作品タイトル不明
リリアーナの査定
リリアーナは、乱暴に引き摺られ、男達の前へ放り出された。
膝をつく。鎖が鳴る。
顔を上げた瞬間、ぞっとした。
取り囲む男達の目が――異様に光っている。
欲望とも、好奇ともつかない、濁った光。
その視線に射抜かれ、リリアーナの顔色はさらに蒼白になる。
「……お前が、魔獣使いか?」
一人が、低く問いかけた。試すような声。
リリアーナは喉の渇きを押し込み、慎重に答える。
「……違うわ」
視線を逸らさない。震えを悟られないように。
「じゃあ、もう一人の方か?」
男が顎で奥を示す。ラニアのいる方向。
リリアーナの胸が強く鳴る。だが、表情は変えない。
「……違うわ」
短く、きっぱりと。
「嘘だ」
別の男が吐き捨てる。
「あのちっさい犬は、確かに魔獣だ」
「あの魔力、ちげえねぇ」
口々に言葉が飛ぶ。確信を持っている声。
追い詰めるように、輪が狭まる。
「……素直に、話してくれねえかな?」
先ほどの男の声が、さらに凄みを増す。
威圧。脅し。リリアーナは、口を閉ざした。
視線も、感情も、閉じ込める。
「ちっ。だんまりか」
「今のうちだぜ。優しいのは」
下品な笑いが広がる。
「まあ、あっちに聞いてもいいか」
「だな」
「あの力。ほぼ、あいつだろ」
その言葉に――リリアーナの心臓が凍りつく。
ラニア。視線が一瞬だけ揺れる。それを、男達は見逃さなかった。
「しかし、まだ起きねえな」
男の一人が、退屈そうに舌を鳴らした。
「あの拘束具を素手でちぎったんだ。生きてるだけで、おかしい」
別の男が、半ば呆れたように言う。
その声には、恐れが混じっていた。
化け物を見るような響き。
「こいつは、どうする?」
視線が一斉に、リリアーナへ向けられる。
値踏みする目。品定めする目。
「……まだ、若いな」
「売るか?」
下卑た笑いが漏れる。リリアーナは、無意識に後ろへにじり下がった。
逃げ場はない。心臓の音がうるさい。
だが、顔は伏せない。睨み返す。
それしか出来ない。
「まて」
低い声が制した。
「まずは、人質だ」
空気が変わる。
「――あれが、言いなりになるように、な」
その言葉に、男達は再び笑った。
嫌な笑いだった。粘つくような、底意地の悪い笑い。
リリアーナの指先が震える。ラニアを縛るための、道具。自分が。
その現実が、胸を締め付けた。
それでも――唇を噛み、涙だけは落とさなかった。
「で。お前は人質だ」
短く、決定の声。
「こっちだ」
腕を掴まれ、リリアーナは強引に引き立たされた。
「待って。逃げることは、できないわ。だから、側に居させて」
必死に訴える。声が掠れる。だが、男達は足を止めない。視線が、彼女の手足の鎖へ落ちる。
「駄目だ。あっちは、わかんねぇ力持ってるからな」
冷たい拒絶。理屈ではない。恐れだ。
だからこそ、容赦がない。
リリアーナは抗えなかった。
そこには――大きな影があった。
最初は、岩の塊かと思った。
だが、近づいて気づく。
ゆっくりと上下する、巨大な体。荒い呼吸。分厚い毛皮。影の正体は――巨大な熊だった。
魔獣。あの圧倒的な存在。鼻先がわずかに動き、空気を嗅ぐ。その息だけで、肌が粟立つ。
「大人しく、しろよ」
男が言う。
「じっとしてれば、何もしねぇ」
本当に?そうは、見えない。
牙。爪。少しでも機嫌を損ねれば、ひと振りで終わる距離。抵抗できるはずもない。
リリアーナは、その場に座り込んだ。
鎖が重く、床に落ちた。