作品タイトル不明
護衛二人は、見ていた
その頃。
護衛の二人は、中庭の異変を発見していた。
正確には。
“ローデンの姿が見えなくなった”ため、確認に来たのである。
護衛が対象から目を離すなど、本来なら有り得ない。
もし何かあれば、自分達の首では済まない。
だからこそ、二人は、慎重に中庭へ近づいた。そして、固まった。
「……俺は、おかしくなったのか」
遊撃が真顔で呟く。参謀は無言だった。
数秒後。
ぱぁん!!
思い切り、遊撃の頭を叩いた。
「痛い!!」
「……痛みがあるなら、現実だな」
参謀は真剣に言った。
だが、だからこそ問題だった。
現実なのだ。あのローデンが片膝をついていた。幼女の前で、しかも、頭には花冠。
白や青の小花が編み込まれた、どう見ても“花冠”。
戦場で敵将の首を落としていた男が。
遊撃は震える声で言った。
「……もしかして、ままごとなのでは?」
「……付き合っていると?」
「きっと、真に迫った演技なのだ」
「誰のための?」
「……知らん」
二人は現実逃避を始めていた。
けれども、目が離せない。
二人から見えるのは、ローデンの後ろ姿だけ。
小さな幼女が、何かを喋っている。
ローデンは、それを静かに聞いている。
あり得ない光景だった。
遊撃は混乱した。
……女嫌いとまで噂された方が!?花冠!?しかも受け入れてる!?
参謀も内心で叫んでいた。
……何ですかこれは。新手の精神攻撃ですか。敵国の呪術ですか。
その時、幼女が、ふと顔を上げた。
紫の髪が揺れる。そして、銀色のひとみで、真っ直ぐこちらを見た。光の加減なのか、瞳は金色にも、見えた。
二人は凍った。
嗤った、そう見えた。
幼女の口元が、ほんの少しだけ、にやり、と。
「……ヤバい」
遊撃が小さく呟く。
「……俺もだ」
参謀の声も掠れていた。
何故か、理屈ではない、本能。
あれは、普通の子供ではない。
何か、とんでもなく危険なものを見た気がした。
だがラニアは、すぐに二人から興味を失ったように視線を戻す。そして、またローデンへ何かを話しかけ始める。
ローデンは静かにそれを聞いていた。
遊撃は真顔で呟いた。
「……きっと、俺は熱がある。重病だ」
「奇遇だな。俺もだ」
参謀も頷いた。
二人とも、一歩も動けなかった。
二人は、中庭を駆けていく影を見た。
犬としてはかなり大きい。
普通なら、初対面の相手が思わず警戒するほどには。
しかし、その犬は、嬉しそうにラニアへ飛びついた。
「ロキ!」
ラニアの明るい声が響く。
犬――ロキは尻尾を激しく振り、ラニアの周囲をくるくる回る。
ラニアも楽しそうに笑いながら、その首に抱きついた。
じゃれ合う姿は、どこまでも平和だった。
……平和、なのだが。
「……おかしいな?」
遊撃が真顔で呟く。
「何だか身体が震えるのだが?」
「……鳥肌が立つのですが」
参謀も腕を擦りながら言った。
何故か、妙な威圧感がある。
犬からなのか、幼女からなのか、空気からなのか、よくわからない。
だが、本能がざわつく。
そんな中、ローデンだけが普通だった。
当然のようにそこへ立ち、当然のようにラニアと会話している。
どうやら、この犬の事も知っているらしい。
それがまた恐ろしい。
……知り合いなんですか!?
二人は内心で叫んでいた。
その時、紫髪の女性、リリアーナが現れた。
じょうろを持っている。
どうやら植物に水をやるらしい。
そこで、二人はようやく中庭の異様さに気づいた。
「……なあ」
遊撃が低く言う。
「この植物、知ってるか?」
参謀は目を細めた。
中庭の地面、壁際まで。そこかしこを、同じ植物が覆い尽くしている。
よく見れば、花が咲いている場所は、ラニアがいる辺り、その周囲だけ。
「……知りませんね」
参謀が小さく答える。
「どうして、こんなに?」
「……まさか、毒薬?」
二人の顔色が変わった。
皇国では、毒殺は珍しくない。貴族社会では特に。
だからこそ、余計な想像が膨らむ。
「……聞けるか?」
遊撃が真顔で言った。
「その役目、譲りますよ?」
参謀も即答した。
単純に怖い。
リリアーナは、ただ植物に水をやっているだけだ。
それだけなのに、妙に神秘的に見える。
「……水が、やけに輝いて見える」
遊撃がぼそりと言った。
「……見慣れてないのに、何を」
参謀は呆れたように返す。
しかし、少ししてから、小さく付け加えた。
「……いや、何かな」
二人は黙り込んだ。
ただの護衛任務、そのはずだった。
ローデン閣下の隠し子を見てこい、話だったのに。
なのに、目の前の光景は、何かが違う。
決定的に、言葉に出来ない何かが。