作品タイトル不明
3話 転生令嬢の逆鱗とは
父を呼び、お互いの合意のもと婚約する事を伝えた。
「エリアナが決めたのなら、それで良いよ。」
「しかし、セドリック殿は公爵家の嫡男のはず。エリアナは子爵家を継ぐ事になっていますが?」
父も私と同様に、公爵家の意向が気になったようだ。
「エリアナ嬢から良い返事を頂けたなら、公爵家の後継は弟が継ぐ事になっています。そして、私が子爵家に婿入りすると話がついてます。」
父ギルベルトは公爵家を出てまでも娘との婚約を選ぶ理由が知りたかった。
確かに娘は美しい容姿であり、心優しい女性に成長した。
だが、公爵家がそれ程望む理由が解らない⋯⋯。
子爵が思案顔をするのを見て、セドリックがその思案を察する。
「なぜエリアナ嬢をそこまで望むのか、子爵はそれが気になりますか?」
ギルベルトは顔に出てたらしい事にハッと気付くが、勢いで聞いてみる事にする。
セドリックに視線をやり、頷いた。
「エリアナ嬢には伝えましたが、エリアナ嬢が初めて冒険者ギルドに来た時に見かけました。
初めての魔物の討伐に、泣きながらも戦っていました。冒険者になった理由をギルドの職員の方に聞きとても感心しました。」
「家族の為、領地領民の為に冒険者になる。自分が出来る最大限の力を使い、貴族としての役目を果たす姿勢に私は心惹かれたのです。」
ギルベルトは、エリアナが泣きながらも冒険者になった事など聞いていなかった。
娘はいつも、ただ楽しそうにギルドへ行っていたので気が付いていなかった。
「エリアナ。そうだな。初討伐は辛かったであろう事を私は察してやれなかった。
すまなかった。そして、いつもありがとう。」
ギルベルトが優しくエリアナの頭を撫でた。
エリアナは唇をギュッと固く結び、泣くのを我慢している。
「エリアナ嬢は、領民を大切にする子爵をとても尊敬しているそうです。
私も領民の為に力を注ぎ込む子爵の姿を尊敬します。」
セドリックの言葉に、ギルベルトの心が温かくなる。
娘に、公爵子息に尊敬される⋯。
少しばかり、自慢気な気持ちになる。
あ!と、セドリックが何かを思い出した。
「父がエリアナ嬢との婚約が整った際には、子爵家を我が家に早々にお呼びすると言伝を受けてました。」
セドリックの話を受け、ギルベルトが返事をする。
「正式に婚約をするのであれば、公爵家の良き日に伺います。
それに、公爵は私と学園での同期になります。陛下ともですがね。」
「だからですね。カーマイン家のご令嬢との婚約をと伝えた時に反対されなかったのは子爵を知っていたからですね。」
「陛下と公爵は、学園時代は色々と苦労をされていましたからね⋯⋯。」
父が遠い目をした事で、色々と軽く言うがかなり重い内容なのだろう。
エリアナは尋ねる事をしなかった。
「では、近日中に正式な手続きを行い、顔合わせをする。それで宜しいでしょうか?」
ギルベルトの言葉に、父が了承した。
話が纏まり、セドリックを玄関ホールまで父と一緒に見送りをする。
「エリアナ嬢。明日はギルドに行かれますか?せっかくなので、パーティーを組んでダンジョンに後日挑戦しませんか?」
セドリックの提案に、即答で返事をする。
「是非!!」
セドリックはクスクス笑いながら、エリアナの頭を撫でると馬車で帰って行った。
見送るエリアナにギルベルトが、
「セドリック殿との婚約は良き事になりそうだな。エリアナ。」
エリアナは笑顔で、
「セドリック様はとても良い人に思うわ。子爵家の為に私も頑張らないと。」
ギルベルトは娘の楽しそうな顔に満足しながら、公爵家に向かう日までに書類を急いで作らなければと考える。
公爵の事だ。既に全て準備はし終えているだろう⋯⋯。几帳面だが、とてもせっかちなのを知っている。
翌朝、朝食を終えると執事が慌てた様子で父の耳に何かを伝えた。
用向きを聞いた父はエリアナに視線をやると、
「セドリック殿が迎えに来てるようだよ。」
優しく笑いながら、伝えてくれた。
「セドリック殿はエリアナと出かける事が楽しみなようだね。」
その言葉に、私は少しだけ照れくさくなった。
「大事にされそうで、私も安心しますわ。」
母が紅茶を飲みながら、優しい眼差しで私を見ている。
何だか、ムズムズするのでこの場から離れたくなった⋯。
「セドリック様を迎えに行って来ますわ。」
急いで席を立ち、玄関ホールへと向かう。
後ろから聞こえる両親の笑い声にやはり、擽ったさを感じる。
玄関ホールには、軽装のセドリック様がいた。
出迎える私を見つけたセドリック様は、眩しい笑顔を向けてくる。
「おはようございます。セドリック様。」
「おはようございます。エリアナ嬢。」
ニッコリ笑顔は、やはり眩しい!
