作品タイトル不明
第二十二話 ギルベルトの謝罪
ギルベルトが謝罪を申し入れてきたのは、リリアの証言が法院に受理された後だった。
面会ではなく、私との話し合い。場所は温室館ではなく、法院の小会議室。リュシーは同席させない。アルノルトとミレーヌ書記官が立ち会う。
条件をつけたのは私だ。
夫婦の感情の話に見せかけて、また娘の前で私を責められては困る。
小会議室で向かい合ったギルベルトは、以前より少し痩せていた。整った顔立ちは変わらないが、目の下に疲労がある。彼はしばらく黙り、それから頭を下げた。
「すまなかった」
その言葉を、私は静かに聞いた。
「何についてですか」
リリアにしたのと同じ質問をした。
謝罪は、対象を曖昧にすると便利な言葉になる。
ギルベルトは唇を結んだ。
「リュシーの療養室を、リリアに明け渡せと言ったこと。リュシーの体調を軽く見たこと。君の記録や魔法を当然のように扱ったこと。……娘の手を見なかったこと」
最後の言葉は、小さかった。
だが、聞こえた。
私は膝の上で手を重ねた。
「謝罪は受け取ります」
ギルベルトの表情が少し動いた。
「では」
「ですが、戻りません」
彼の目が揺れた。
「ノエリア」
「私は、あなたが謝ったら戻るために家を出たのではありません。娘の命を守るために出ました。そして、出てから分かりました。私はあの屋敷で、自分の痛みを痛みとして扱っていなかった」
「今なら、変えられる」
「あなたは変わるかもしれません」
私はそう認めた。
「でも、私がもう一度あの屋敷に戻って、あなたが変わるかどうかを見守る義務はありません」
ギルベルトは黙った。
以前の彼なら、そこで怒ったかもしれない。妻のくせに、母親のくせに、侯爵家の体面はどうすると。
だが今は、ただ沈黙している。
「リュシーには、父親として関わってください」
私は続けた。
「ただし、あの子の安全と意思を最優先に。贈り物をする前に、何が好きかを知ってください。会いたいと言う前に、寒くない場所を用意してください。父親であることは、権利ではなく、続ける仕事です」
「仕事、か」
「ええ。毎日ではなくても、逃げずに続ける仕事です」
ギルベルトは目を伏せた。
「私は、父親の仕事をしてこなかった」
「はい」
私は否定しなかった。
優しさで事実を薄めても、誰のためにもならない。
「リュシーは、私を父と呼ぶだろうか」
「今は分かりません。あなたがこれから何をするかによります」
「君は厳しいな」
「娘を守る母親ですので」
ギルベルトは少しだけ苦笑した。疲れた、苦い笑みだった。
「そうだな」
話し合いの終わりに、彼は小さな包みを差し出した。
「リュシーに。今回は、確認した。木でできた小さな鳥の巣だ。前に贈った髪飾りよりは、あの子に合うと思う」
私は包みを受け取った。
「渡すかどうかは、私が判断します」
「ああ」
彼は頷いた。
会議室を出る前、ギルベルトはもう一度言った。
「ノエリア。君にも、すまなかった」
私はその言葉に、すぐ返事をしなかった。
許すには時間がかかる。
戻らないと決めるのは、許さないことと同じではない。
「その謝罪も、受け取ります」
私は言った。
「ですが、私の人生は私が持っていきます」