作品タイトル不明
5話 セドリックからの贈り物
エリアナはいつもより早起きをする。
ダンジョンが楽しみ過ぎて、目が覚めてしまったのだ。
ダイニングに行くと、両親はまだ席にいなかった。
先に朝食をとり、食べ終える頃に父がダイニングへと入ってきた。
「エリアナ、おはよう。随分早いね。」
「おはようございます。お母様はまだお休みしてるの?」
いつも一緒に来る母がいない為、心配になる。
「昨日夜ふかししていたから、まだ寝ているよ。」
父の言葉に頷き、食後の紅茶を口にした。
「早起きした理由はダンジョンかい?」
昨日両親にはSランクになった事を報告した。Sランクのモンスター討伐の話や昨日のギルドでのやらかしを全て話した。
「うん。ダンジョンに潜りたかったから、とても楽しみで早く目が覚めちゃったの。」
嬉しそうに話すエリアナに、ギルベルトは満足な笑みを浮かべる。
執事がセドリックの到着を伝えに来た。
エリアナは父に手を振りギルドへと早々に出かけた。
残されたギルベルトは、
「家門を貶められ、やり返す。か⋯⋯。エリザが倒れるのも無理はないか⋯⋯。」
ギルベルトの呟きに、夫人が倒れた理由を知る執事だけが夫人を思い苦い顔をした。
昨日と同じく、エリアナとセドリックは手を繋いだままギルドへと入って行った。
エリアナを見つけたエリーが、
「エリアナちゃん!こっちよ!」
と、受け付けの1番端から声をかけた。
二人はエリーの元へと向かう。
昨日の事を知らない女性達がセドリックへ近寄ろうとする。
が、他の者達が急いで拘束する。
エリアナが振り返ると、冒険者達に抑え込まれた女性に睨まれた。
エリアナは無視してエリーの元に向かう。
「昨日は大変だったわね。マスターから話は聞いたわ。婚約もダンジョンも、おめでとう。」
エリーに両手を握られ、お祝いの言葉を貰った。
「エリーお姉さん。ありがとうございます。そして、昨日はごめんなさい⋯⋯。」
申し訳なさそうに謝るエリアナに、「大丈夫よ。」
優しく声をかけると、エリアナとセドリックをマスターの待つ2階に案内する。
部屋をノックし返事を受け、中に入るとマスターがソファーに座り待っていた。
向かいに座ると、Sランクのピンを渡された。
ランク別にピンの装飾である宝石の色が変わる。SとSSは虹色の宝石になる。
Sは一つ。SSは二つある事でランクが解る。
「エリアナはマスター特別枠として許可を出す事にする。セドリック殿は学園に入っているので普通に許可をだす。」
マスターが、二人の前に銀のカードを二枚出した。
カードには、ダンジョン許可証と書かれていた。名前もそれぞれ書いてある。
「これで何時でもダンジョンに行けるぞ!良かったな。エリアナ。」
「じゃんじゃん討伐して、ドロップ品を持って来い。」
銀色のカードを眺め、沢山稼ぐ事に想像を膨らませる。
「セドリック様!早速ダンジョンに潜りましょう!!」
元気よくセドリックを誘う。
たが、セドリックが申し訳なさそうな顔をしている⋯⋯。
「エリアナ嬢。今日はダンジョンには潜れませんよ?」
え!?
ショックを受けて、固まってしまった⋯⋯。
「ダンジョンは日帰りでは行けませんよ。明日は公爵家に行く予定もありますので、また後日ですね。」
エリアナは、忘れていたのだ。
明日は公爵家に婚約を整える為に訪問する事を⋯⋯。
ダンジョンに潜るには準備が必要な事を⋯⋯。
「ごめんなさい。ダンジョンに浮かれ過ぎて、明日の事も準備の事も忘れていたわ。」
シュンとなり、謝るエリアナに
「では、ダンジョンの入口まで行ってみませんか?行った事は無いでしょ?」
落ち込むエリアナだったが、セドリックの言葉に気持ちが上がる。
満面の笑顔で、「行く!!」
と、返事をする。
セドリックに笑われたが、マスターにお礼を伝えて退室する。
エリーお姉さんに挨拶を済ませ、ギルドを出ようとするとさっきの女性達に睨まれた。
エリアナはため息を吐き、女性達を冷めた眼差しで睨む。
冷気の魔力で睨まれ、女性達がヒュッと息を呑む。
儚い容姿のエリアナを舐めていた女性達は、圧倒的な魔力の差を見せつけられた。
女性達は視線を床にやり、敗北を伝えた。
セドリックがエリアナの手を繋ぎ、
「私とエリアナ嬢は、婚約します。異論は許さない。エリアナに手を出した者は消えてもらう。」
言い放った言葉に、公爵家を敵に回す旨を含めた。
エリアナの手を引き、馬車へと戻る。
ギルドからダンジョンまでは、馬車で1時間程かかる。
王都から離れた場所に、この国で2個目のダンジョンがある。
ダンジョンの近くの広場に馬車を停め、少し歩くとダンジョンの門が見えてきた。
大きな門だが、門の支柱にははドラゴンが巻き付いている。
エリアナは、ドラゴンをじっと見つめた。
(あれ?これって、竜じゃなくて龍?)
