作品タイトル不明
エドモンド達の奇襲
森の茂みが、がさりと揺れた。
次の瞬間――小さな影が飛び出してくる。ラニアの前へ、一直線に。
「ロキ!」
リリアーナは思わず声を上げた。
ロキは地面を滑るように駆け寄り、ラニアとリリアーナの前に立つ。低く唸り、周囲を警戒している。
リリアーナを襲った男達の中で、弓を持っているのは二人だった。矢の応戦は続いている。
だが――そのうちの一人が、舌打ちをした。
背後に、気配。振り向くまでもなくわかった。誰かが、そこにいる。
男はすぐに弓を投げ捨て、腰の山刀を抜いた。
刃が鈍く光る。振り返った先――ローデンが、そこに立っていた。
もう一人の弓兵は、必死に矢を放ち続けている。飛んでくる矢を、撃ち返すように。
森の奥から、矢が飛んでくるのだ。矢が木に突き刺さり、地面を抉る。
そのせいで、リリアーナ達へ近づこうとしても、動けない。
森の中の戦いは、完全に混乱していた。
ローデンは、迷いなく男へ斬りかかった。
踏み込みは鋭く、剣は一直線に振り下ろされる。
男は咄嗟に山刀を抜き、刃で受けた。
金属がぶつかり合い、鋭い音が森に響く。
だが――。
「遅い」
ローデンが低く言った。次の瞬間、剣が再び動く。重く、速い。無駄のない剣さばきだった。
男は二度、三度と受けようとしたが、追いつかない。刃が弾かれ、体勢が崩れる。
その隙を逃さず、ローデンの剣が男の体を打った。
男は声も上げられず、地面へ崩れ落ちる早々に、戦闘不能だった。
その様子を見ていた弓を持った男が、すぐにローデンへ狙いを定める。弦が引かれる。
ローデンはすぐに木の陰へと身を滑り込ませた。
矢が、幹に突き刺さる。
その瞬間――ロキが弓を持った男へ向かって走った。
「こっちか」
男はロキに気づき、すぐに矢を放つ。矢が空気を裂く。だが――外れた。
ロキは地面を蹴り、さらに距離を詰める。
次の瞬間。男の背後から、影が現れた。
ラディンだった。
音もなく近づいていたのだ。
短剣が、あっさりと男の急所を貫く。
男は驚いた顔のまま、力を失った。
ラディンは短く息を吐き、ロキを見た。
「ロキ、お手柄だ」
ロキは小さく鳴いた。
その間に、ローデンは木の陰から飛び出していた。真っ直ぐ、リリアーナとラニアのもとへ走る。
「大丈夫か?」
息を整えながら、二人を見る。
手と足には、鎖。しかし。リリアーナは、怪我らしい怪我はない。顔色は青いが、無傷に見える。
ラニアは包帯を巻いているものの、思ったほど状態は悪くない。
少なくとも、顔色は極端に悪くはなかった。
ローデンは、そこでようやく息を吐いた。
胸の奥に溜まっていた緊張が、静かにほどけていった。
ローデンは、腰につけていた小さな鞄を探った。中を指でかき分け、細い金属を二本取り出す。
針金のように見える、それ。
リリアーナは思わずそれを見つめた。
「……それは?」
小さく尋ねる。ローデンは顔も上げずに答えた。
「じっとしてろ」
短い言葉だった。
そして膝をつき、リリアーナの足の拘束具に手を伸ばす。針金を鍵穴に差し込む。
かちゃ、かちゃ、と小さな音。
器用に指を動かしながら、中を探る。
リリアーナは息を止めて見ていた。
次の瞬間。かちり、と軽い音がした。
拘束具が、外れる。
足首を縛っていた金属が、ぱたりと開いた。
「……え?」
リリアーナは驚いた声を漏らした。だがローデンは構わず言う。
「次、腕だ」
そう言って、今度はリリアーナの手首の拘束具へ針金を差し込んだ。また小さな金属音が続く。
そして――かちり。
こちらも、あっさり外れた。
リリアーナの手首から、重い拘束具が外れ落ちた。
矢が、来なくなった。
森に、ふいに静けさが戻る。
エドモンドは、弓を構えたまま、わずかに目を細めた。
……成功したか。
ローデン達が敵を制したのだと、すぐに分かった。
だが――まだ油断はできない。
森の戦いは、終わったと思った瞬間が一番危ない。
伏兵がいる可能性もある。
エドモンドは息を殺し、周囲の気配を探った。
葉の擦れる音。風の流れ。
遠くの鳥の声。
それでも、油断せずに弓を構え続ける。
本当は、すぐにでも確認したい。
リリアーナが無事かどうか。
だが――待つ。
焦って動けば、すべてが台無しになる。
エドモンドは、ゆっくりと呼吸を整えた。
弓は、いつでも射てる状態のまま。
視線は、森の奥へ。
……もうすぐだ、リリアーナ。
エドモンドは感情を押し込め、ただ静かに狙いを定め続けていた。