作品タイトル不明
二人の護衛は見た②
館の中へ通される。
「改めて、俺はエドモンドだ」
若い男がそう名乗る。
「私はリリアーナです」
紫の髪の女性も、柔らかく頭を下げた。
遊撃と参謀は慌てて礼を返す。
「ところで」
リリアーナが首を傾げる。
「こちらの二人は?」
「ああ、部下だ」
ローデンは簡潔に答えた。
「珍しいわね」
「まあな」
その瞬間、遊撃と参謀は、同時に気づいた。
……あれ?もしかして、この人達、閣下の身分を知らない?いや、知らないというより、ローデンが隠している?
二人は一瞬だけ視線を交わした。
……どうする?どこまで合わせる?うっかり「閣下」とでも呼んだらどうなる?
だが、ここで確認する訳にもいかない。
……頼むから、深く聞かないでくれ。
二人は心から祈った。
しかし、願いは、あっさり砕けた。
「ローデンは、今何のお仕事してるの?セリウスの時みたいに、護衛?」
リリアーナが不思議そうに尋ねた。
遊撃の背筋が凍る。
参謀は真顔のまま内心で悲鳴を上げた。
……来た。
ローデンは少しだけ沈黙し。
「……そんな、もんだ」
と答えた。
二人は思った。
……違うでしょ!!
……総大将ですよ!?
……何が“そんなもん”ですか!!
皇国最強軍の頂点に立つ男が、なぜ曖昧に護衛扱いされているのか。
しかも本人が否定しない。
混乱しかない。
リリアーナは感心したように頷いた。
「とても裕福な方の護衛なのね」
遊撃は遠い目になった。
……護衛であんな贈り物できません。
参謀も頷きたかった。
普通の護衛ができる財力ではない。絶対にない。
エドモンドが口を開いた。
「きっと大事にされてるんだな。二人も部下がいるなんて」
二人は思った。
……部下は二人だけじゃありません!
……何百人もいます!
……その人、軍の総大将なんです!!
しかしローデンは。
「そうかな」
とだけ返した。
遊撃は頭を抱えたくなった。参謀は悟った。
……この人、隠す気はあるのに、隠し方が雑だ。
そんな二人の混乱を、ラニアはじっと見ていた。そして。
「ふふ」
小さく笑った。
明らかに、面白がっている顔だった。
遊撃はぎくりとする。
参謀は確信した。
……この子、わかってる。
幼い顔で、完全にこちらを観察していた。
しかも、絶対、楽しんでいる。
エドモンドはふと、ラニアを見た。
距離が、微妙にローデンに近い。
「ラニア、ローデンに近くないか?」
突然の言葉に、ラニアはきょとんと目を丸くする。
「?」
そして、不思議そうに首を傾げた。
「だって、お洋服くれる人でしょ?」
当然のような返答だった。
「マルグリット様にも、会ったらよくよくお礼を言うようにって言われてるよ?」
その言葉に、エドモンドはすっとリリアーナを見る。
リリアーナは少しだけ、目を逸らした。
遊撃と参謀は思った。
……あっ。
……何かありますね。
しかし、そこを深掘りする前に、ラニアがぱっと笑った。
「ふふ。そうだ、ローデン」
小さな手が、ローデンの袖を掴む。
「お礼に、花の冠つくってあげる。行こ!」
満面の幼女の笑顔。
そしてそのまま、ぐいぐいローデンの手を引っ張っていく。
「……行ってくる」
ローデンは、ほぼ抵抗せずに歩き出した。
速い。あまりにも自然で、あまりにも素早かった。誰も止める暇がない。
ぱたぱたと走るラニア。
その後ろを歩くローデン。
遊撃と参謀は、完全に固まっていた。
……今の。
……あれは、閣下なのか?
幼女に手を引かれていた。
あの、“皇国の黒狼”だの、“北の戦鬼”だの呼ばれていた男が。
遊撃は遠い目をした。
……誰も信じませんよ、こんなの。
参謀も静かに頷きたかった。
……報告書に書けませんね。
沈黙が落ちる。
だが、ここで引いてはいけない。遊撃は覚悟を決めた。
「あの、ラニアという子は……」
「俺とリリアーナの子だ。可愛いだろう」
エドモンドが、凄まじい速度で答えた。
即答だった。
遊撃と参謀は思った。
……いや、それはわかります。
……めちゃくちゃわかります。
紫の髪、顔立ち、雰囲気。どう見ても二人の子供だ。
問題はそこではない。そうではなくて。
なぜ閣下が、あんな顔をするのか。
なぜあんな贈り物を送るのか。
なぜ幼女に手を引かれて普通について行くのか。
理解が追いつかない。
その時、リリアーナがぽつりと言った。
「……ローデンのこと、話し過ぎたかしら?」
何故か少し浮ついた声だった。
エドモンドが首を傾げる。
「何をだ?」
「いえ、ラニアに少しね?」
遊撃と参謀は反応した。
……少し!?
……何を話したんです!?
しかし聞けない。
怖い。聞いたら、とんでもない何かが出てきそうだった。
参謀が慎重に口を開く。
「その……お二人と、ローデン様のご関係は?」
エドモンドとリリアーナは顔を見合わせた。
そして。
「……知り合い?」
「……物々交換?」
二人は同時に言った。
遊撃と参謀は息を飲んだ。
……駄目だ。
……全くわからん。