軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラニアは文字を練習する

リリアーナはエドモンドの仕事を手伝い始めた。エドモンドが、執務室からあまりにも離れるからだ。

けれどラニアは、エドモンドの仕事には全く興味が無い。ラニアは、自由に時間を使い始めた。

昼下がりの城の一室。

窓から差し込む光の中で、ラニアは机の上の紙をじっと見つめていた。

そこには、いびつな文字が並んでいる。

「……読めるのに、なんでこうなるんだろうね」

ラニアはペンを持ったまま、少し不満そうに言った。

ローデンはその隣で腕を組んでいる。

「読めても、書けないんだ」

ラニアはあっさりと続けた。

「不思議だよね」

「不思議でもなんでもない」

ローデンはため息混じりに言った。

「書くのは、少しコツが必要だ」

ラニアは顔を上げた。

「コツ?」

「力の入れ方と、順番だ。見てろ」

ローデンはペンを取り、紙の上にゆっくりと文字を書いた。

無駄のない動きで、少し斜めだが整った字が並んでいく。

ラニアはじっとそれを見ていた。

「……同じの、書いてるはずなのに、全然違うね」

「お前のは、線が暴れてる」

「暴れてる?」

「落ち着いて、書け」

ローデンはラニアの手を軽く取った。

そのまま、ペンの持ち方を直す。

「こうだ。余計な力を抜け」

「……近い」

ラニアがぼそりと言った。

「黙ってろ」

ローデンは短く返したが、わずかに耳が赤い。そのまま、ラニアの手を支えながら、一文字書かせる。ゆっくりと、慎重に。

「……あ」

紙の上に、先程よりもずっと整った文字が現れた。

ラニアは目を輝かせる。

「書けた」

「当たり前だ」

「でも、さっきより全然いい」

ラニアは嬉しそうに何度もその字を見た。

そして、ふとローデンを見上げる。

「ねぇ、もう一回」

「……仕方ねぇな」

ローデンは小さく息を吐いた。

その顔はどこか、ほんの少しだけ緩んでいた。

窓の外では、穏やかな風が木々を揺らしていた。

ラニアは、書いたばかりの文字を眺めながら、ふと思いついたように顔を上げた。

「ねぇ、少し手紙交換しない?」

「……何でだ」

ローデンは怪訝そうに眉をひそめる。

ラニアはくすりと笑った。

「上手になって、リリアーナを驚かすの」

その言い方は、どこか楽しそうだった。

ローデンは少しだけ考えたあと、鼻で息を吐く。

「回りくどいことするな。普通に見せればいいだろ」

「それじゃ、面白くないでしょ?」

ラニアは当然のように言った。

「書くだけは、つまんない」

「……遊びか」

「うん、遊び」

即答だった。

ローデンは呆れたように視線を逸らしたが、少しだけ口元が緩む。

「で?どうやってやるんだ」

「簡単だよ」

ラニアは紙を一枚引き寄せた。

「毎日、一通。短くていいから書くの」

「誰に渡す」

「ローデンに」

ラニアはにやりと笑った。

「ローデンも、僕に書いて」

「……面倒だな」

「逃げるの?」

ぴたり、と言葉が止まる。

ローデンの眉がぴくりと動いた。

「逃げねぇよ」

低く返す。

ラニアは満足そうに頷いた。

「じゃあ、決まり」

さっそくペンを持ち、紙に向かう。

少しだけ悩んでから、ゆっくりと書き始めた。

ぎこちないが、先ほどより整った文字。

ローデンは腕を組んで、それを横目で見ていた。

「……何書いてる」

「秘密」

ラニアは顔も上げずに言った。

「手紙なんだから、読むまでのお楽しみ」

やがて書き終えると、ラニアはそれを丁寧に折りたたみ、ローデンに差し出した。

「はい、一通目」

ローデンはそれを受け取る。

少しの間、見つめてから――

無言で紙を取り出し、ペンを走らせた。

「え、今書くの?」

「一日一通だろ」

ぶっきらぼうに言う。

ラニアは楽しそうに笑った。

「確かにね」

窓から差し込む光の中、二人は向かい合って紙に向かう。

静かな時間の中で、インクの音だけが小さく響いていた。

ローデンは、紙に視線を落としたまま、妙な感覚にとらわれていた。

胸の奥が、どこかむず痒い。落ち着かないような、けれど悪くはない感覚。

ふと顔を上げると、向かいでラニアが真剣な顔で文字を書いている。

少し前まで、こんな風に机に向かう姿はなかったはずだ。

……どうして、文字を書こうと思った?ラニアが、変なのか。それとも、自分の見方が、変わったのか。

ローデンは小さく息を吐いた。

答えは出ない。

ただ、ペンを走らせるラニアの姿を、何となく目で追ってしまう。

静かな時間。言葉は少ないのに、不思議と居心地が悪くない。

むしろ、このままでいい、とすら思う。

いや。……永遠に続けばいいのに。

自分でも、らしくないと思った。

ローデンは眉をわずかにひそめ、視線を紙に戻した。

それでも、胸の奥の感覚は、消えなかった。