作品タイトル不明
エドモンド達、帰る
エドモンドたちは、城へと帰還した。
城門をくぐると、すぐにオルフェウスとマルグリットの姿があった。二人とも、どこか窶れている。
長く眠れていないのだろうと、一目で分かった。
だが、リリアーナとラニアの無事な姿を見た瞬間、その表情がぱっと明るくなる。
張り詰めていたものが、一気にほどけたようだった。
そんな中、ラディンはあっさりと言った。
「じゃあ、帰るから」
まるで用事を終えたかのような、軽い口調だった。そして、ロキの頭を軽く撫でる。ロキは嬉しそうに目を細めた。
「えー。もう帰るの?」
ラニアが少し不満そうに、唇を尖らせる。
ラディンは一瞬だけラニアを見て、少しだけ表情を緩めた。
「……また、来るから」
そう言って、ラニアの頭もぽんと撫でる。ラニアは少しだけ嬉しそうに目を細めた。ラディンはそのまま背を向け、城を後にする。
ローデンは、その背中をじっと見ていた。
……来なくて、いい。
なぜか、そんな言葉が胸に浮かんでいた。
「……あの、私とラニアの能力が、ローデンに知られてしまいました。口止め料として、もう一度皇国に行く話が出てるのですが……」
リリアーナは恐る恐る、オルフェウスにそう切り出した。
一瞬の沈黙。次の瞬間。
「……何ですって」
マルグリットの目が、鋭く吊り上がった。
空気がぴんと張り詰める。リリアーナは思わず肩をすくめ、小さくなった。
その場を静めるように、オルフェウスが口を開く。
「……これから、魔鳥の襲来がある」
低く、現実的な声だった。
「甘甘草も、まだ生育途中です!」
マルグリットが厳しく言い添える。
状況は決して余裕があるものではない。
その中で、エドモンドが一歩踏み出した。
「魔鳥の襲来が終わって、甘甘草の目処が立ってからなら、どうだろうか?」
慎重な提案だった。
ローデンは、その言葉を聞きながら思う。
……別に、急いではいない。それに、それまでは、ここに普通に居られる。
視線が、自然とラニアへ向く。ラニアは、まるで他人事のような顔で話を聞いていた。
興味があるのか無いのか、分からない表情。
ローデンは小さく息を吐いた。
「それで、十分だ」
短く、そう言った。
「それなら、まだ……」
オルフェウスが続けようとした、その時。
「待ちなさい」
マルグリットが口を挟んだ。
「リリアーナの体調に異変があるようなら、止めますからね」
きっぱりとした声音だった。
「その時は、待ってもいい」
ローデンはすぐに応じた。
オルフェウスは、わずかに眉を上げる。
「……随分、緩いな」
「悪い知らせは、届いてないからな」
ローデンは淡々と答えた。
その言葉には、どこか余裕が滲んでいた。
「ところで、ラニア。少し、身長が伸びた?」
マルグリットがラニアをじっと見て言った。
「そうかな?」
ラニアは首をかしげる。マルグリットはさらに目を細めた。
「雰囲気も、変わった?」
どこか訝しむような声音だった。ラニアは特に気にした様子もなく、あっさりと言う。
「色々体験すると、成長するんだよ」
あまりにも自然な答えだった。
……あれは、体験なのか?ローデンは心の中で思ったが、口には出さなかった。
「まあ、皆が無事なら良いじゃないか」
オルフェウスが場を和らげるように言う。
「……そうね」
マルグリットも、わずかに目元を柔らかくした。エドモンドが静かに口を開く。
「リリアーナは、疲れているから休ませてあげようと思います」
確かに、その通りだった。
リリアーナは見た目以上に消耗しているはずだ。エドモンドとリリアーナは、並んで部屋を後にした。
扉が閉まる。
残された空気が、少しだけ重くなる。
「……ローデン」
オルフェウスがゆっくりと口を開いた。
「リリアーナと、ラニアについては、どこまで知っているのだ?」
厳しい声だった。
ローデンは一瞬だけ考え、慎重に答える。
「リリアーナは治癒の能力を。ラニアは……人以上の能力、でしょうか?」
言葉を選ぶように言った。
オルフェウスは小さく頷く。
「……そうだな」
短く肯定した。
そして、間を置いてから続ける。
「皇国に行ったら、手のひらを返すのでは?」
問いは、鋭かった。ローデンは迷わなかった。
「それは、しません。誓って」
はっきりとした声だった。揺らぎはない。
しかし、オルフェウスとマルグリットの表情から、不安が消えることはなかった。