなく、落ち着いた礼服だ。彼は支援者として紹介されたが、必要以上に前に出なかった。
式の終わり、リュシーが冬鈴草の鉢を一つ持ってきた。
「おかあさま、これ、ここ?」
「ええ。入口に置きましょう」
「みんな、さむくない?」
「寒くないようにするわ」
「リュシーも、おてつだい」
「ありがとう。でも、無理はしないでね」
「むり、しない」
最近、リュシーはその言葉を覚えた。
無理をしない。
嫌なことは嫌と言う。
好きなことは好きと言う。
簡単なようで、大人でも難しい。
開設式の後、最初の寄付箱には小ぶりな木の板が入っていた。近所の大工が、子ども用の椅子に使ってほしいと持ってきたものだ。
次に、パン屋が柔らかいパンの定期提供を申し出た。
薬草商は冬鈴草の苗を安く分けてくれた。
冬鈴館は、私一人の魔法でできた場所ではない。
多くの人の小さな温かさで、少しずつ形になっていった。
その夜、リュシーは疲れて早く眠った。
私は寝顔を見ながら、そっと髪を撫でた。
「あなたが生きているから、ここができたのよ」
娘は眠ったまま、少し笑ったように見えた。