作品タイトル不明
帰り道②
少し大きな街での買い物を終え、四人はようやく一息ついた。
「……随分買ったんだな」
ローデンは、思わず口にしていた。視線の先には、両手に抱えきれないほどの薬草を持ったリリアーナの姿がある。
「だって、欲しかったの……」
リリアーナは自分の腕の中を見て、少しだけ肩を落とした。さすがに買いすぎた自覚はあるらしい。
「前とは違う種類だな。勉強してるのか?」
エドモンドは、その薬草の束を覗き込みながら言った。
「ちょっとね……」
リリアーナは小さく答える。その声には、ほんのわずかに何かを隠すような響きがあった。
ローデンはそれに気づいたが、あえて何も言わなかった。
「何か買ったのか?」
エドモンドは、今度はローデンとラニアに目を向ける。
「何も。見てただけ」
ラニアはあっさりと答えた。興味がなかったわけではないのだろうが、それ以上は語らない。ローデンは――口を開かなかった。
……言えるかよ。
胸の内で呟く。鞄の奥に隠した小さな髪留め。その存在が、やけに重く感じられた。
「マルグリット様に、何も選んでない」
リリアーナは小さく声を上げ、少し慌てた様子で周囲を見回す。
「……この織物じゃあ駄目か?」
エドモンドが、今回の報酬として受け取った皇国の織物に視線を落とす。
「良いかも知れないけど、やっぱり他のも……」
リリアーナは少し迷うように言った。
「じゃあ、もう少しだけ見るか」
エドモンドは、やれやれといった様子で、それでも優しく言う。その声音に、リリアーナの表情がぱっと明るくなった。
「ありがとう」
嬉しそうに微笑む。
……本当に、甘いな。
ローデンは内心で呟いた。二人はそのまま、並んで店の方へ歩いていく。やはり距離が近く、言葉も途切れない。
……二人だけで、ずっとやっていればいい。
半ば本気で、そんなことを思う。視線を横にやると、ラニアがいた。いつもと同じ、何も言わず、ただ静かに二人の背中を見ている。
その横顔は、どこか落ち着いていて――少しだけ、遠い。
ローデンは、何か言おうとして。結局、何も言えなかった。
リリアーナは、最後まで迷い続けていた。
店先に並ぶ品々を何度も見比べ、手に取り、戻し、また別のものに目を向ける。そうして、ようやく選んだのは――糸だった。
織物は、すでにある。だからこそ、と彼女は考えたのだろう。
珍しい色。鮮やかな色。落ち着いた渋い色。細いものから、少し太めのものまで。ひとつひとつ丁寧に選び取っていく。
「きっと、色々作れるよ」
嬉しそうに、リリアーナは言った。その顔には、迷いの跡はもうなく、ただ純粋な期待だけが浮かんでいた。
「俺にも何か作ってくれるのか?」
エドモンドが、少しだけからかうように言う。
「うーん。何が良いかなぁ?」
リリアーナはすぐに真剣な顔になり、腕を組んで考え込んだ。その様子に、エドモンドは小さく笑う。
「楽しみにしてる」
柔らかい声だった。それだけで、リリアーナはまた少し嬉しそうに微笑む。
……まったく、この二人は。
ローデンは少しだけ視線を逸らした。完成された空気。割って入る余地など、どこにもない。ふと、頭の中に別の光景が浮かぶ。
最上級の皇国の織物で仕立てられた衣。それを、ラニアが纏っていたなら。
紫の髪に映える色を選び、無駄のない形に整えれば、きっと、目を奪われるほどに似合う。
そして、その隣に自分が立っている。何気ない顔でその手を取って、並んで歩く。そんな未来が、ほんの一瞬胸をよぎった。
ローデンは、わずかに目を細める。
……そんなことが、あるのか。
考えて、すぐに答えは出なかった。
ただ、その想像だけがやけに鮮明に残り、鞄の中の髪飾りを、その世界に入れた。