作品タイトル不明
6話 エリアナは母の過去を知る
昨日はダンジョンの町でマジックバックを買って貰った。
エリアナは、可愛いウエストポーチを眺めていた。
(こんな小さな鞄に邸が一つ入るなんて、凄いわ。使い方は今度セドリック様が教えてくれるって言ってたわね。)
マジックバックをしまい、エリアナは両親の待つリビングへと向かった。
リビングに入ると、婚約者の邸に行っていたマリナが帰って来ていた。
「お姉様!お帰りなさい。帰って来て大丈夫なの?」
久々に会えた大好きな姉に抱きつき心配そうに尋ねた。
「体調は随分良くなってきたの。でも、完治するにはまだ時間がかかるみたいね。」
姉の婚約者が高熱で倒れたのだ。
看病の為に、伯爵家に泊まり込んでいた姉は妹の婚約の為に帰って来てくれたのだった。
「お姉様。態々ありがとう。こんな時にごめんなさい。」
申し訳なさそうに謝る妹に、
「何を謝るの?可愛い妹の婚約の為に帰って来るなんて当たり前よ?謝ったら駄目よ。」
ギュッと抱きしめられ、姉の優しさに感謝する。
「おはよう。エリアナ。準備は出来ているか?食事をとったら公爵家に向かうよ。」
父の言葉に姉から離れ、
「おはようございます。お父様、お母様。」
両親と挨拶を交わし、姉の伯爵家での話しを聞きながら朝食を済ませた。
子爵家は王都の少し離れにある。
公爵家は高位貴族だが自然に近い方が良いと、王都の中心から離れた場所に初代当主が屋敷を構えたのだった。
その為、子爵家と公爵家は余り離れてはいなかった。
「エリアナ。公爵子息はどんな人なの?」
姉の問いかけに少し考え、
「高位貴族なのに威張ってなくて、優しくて。でもとても頼りになる人ね。」
「私の事を大事にしてくれるのを感じるわ。まだ会って数日だけど、そう感じるわ。」
姉はエリアナの話しをニコニコ聞いている。
「エリアナとセドリック殿は相性が良いのだろうな。とても仲良しだよ。」
父の話にエリアナも照れてしまう。
母も笑顔で話を聞いてくれてはいるが、少し違和感を感じる。
でも、母が何かを隠しているのが解るので、気が付かない振りをした。
暫くすると、公爵家の門に入った。
入ったのだが、馬車で暫く走る。
(門から玄関まで遠くない?!)
広大な敷地に建てられた邸はとても立派過ぎた。
両親は色んな家の邸に行く事があるが、姉もエリアナも初めて高位貴族の邸に来たのだ。
二人は心の中では怖気づいていた⋯⋯。
玄関前に馬車が止まり、馬車の扉が開くとそこには笑顔のセドリックが待っていた。
「おはようございます。子爵、夫人。それに、初めましてですね、マリナ様。」
「「「おはようございます。」」」
両親が先に降り、続いて姉が降りる。
セドリックが母と姉に手を添えてくれていた。
エリアナが降りる時は、両脇に手を入れられ抱っこされて降ろされた。
頭をなでなでしながら、笑顔のセドリック。
嬉しくて仕方ない様子は誰が見ても明らかだった。
「セドリック。嬉しいのは解った。邸に入らないと、婚約が整わないぞ!」
セドリックの父である公爵が声をかけた。
セドリックは我に返ると、エリアナの手を引き急いで邸に入った。
客間に案内されたが、流石公爵家。とんでもなく豪華だ。
だが、品がありとても素敵な部屋ではあった。
しかしエリアナは落ち着かない。壊さないように慎重に歩む。
四人掛けのソファーに座り、お互いの家が別れて座る。
四人掛けでも、余裕がある⋯⋯。
全てが規格外で圧倒されてしまう。
一人掛けのソファーに公爵が座り
「さて。私がハーマン公爵家当主のパトリックだ。」
「そして、妻のセリーヌ。次男のリチャードだ。」
セリーヌとリチャードが軽く頭を下げた。
「私はカーマイン子爵家当主のギルベルトです。宜しくお願いします。
こちらが妻のエリザと、姉のマリナ。そして妹のエリアナです。」
子爵家は少し深く頭を下げた。
公爵が話しを進める。
「今日は長男であるセドリックと、子爵家次女のエリアナ嬢の婚約について話しを詰めていく。」
「我が公爵家はセドリックからのたっての希望により、エリアナ嬢との婚約をお願いしたく思う。公爵家は異存は全くないが、子爵家はいかがかな?」
公爵がギルベルトに視線を向けた。
ギルベルトは、
「子爵家としては、姉が伯爵家に嫁ぐ事になり次女のエリアナが後継となりました。エリアナと婚約を結ぶとは、子爵家に婿入りする事になります。下位貴族に入るのですよ?」
ギルベルトがセドリックに視線をやる。
「エリアナ嬢と婚約し、その先に結婚があるならば男爵でも平民でも何でもよいのです。」
「お金は自分で生み出す。私はエリアナ嬢の考えに賛同しております。」
