軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロキ、リリアーナを見つける

ラニアは、巨大な熊の前に立ったまま、じっとその瞳を見つめた。

理性の欠片もないはずの、光。だが、その奥に――わずかな揺らぎがある。

どれくらい、そうしていただろう。

空気が張り詰め、男達も息を呑んだまま動けない。

やがて。熊が、ゆっくりと身じろぎした。

重たい体が、立ち上がる。

「立ったぞ」

「どういうことだ」

ざわめきが広がる。恐れと興奮が入り混じった声。ラニアは振り返らない。ただ、静かに言った。

「行くんでしょ? どっちに?」

まるで散歩の行き先を聞くような口調。

「あっちだ」

男の一人が、ある一方を指差す。熊は、のろりと顔を向けた。そして――ゆっくりと、その方向へ歩き出す。

地面が揺れるような足音。

「ははっ。本物だぜ」

「すげえ……」

男達の顔に、下卑た歓喜が広がる。自分達が手に入れた力に酔っている。その中で、ラニアは淡々と言った。

「ずっとは、持たないよ?」

男達が眉をひそめる。

「何でだ」

ラニアは、熊の額を指さした。

そこに埋め込まれた、鈍く光る石。

「あの、魔石」

空気が変わる。男達の顔色がわずかに引き締まる。

「僕には、邪魔」

それだけ告げる。意味を理解しきれない男達。だが、完全には無視もできない。

リリアーナは、相変わらず拘束されたまま、少し離れた位置に立たされている。

視線だけが、ラニアを追う。

「まあ、いい。人質はいるんだ」

男が吐き捨てる。自信に満ちた声。刃はまだ、すぐ届く距離にある。

そうして――熊を先頭に、男達は歩き始めた。

森の冷たい空気。重たい足音と、鎖の音が重なり合った。

「ここまで、だな」

男が舌打ちをしながら言った。

先頭を歩いていた熊も、ぴたりと足を止める。重たい息をひとつ吐き、やがてその場に丸くなってうずくまった。

巨大な体が沈み、地面がかすかに震える。ラニアは、それを静かに見つめていた。

「お前は、こっちだ」

男に腕を掴まれ、ラニアは熊から遠い位置へと連れて行かれる。

一方、リリアーナは熊のそばに座らされた。

再び、あの石のように硬いパンと水袋が渡される。

「食え」

短い命令。リリアーナは従うしかない。

視線だけで、ラニアを探す。ラニアは、大人しくしていた。抵抗も、挑発もせず。

ただ静かに、状況を受け入れているように見えた。

夜が更ける。焚き火の火が小さくなり、男達のいびきが森に混じる。リリアーナは浅い眠りに落ちていた。

そのとき――小さな気配。リリアーナは目を開けた。暗闇の中、低い影がひとつ。

……ロキ?

胸が跳ねる。熊は動かない。丸くなったまま、寝息を立てている。

男達も、気づいていない。寝ずの番も、火を見たままだ。少し、身体が揺れていた。

ロキは、リリアーナに慎重に近づいた。

……誰も、気づきませんように。ロキは、まだ怪我が治りきっていないはず。

側にきたロキにリリアーナはそっと手を伸ばした。そして治癒をかける。

瞬間――熊の体が、ぴくりと動いた気がした。リリアーナの心臓が止まりそうになる。

だが。熊は再び、深い呼吸を繰り返すだけだった。

……治った、はず。ロキは、小さな体を低くしたまま、リリアーナを見上げる。

その瞳が、静かに光る。

伝わる。言葉はないのに。

……助けが、来てる?

胸の奥に、灯がともる。

暗闇の中で、リリアーナは初めて、ほんのわずかに希望を抱いた。

ロキは、静かに視線を動かした。

見たのは――ラニアだった。焚き火の向こう側。

ラニアの周りには、男達が集まっている。

武器を手に、明らかに警戒していた。眠っている者もいるが、完全に気を抜いているわけではない。

誰かが必ず起きて、ラニアを見張っている。

厳重な見張り。まるで、そこに一番危険な存在がいると知っているかのように。

ロキは、ほんのわずかに耳を伏せた。それから、もう一度視線を動かす。リリアーナ。

彼女のそばにいる男は――一人だけだった。

熊の近くのためか、見張りは緩い。明らかに、寝ていた。

その違いは、あまりにもはっきりしていた。

ロキは、リリアーナをじっと見た。

リリアーナは頷いた。

ロキは小さく瞬きをした。それから、ゆっくりと視線を外し、もう一度、ラニアを見る。そして――音もなく、体を翻した。

黒い影のように地面を滑り、森の闇へと溶けていく。落ち葉も鳴らさず。枝も揺らさず。

ロキの姿は、あっという間に闇の中へ消えた。

リリアーナは、祈るように闇を見ていた。