じっと見つめるエリアナに、
「この支柱の生き物は想像の生き物らしいですよ?エリアナ嬢は知ってるみたいですね?」
セドリックに聞かれ、頷いた。
「私がいた前世の世界の生き物。でも、神様って感じかな⋯⋯。」
「これを造った方も転生者ですかね?」
「そうかも⋯⋯。」
セドリックに手を引かれ、ダンジョンの入口の建物の前に来た。
ギリシャ神話に出てきそうな神殿みたいな建物。
中央には大きな扉がある。
エリアナは辺りを見渡すと、不思議な感じがした。
(この建物や風景を見た事がある気がする⋯⋯。でもこの場所は初めて来たのだから、気の所為ね。)
セドリックに呼ばれた為、考えるのをやめてしまった。
後日エリアナは、この事を深く後悔する事になる。
セドリックはダンジョンに潜れず落ち込み、門を眺めるエリアナにある提案をする。
「エリアナ嬢。せっかくダンジョンの町に来たのですから町を散策しましょうか。
そして、必要な物があれば買い物をしましょう。」
「ダンジョンの準備を今日しましょうね。」
セドリックの素敵な提案に、大きく頷き二人で町に向かう。
馬車は入れないので、待ってもらう。
町は冒険者向けのお店が並んでいる。
「魔法具店を1番に見てから買い物ですね。」
エリアナはなぜ魔法具店からなのか解ってないが、セドリックの言う事に従いついて行く。
準備自体を忘れていて、何が必要かを調べていなかったのだ。
「セドリック様にお任せしても良い?ダンジョンに行く事に意識が行ってて、何が必要かを調べていなかったの。」
エリアナが素直に伝えると、セドリックは嬉しそうに了承してくれた。
エリアナに頼られたセドリックは、足取り軽く魔法具店に入る。
店内は沢山の魔法具に埋め尽くされていた。
セドリックは店主に、
「マジックバッグはありますか?」
そう聞いた。
「大きさは?」
「容量の1番大きいのを二つ。」
店主は、ニヤリと笑うと部屋の奥へと行き直ぐに戻ってきた。
手には、黒いウエストポーチを二つ持っていた。
「これは特大容量だ。貴族の邸が丸々入るでかさだ。」
エリアナは話しを聞いて驚いた。
マジックバッグは、冒険者が必要な荷物を入れる普通の容量の物でも高額なのだ。
セドリックが店主に値段を聞いた。
「いくらですか?」
「一つ、金貨三百だよ。」
エリアナがビクッとなる!
(金貨三百⋯⋯。日本の物価の1/3で済むこの世界。日本円で一千万⋯⋯。)
「買えない⋯⋯。」
エリアナは無意識にポツリと漏らした。
「大丈夫ですよ。エリアナ嬢。私が払いますから。私の個人資産なので、公爵家にも関係はありません。」
エリアナは即答で断った。
「無理!そんな高価な物は貰えないから!」
手を前に出し、ブンブン断る仕草をする。
「では、婚約祝いとして贈ります。エリアナ嬢は宝石は余り嬉しくないでしょう?
婚約の贈り物は公爵家ならば、これ以上の金額を出します。安い方ですよ?」
セドリックはエリアナの手を取り、説得にかかる。
マジックバッグが大きければ、ダンジョンに潜る日数を長く出来る。
食料等の心配が無くなるからだ。
セドリックは長くエリアナといる為に、腹黒計画を立てていたのだ。
「ダンジョンの準備は任せてくれるのですよね?マジックバッグは止めて、婚約の贈り物は大きな宝石にしますか?」
(宝石は売ればお金にはなるけど、贈り物を売るのは無理だし⋯⋯。宝石は要らないし⋯⋯。マジックバッグ?かな。)
エリアナの視線がマジックバッグに向いたのを確認すると、エリアナの耳に顔を近付け魔法の言葉を囁く。
「マジックバッグなら誰にも中を見られません。エリアナ嬢の前世の知識で、ダンジョンに必要な物を一緒に作りませんか?」
耳から顔を離したセドリックが、ニッコリ微笑んだ。
「マジックバッグを下さい⋯⋯。」
魔法の言葉に流されたエリアナは、セドリックからマジックバッグを贈られた。
婚約祝いの贈り物がマジックバッグだった事に、子爵家も公爵家も大爆笑となった。
セドリックは腹黒計画が着々と進む事に満足していた。