軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

生後十ヶ月

ラニアが生まれてから、十ヶ月が過ぎた。

最初の頃のような、昼も夜も分からない生活ではない。今では、屋敷の中にも自然と“ラニアの時間”が出来上がっていた。

朝、ラニアは陽の光と共に目を覚ます。

「おはよう、ラニア」

リリアーナが声をかけると、ラニアはぱちりと目を開き、すぐに腕を伸ばした。

「あー!」

まだ眠気の残る顔のまま、それでも真っ先にリリアーナを求める。

「はいはい」

抱き上げれば、満足そうに頬を寄せてくる。その温もりに、リリアーナは自然と笑ってしまうのだった。

朝食の時間になると、ラニアは椅子に座らされる。以前よりもずっとしっかりした身体つきになり、座る姿も安定していた。小さく切った野菜や、柔らかく煮た芋。パンをちぎったもの。ラニアは自分で掴み、真剣な顔で口へ運ぼうとする。もちろん、半分以上は途中で落ちた。この時は、いつもエドモンドが着ていた服だ。ローデンがくれた服は、いつも食事後に着替えていた。

「……すごい惨状ね」

マルグリットが呟く。机も床も、ラニア自身も食べ物だらけだ。しかし当の本人は満足げだった。

「ばっ!」

何かを主張するように声を上げ、さらにパンを握る。

「いっぱい食べるようになったな」

エドモンドが言う。

「動く量も増えましたから」

実際、ラニアはじっとしていない。食事が終われば、すぐに床を這って移動を始める。ハイハイはもう随分速い。気づけば部屋の端まで行き、棚に掴まって立ち上がろうとしている。

「ラニア、危ないわ」

リリアーナが慌てて追いかける。けれどラニアは楽しそうだった。

外へ出れば、さらに機嫌が良い。庭の草を触り、風に揺れる木々を見上げ、小鳥の声にきょろきょろと辺りを探す。

ロキが近くに来ると、嬉しそうに声を上げて追いかけようとした。もちろん追いつけない。それでもロキは少し待ち、また離れる。

その繰り返しが楽しいらしく、ラニアは声を出して笑っていた。

昼になると、遊び疲れて眠くなる。リリアーナの腕の中で乳を飲みながら、徐々に目が閉じていく。小さな手は、しっかりとリリアーナの服を握っていた。

「……本当に、この子はお前が好きだな」

エドモンドがぽつりと言う。

「そうかな」

「俺が抱くと、露骨に嫌そうな顔をする」

「……してるね」

リリアーナは苦笑した。

実際、エドモンドが抱こうとすると、ラニアはかなりの確率でリリアーナへ身を乗り出す。時には「うー!」と抗議のような声まで出した。エドモンドは微妙な顔になる。

「俺、嫌われてるのか?」

「まあ……好みは、はっきりしてるわね」

マルグリットは淡々と言った。

ラニアは完全に眠ると、そのまま穏やかな寝息を立て始める。その隙に、リリアーナは少しだけ自分の時間を持つ。調合室を片付けたり、薬草を確認したり。けれど、少しでも泣き声が聞こえると、すぐに立ち上がってしまう。

夕方には風呂。

湯の中でばしゃばしゃと水を叩き、ラニアは大はしゃぎだった。

夜になると、屋敷は静かになる。夕食を終え、遊び疲れたラニアは眠そうに目を擦る。

けれど。

「……まだ飲むの?」

リリアーナは苦笑した。ラニアは眠いはずなのに、しっかりとリリアーナへ腕を伸ばしている。

結局、最後はいつも同じだった。リリアーナの腕の中で、安心しきった顔で母乳を飲み、そのまま眠りに落ちる。

マルグリットは、その様子を見て微笑んだ。

「リリアーナが大好きなのね」

「……そう、みたいです」

リリアーナはラニアの柔らかな髪を撫でる。

すると、眠っているはずのラニアが、安心したように小さく笑ったのだった。