作品タイトル不明
第二十話 リリアの告白
リリアが温室館を訪ねてきたのは、マリア第一王女との面会から三日後だった。
同行していたのは侯爵家の護衛ではなく、法院の使者だった。彼女は正式に証言の意思を示し、私との面会を希望したという。
私は迷った。
リリアに会いたいわけではない。許す準備もない。だが、調停に必要な証言があるなら聞くべきだ。
面会は応接室で、アルノルトとミレーヌ書記官の同席のもと行われた。
リリアは以前より痩せて見えた。淡い金髪を簡単に結い、厚い外套を着ている。目元は赤かったが、その涙を見ても、私は以前のように胸を乱されなかった。
「ノエリア様」
彼女は深く頭を下げた。
「申し訳ありませんでした」
部屋が静かになった。
私はすぐには答えなかった。
「何についての謝罪でしょうか」
リリアは唇を震わせた。
「南翼のお部屋のことです。わたしは、本当は分かっていました。あのお部屋がリュシー様のためのものだと。わたしに、そこまでの必要がないことも」
ミレーヌ書記官のペンが走る。
「診断書は?」
「父が用意しました。王都の医師のものではありません。ギルには、詳しいことを言わず……暖かい部屋が必要だとだけ」
「ギルベルト様は、虚偽だと知っていましたか」
「たぶん、知りません。でも、確かめようともしませんでした」
その言葉は重かった。
リリアは膝の上で手を握りしめた。
「わたしは、ギルに選ばれたかったのです。ノエリア様がいつも静かで、何でもできて、ギルの妻で……勝ちたかった。リュシー様のことを、考えないようにしました」
「考えないようにした」
「はい」
私は息を吐いた。
「リリア様。あなたが苦しかったことと、あなたがしたことは別です」
「はい」
「私はあなたを許すためにここにいるわけではありません」
「分かっています」
「ですが、証言するなら、リュシーのために使います」
リリアは頷いた。
「それで構いません」
彼女は鞄から数枚の紙を出した。
「父とボルク家令の手紙です。南翼療養室をわたしに使わせれば、奥様が抗議しても侯爵家の管理実績にできる、と書かれています。わたしは怖くなって、でも言えなくて……」
アルノルトが紙を受け取り、確認した。
「これは重要な証拠です」
リリアの目から涙が落ちた。
今度の涙は、誰かに守ってもらうためというより、自分がしたことをようやく見た人の涙だった。
「ノエリア様。リュシー様に、謝る資格はありますか」
「今はありません」
私ははっきり言った。
リリアは目を伏せた。
「そうですよね」
「リュシーは四歳になったばかりです。あなたの謝罪を受け止める役割を負わせたくありません」
「はい」
「けれど、あなたがこれから嘘をつかず、自分のしたことを証言するなら、それはリュシーを守る助けになります」
リリアは涙を拭き、深く頷いた。
「証言します」
面会が終わり、彼女が帰った後、私はしばらく椅子に座っていた。
許すことと、前へ進むことは同じではない。
私はリリアを許したわけではない。
けれど、彼女の証言でリュシーを守れるなら、それは受け取る。
隣室から、リュシーの声が聞こえた。
「おかあさま、スープ、できたって」
「今行くわ」
私は立ち上がった。
怒りはまだある。
それでも、娘の夕食の時間は来る。
日々の温かさを守ることが、私の大義だった。