(この笑顔よ?婚約したら散々な目に合いそうな気がするなぁー⋯⋯。)
エリアナの笑顔が、少し苦笑いになった。
「エリアナ嬢。どうかされましたか?」
セドリックはエリアナの表情がぎこちない事に気が付いた。
「えっと⋯⋯。」
エリアナ、口にして良いのか悩むが、セドリックがエリアナが話すのを待っている。
「セドリック様の笑顔が、眩しいなぁー。と⋯⋯。婚約したら、女性達から何かされないかなぁーと⋯⋯。」
語尾は小さくなり、エリアナの視線がセドリックからスーッと外された。
セドリックは、エリアナが何を言いたいのかを理解している。
「自慢になってしまいますが、私は確かにモテます。ですが、今まで会った女性に心が動く事もありませんでした。婚約の話も全て断ってます。
想い人はエリアナ嬢が初めてですよ?」
「私が婚約したいと思うのは、エリアナ嬢だからですよ?」
エリアナはバッと、セドリックを見る。
優しい笑顔に、やはりドキリとする。
エリアナはセドリックをじっと見つめ、
「セドリック様の笑顔は、やはり素敵でドキドキしますね。」
素直に伝えただけなのに、セドリックに抱きしめられた。
「可愛い。エリアナ嬢は本当に可愛いですね!」
可愛いを連呼するセドリック。
抱きしめられたまま、キョトンなエリアナ。
なかなか戻らない二人を迎えに来た両親に、クスクス笑われた。
両親に気が付いた二人は、バッと離れてセドリックは挨拶をする。
「おはようございます。子爵、夫人。」
クスクス笑いながら、
「「おはよう」」
両親に見られたエリアナは居心地が大変悪い⋯⋯。
「お茶でも飲んでから出かけては?」
母エリザの言葉に頷いて、リビングへと皆で戻る。
公爵からの返事を子爵に伝える。
「父からは、2日後に我が家に来て頂き婚約を正式に整えたいとの事です。」
子爵は頷き、
「畏まりました。2日後に公爵家に伺います。やはり、公爵は全て準備されてましたね⋯⋯。」
セドリックは父の性格を承知している子爵は、やはり父と深い関わりがあったのではと推測する。
「子爵は父とは昔から関わりがあったのですか?」
セドリックからの問いに、
「ここ10年以上は関わりがなかったのだが⋯⋯。まぁいずれ、話をする機会があるでしょう。その時にでも。」
ギルベルトは話す気は無いのか、紅茶を口にした。
隣に座る母の顔色が悪い。
「お母様、体調が悪いのですか?」
母がハッとなり、笑顔を向けた。
「そうね。エリアナの婚約が嬉しくて、気持ちが張り切り過ぎたのかもね。
今日はゆっくり過ごそうかしら?」
「そうだな。少しゆっくりすると良い。やる事は沢山あるのだから、休息も大事だ。」
ギルベルトの言葉に、母は頷き紅茶に手を伸ばした。
「そろそろギルドに行きましょうか?」
エリアナにセドリックが問いかけると、
「はい!行きましょう!」
エリアナは元気に返事をすると、直ぐ様席を立ちセドリックを急かす。
セドリックはクスクス笑い、エリアナの右手を掬い取り手を繋ぐ。
「では。子爵、夫人。行ってまいります。夕刻には送り届けますので。」
セドリックの言葉に両親は頷いて、軽く手を振る。
「いってらっしゃい。」
エリアナも手を振り、手を繋いだまま馬車に乗り込む。
手を繋いだままだと、隣同志になるのだがセドリックの隣は不思議なくらい居心地が良かった。