エリアナはこんなにも自分を求めてくれる事に嬉しさで胸が苦しくなる。
家族にも恵まれ幸せなのに、悲しくもないのに涙が溢れる。
セドリックは瞳に涙を浮かべるエリアナに気が付き、席を立つとエリアナの前に膝を突きそっと涙を拭った。
「エリアナ嬢の涙は、嬉し涙ですか?」
セドリックの問いに、エリアナは頷いた。
「セドリック様。ありがとうございます。」
仲良き二人に、周りは何も言う事はなかった。
「では正式に書面に記し、陛下に直接渡しておくよ。」
「きっと陛下も子爵家の娘の結婚に喜ぶだろうね。姉のマリナ嬢の婚約も知らなかったみたいで、陛下は落ち込んでおられたからな。」
陛下の言葉が出る度に、母エリザの顔色が悪くなる。
公爵夫人のセリーヌがエリザの様子に気が付き、「貴方!」
と、公爵の会話を遮った。
セリーヌがエリザに視線をやり、公爵に向け首を左右に振る。
ギルベルトは、いつの間にかエリザの背を擦っていた⋯⋯。
「お父様。お母様は何を気にしているの?」
マリナが父である子爵に問いかけた。
子爵は黙り込んでいる。
公爵も口を開かない⋯⋯。夫人もだ。
「ごめんなさい。お祝いの場で話す事ではないのだけど、話した方が良さそうね。」
母エリザがギルベルトを見て問いかけた。
エリザが公爵にお詫びを告げ、娘達に話し始めた。
母は伯爵家の娘ではなく、侯爵家の次女だった。
当時王太子であった陛下。その側近達の婚約者達の友人だった、エリザの姉のやらかしの事。
王太子殿下の側近の一人にエリザの姉は恋慕した。
王太子殿下や側近の婚約者達も一緒になり、相手の婚約者を虐めていた。
エリザの姉に婚約者はいなかったが、殿下や側近は自身の婚約を破棄した事。
元婚約者の令嬢達は改心したが、エリザの姉は改心する事なく修道院送りになった事。
侯爵家にお咎めは表面上はなかったが、エリザの当時の婚約は破棄された。
侯爵家は衰退し当主が爵位を返上した。
エリザに罪はないと、心優しい伯爵家が養子にしてギルベルトと出会い結婚した事。
エリザは今でも社交界では色々言われる立場にある事⋯⋯。
姉が恋慕した相手が辺境伯の婚約者だった事。
その相手が、今のアスティ女辺境伯である事。
「お母様は悪くない!お母様が気に病む必要はないじゃないの!」
エリアナの言葉に、マリナも同意する。
「エリアナ。貴女はギルドで子爵家を貶められ、反撃しましたね。貴女と同じ事を 辺境伯はしたわ。自身が貶められても平然としてらしたのに。
でも、家門をそして辺境伯の父を貶めた時に初めて反撃されたわ⋯⋯。」
「何だか、ずっと責められてる気がするのよ。両親は姉のせいで他国に移ったわ。私は運良く伯爵家に引き取られた。
でも、家族が犯した罪は消えてくれないのよ⋯⋯。娘である貴女達の婚約が遅いのも、私の所為なのよ。」
涙を流し、苦しい胸の内を話すエリザ。
「夫人。貴女が気に病む必要はありませんよ。社交界では夫人の事を未だに話題にする人も少なからずいます。
ですが、辺境伯も家族には責がいかないように嘆願されました。それを反故にした者こそが悪であり、貴女が責を負う事は無いのですよ。」
エリザは公爵夫人の温かい言葉に我慢ならず、ギルベルトにしがみつき声を殺して泣いていた。
「思う事があるならば、公爵家はセドリックの婚約を許可する事はない。
我が家が認めたのだから、夫人がこれ以上苦しまないように公爵家も力を貸しますよ。」
公爵の言葉に、セリーヌ夫人も強く頷いてくれた。
「ありがとうございます。公爵。夫人。」
子爵家全員で頭を下げた。
「暗い過去の話は、これまで!」
「そして、セドリックから何やらエリアナ嬢について話があるとか?」
エリアナがセドリックに視線をやると、セドリックが頷いた。
「公爵にご報告があります。
昨日、私は冒険者ランクがSランクとなりました。貴族令嬢としては喜ばれない事は承知してます。」
「ですが。私は父の領地領民を守る姿を尊敬しています。お金を惜しまず領民の身の安全の為に惜しみなく使う。討伐を冒険者に依頼する父のようになりたい。」
「そして何より、ダンジョンに潜りたいのです!!」
公爵家の者達は、エリアナの崇高な思いに感心していたのだが⋯⋯。
ふと、気が付いた。
最後のダンジョンの話が要点ではなかろうか?と⋯⋯。
「エリアナ嬢はダンジョンに興味があるのだな。王都のダンジョンは辺境のダンジョンよりは踏破しやすいだろう。」
「貴族令嬢だろうと、Sランクになるには並大抵の努力でなれるものではない。
公爵家は反対などしない。むしろ、歓迎するよ。」
「是非とも、ダンジョン踏破して話しを聞かせてくれ。」
公爵家からは、快い許可を頂いた。
エリアナはホッと安堵の息を吐いた。