作品タイトル不明
魔鳥襲来 7日目①
最終日――七日目が、来た。
朝の空気は、妙に重かった。静けさの中に、不安だけが沈んでいる。その中心に立つオルフェウスの顔色は、明らかに優れていなかった。
一晩中、考えていたのだろう。それでも、完全な答えは出なかった。
「……昨日と、同じ配置だ」
低い声で、そう告げる。その一言だけで、場の空気がわずかに揺れた。
「しかし――」
続ける声は、さらに低くなる。
「個々で判断して、臨機応変に動け」
それは、苦肉の策だった。現場に委ねるしかない状況に、エドモンドがわずかに表情を険しくする。
「父上、それでは……」
言いかける。しかし、オルフェウスはその言葉を遮った。
「昨日の魔鳥が、再び来るかどうかは分からぬ」
事実だった。あの変異体が再び現れるのか、それとも通常の群れだけなのか。
判断材料は、何もない。だからこそ、決めきれない。
「皆も、周りを見て行動するように」
最後にそう付け加えた。それ以上の言葉は、なかった。
誰の胸にも、重いものが残る。
頼れるのは、自分の判断だけ。その事実が、不安をより一層強くした。
それでも、誰一人として持ち場を離れる者はいない。それぞれが、弓矢を手に取り、静かに、空を見上げた。
七日目の戦いが――始まろうとしていた。
リリアーナは、昨日と同じ場所に立っていた。弓を構え、空を見上げる。
だが、魔鳥はこちらへは来ない。距離を保ち、避けている。まるで、誰が危険なのかを理解しているかのように。
オルフェウスの位置にも、エドモンドの位置にも。そして、あの魔力を矢に乗せられる兵士の位置にも。すべて、外していた。
高く空の上で、魔鳥たちは旋回している。
その中でラニアがふっと目を細めた。
「……いるね」
小さく、呟く。
「昨日の、が? わかるの?」
リリアーナが問いかける。
「他のと、違うから」
ラニアは空を見つめたまま、淡々と答えた。
わずかな沈黙。
「……動く、みたい」
「どっちに?」
ラニアは、すっと指をさす。
「あっちだよ。ほら、あれ」
視線を追えば。確かに、群れの中に、僅かに異なる動きがあった。流れに乗らない、意図のある軌道。リリアーナは、息を詰める。
「行くわ」
迷いなく言って、その方向へと駆け出した。
ラニアは、一瞬だけ目を細める。けれど何も言わず、その後を追った。
ロキも、低く身を構えて走り出す。そして、ローデンも。
ローデンには、会話は届いていない。しかし、二人の動きだけで理解した。
……狙われる場所へ、向かっている。一直線に。
「無謀だな」
ローデンは、小さく呟いた。それでも、足は止めなかった。
「間に合わない――」
リリアーナの声が、張り詰めた空気の中に落ちた。
視線の先に魔鳥が五つ、同時に一ヶ所へと降下していく。狙いを定めて、一直線に。
リリアーナは即座に矢を放った。一つ、落ちる。間を置かず、ラニアも弓を引いた。
鋭い一射。もう一つ、落ちる。
けれど、残り三つはそのまま降りていく。さらに、上空から別の魔鳥が続いた。
混乱し、陣形を崩す兵士たち。あの変異した魔鳥が、急降下する。家畜小山の屋根に落ちた、かのように見えた。瞬間、壊された家畜小屋の屋根が、持ち上げられ、そのまま兵士達に落とされた。避けられない。
「――っ!」
短い叫びが、響いた。
リリアーナは、歯を食いしばる。
「させない……」
一言呟き、矢を放つ。一つ、落ちた。だが、その瞬間。二つつの影が、こちらへ向かってきた。リリアーナを狙って一直線に。
そのうちの一つは、胸に、白い弱点がない。
完全に鱗で覆われた個体。速い、頭を狙おうにも、軌道が読めない。
「ロキ!」
ラニアの声が、鋭く響く。
次の瞬間。
ロキが地を蹴り、リリアーナへと飛びついた。強くリリアーナを押し倒す。
その直後、魔鳥がすぐ上を掠めていった。ほんのわずかでも遅れていれば、終わっていた。
ラニアはすでに次の矢を放っていた。一つ、撃ち落とす。残るは、一つ。だがそれは、白い部分のない、あの個体。
それが、標的を変え、ラニアへと向かってくる。
「――っ」
その瞬間。横からローデンがラニアを抱えるようにして跳び、地面を転がる。すぐ横を、影が通り抜けた。土が舞い、空気が裂ける。
ローデンは、息を吐きながら呟いた。
「……無茶、しやがって」
魔鳥は、再び空に戻っていた。