作品タイトル不明
ラニアの異変?
リリアーナは、ゆっくりと目を覚ました。
森の中。湿った土の匂いが鼻をつく。地面に直接横たわっていたせいで、背中も肩もひどく痛んだ。
小さく身じろぎしながら、まず周囲を見た。
巨大な熊は、相変わらず少し離れた場所で丸くなっている。
昨日と同じように、ぴくりとも動いていない。
……ラニアは?
その時、男達のざわついた声が耳に入った。
男達は一か所に集まり、何かを囲んでいる。
「おい、起きろ」
「寝たふりするんじゃねえ」
誰かが苛立った声で言いながら、乱暴に身体を揺すった。
しかし――ラニアは、壊れた人形のように動かなかった。
「……息は、あるよな?」
「少なく、ないか?」
「脈は?」
男達の声が、次第に不安を帯びていく。
「……おい、おかしいぞ」
「誰か、ちょっと見てくれ」
……ラニア?
リリアーナの顔から血の気が引いた。男の一人がラニアの手首を掴み、眉をひそめる。
「脈は、一応、あるよな?」
「……ある、のか?」
確信のない声だった。
ラニアは、叩かれても、つねられても、まったく反応しない。目を閉じたまままるで、本当に壊れてしまったかのようだった。
「……ラニア?」
リリアーナは思わず、名前を呼んでしまった。
その瞬間。男達の視線が、一斉にリリアーナへ向いた。鋭い目が、彼女を射抜く。
「……何か、知ってるのか?」
低い声で男が言った。
「こいつ、どうしたんだ」
「おかしいぞ」
男達の顔には、明らかな困惑が浮かんでいた。
リリアーナは、男達の言葉を聞いた瞬間、顔色を変えた。
「……もしかして、足りない?」
思わず口からこぼれた言葉に、男達が一斉に反応する。
「足りない、とは?」
「何がだ」
鋭い声が重なった。
リリアーナははっとして、すぐに首を振った。
「……」
何も言わない。男の目が細くなる。
「何を、知ってる」
低く押し殺した声だった。リリアーナは、もう一度首を振った。その次の瞬間、腕を乱暴に掴まれる。
「来い」
「きゃっ……」
リリアーナは地面を引きずられた。鎖が地面を擦り、重い音を立てる。
男はラニアのそばまで来ると、リリアーナを突き飛ばすように押しつけた。
「見てみろ」
男は苛立った声で言った。
「昨日は、普通だったんだ」
リリアーナは地面に手をつきながら、恐る恐るラニアを見た。
力無く横たわったまま。
だが。見ただけでは、リリアーナには何も分からなかった。
「……ラニア?」
リリアーナは、そっと呼びかけた。
けれど。ラニアは、まったく反応しなかった。
「おい、どうするんだ」
「もう少し、様子を見るか」
「どうにかなるものなのか」
男達がざわめいた、その瞬間だった。
ひゅっ――鋭い風を裂く音とともに、森の中から矢が飛んできた。
「追っ手か!?」
「伏せろ!」
「散れ!」
「森だ。矢は不利だ!」
怒号が飛び交う。男達は一斉に散り、木々の陰へと身を滑り込ませた。
矢が、飛ぶ。空気を切り裂く音が、森の静寂を破っていた。
その混乱の中で、リリアーナはそっと身体を動かした。鎖を引きずりながら、ずり……ずり……と地面を進む。
誰も、今は彼女を見ていない。
ラニアへ。
少しずつ、少しずつ。ようやく、手が届く距離まで近づいた。
リリアーナは息を詰めながら、ラニアの顔へと身を寄せた。
「……ラニア」
囁くように呼ぶ。
その瞬間。
ぱちり、と。ラニアの目が開いた。
リリアーナの心臓が、大きく跳ねる。
ラニアはほんのわずかに視線を動かし、森の方を見た。
「来たね」
とても小さな声で、そう呟いた。
その唇の端が、ゆっくりと持ち上がる。
ラニアは、静かに笑った。
リリアーナは目を見開いた。
……本当に、心配していたのに。
胸の奥に溜まっていた不安が一気にほどけ、その代わりに別の感情がこみ上げる。
――騙された。
リリアーナは、じとりとラニアを睨みつけた。
ラニアはというと、そんな視線など気にも留めない様子で、何事もなかったかのように静かに横たわっている。
まるで最初からすべて分かっていたかのように、落ち着き払っていた。