2人はギルドに到着するも、セドリックが手を離す気配がない。
振り解く事を躊躇ったエリアナは、手を繋がれたままギルドの受け付けまで来た。
ギルドで人気の2人が手を繋いで入って来たのだ。
ギルドの中はざわざわし始めた。
「あら!エリアナちゃんにセドリック様。おはようございます。」
エリーお姉さまから声をかけられた。
「手を繋いでなんて。もしかして、婚約でもしたのかしら?!」
エリーは冗談のつもりで聞いてみた。
「はい。エリアナ嬢と婚約をしました。正式にはまだですが、数日には整う予定です。」
婚約を堂々と口に出来る事が嬉しいのか、セドリックが笑顔でエリーに答えた。
ギルド内が静寂に包まれた。
後ろの方から、
「嘘でしょ?セドリック様が婚約なんて⋯⋯。」
そんな言葉がちらほら⋯⋯。
若い女性冒険者達がセドリックを囲んだ。中には貴族の令嬢の冒険者もいる。
反動でエリアナが弾き出されてしまう⋯⋯。
セドリックを囲む女性達は、
「そんな子供より私と婚約して下さいな。」
「いくらAランクでも、子爵でしょ?釣り合わないわよ。」
悪口三昧⋯⋯。
(やっぱりこうなるのよね⋯⋯。だから、嫌だったのにな⋯⋯。)
座り込んでいたエリアナは、立ち上がろうとした。
すると、優しく両脇に手が入り込み抱き上げられ立たせてくれた。
相手の顔を見るとセドリックだった。
怒ったような、悲しいような顔でエリアナを見つめる。
「エリアナ嬢。大丈夫ですか?怪我は?」
そう言いながら、服のホコリをポンポンと叩いてくれた。
「大丈夫よ⋯⋯。」
視線を床にやり、婚約を少しだけ後悔し始めた⋯⋯。
「婚約をしたくない。なんて言わないですよね?」
その言葉にセドリックの顔を見ると、瞳が揺れていた。
セドリックもエリアナを守れずにいた事を後悔していた。
こうなる予測は出来ていたのに、婚約報告が出来た嬉しさに浮かれ油断してしまったのだ。
エリアナはこうなる事が嫌で、婚約を最初は断ったのだ。
不甲斐ない自分が情けなくなる。
セドリックの悲しげな瞳をエリアナはじっと見つめた。
(セドリック様じゃなかったとしても、人気のある相手ならこうなるものよね⋯⋯。
私は相手任せにしてはいけないのよ。)
よし!と、腹を括る。
「そうですね。婚約を一瞬だけ後悔しました。」
セドリックが目を見開き瞳を揺らした⋯⋯。
「でも、セドリック様じゃなかったとしても、人気のある相手ならばこうなる事もありますよね?なら、私もそれに対抗しなければいけないと。相手任せでは駄目だと反省しました。」
「婚約はします!そう決めました。」
エリアナの答えに、セドリックは嬉しすぎてエリアナをギュウギュウに抱きしめた。
後ろでは騒ぎ立てる女性達⋯⋯。
「貧乏子爵のくせに。」
「ただ古いだけの役立たずな家門なんているのかしら?」
「夜会でも子爵家を見かけませんわよねー?」
「貧しいですからねー。ドレスも買って貰えないのでは?」
クスクス笑いながら、子爵家を馬鹿にしている。
その言葉を聞いたエリアナは、セドリックを引き剥がした。
女性達を見据え、冷ややかな視線をやる。
「今、子爵家を貶めましたね。」
エリアナから冷たい魔力が流れ出た。
エリアナの魔力量やスキルを知るエリーだけが、この後の惨状を予想する。
「今日のギルドは閉店ね⋯⋯。」
エリーの言葉の意味を理解するまで、後数分である。