軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

結婚式

エドモンドとリリアーナの結婚式は、決して盛大なものではなかった。豪奢な装飾も、華やかな演出もない。

けれど、町の広場には、静かな温もりが満ちていた。領民たちが集い、遠巻きに二人を見守っている。

誰もが、噂ではなく、この目で二人の姿を確かめようとしていた。

この世界の結婚は、人前式。

神にではなく、人に誓う。

――この地で生きる人々に、夫婦となることを告げるための儀式だ。

白いドレスに身を包んだリリアーナは、少し緊張した面持ちで立っていた。けれど、その背はまっすぐで、逃げることはない。

隣に立つエドモンドは、揺るぎない表情で前を見ている。

やがて、誓いの時が訪れた。

エドモンドが、一歩前に出る。

「私は、エドモンド。この場に集う皆の前で誓います」

低く、はっきりとした声だった。

「リリアーナを、妻として迎え、彼女の言葉に耳を傾け、迷う時には共に考え、危険な時には、必ず守ると」

一瞬の迷いもなく、言い切る。

「喜びも、苦しみも、この領地で生きる日々のすべてを、彼女と分かち合うことを誓います」

次に、リリアーナの番だった。

彼女は小さく息を吸い、ほんの一瞬だけ、視線を落とす。けれど、すぐに顔を上げ、まっすぐエドモンドを見つめた。

「わ、私は……リリアーナです」

声は少し震えていたが、逃げなかった。

「エドモンド様を、夫として受け入れ、頼りすぎず、背を向けず、共に歩むことを誓います」

言葉を選ぶように、一つずつ。

「迷う時も、怖い時も……それでも、ちゃんと向き合い、あなたと生きることを、誓います」

沈黙が、ふっと落ちる。

次の瞬間、誰からともなく、小さな拍手が起こった。それはやがて広がり、広場は、温かな音に包まれる。

派手ではない。けれど、確かに祝福だった。

エドモンドはそっと、リリアーナの手を取った。

リリアーナも、少し恥ずかしそうに、けれど確かに、その手を握り返す。

こうして二人は、人々の前で、夫婦となった。

二人の誓いを、少し離れた場所から、オルフェウスとマルグリットは並んで見ていた。

「……私たちの時を、思い出しますね」

マルグリットが、懐かしむように言う。

「ああ。俺の時は、もっと言葉が少なかったがな」

オルフェウスは、少し照れたように肩をすくめた。

「そうでしたね。『夫として、一生涯、妻、マルグリットを大切にします』……それだけでしたわ」

マルグリットは、くすりと小さく笑う。

「君も、同じ言葉だった」

苦笑まじりに、オルフェウスが返した。

「旦那様を、立てたのですよ」

そう言って、マルグリットは優しい瞳で、オルフェウスを見上げる。

「……今でも、随分と助けてもらっているがな」

オルフェウスはそう呟き、そっとマルグリットを引き寄せた。

自然な仕草だった。長い時間を共に歩んできた者同士の、当たり前の距離。

二人は寄り添ったまま、若い夫婦――エドモンドとリリアーナの姿を、静かに見守っていた。

その眼差しには、祝福と、少しの懐かしさが混じっていた。

ラニアは一人、エドモンドたちの姿が見える場所に立っていた。

祝福される二人。祝福する人々。

その輪の中へ、どうしても足を踏み入れることができない。

――もし、精霊のままだったなら。

リリアーナの傍に、ずっと、ふわりと浮かんでいられただろう。他人も、立場も、誰の視線も、関係なく。

「……どうして、胸が痛いんだろう」

ラニアは、ぎゅっと胸元をつかんだ。

「リリアーナ……僕だけを、見てよ」

小さく、誰にも届かない声で呟く。

遠くに見えるリリアーナは、笑顔だった。

きっと、今まででいちばん――

誰かに向ける、最高の笑顔。

ラニアは、首を横に振った。

「……おめでとう、って言いに行こうか」

そう言えば、きっと。

リリアーナは、あの笑顔を、僕にも向けてくれるはずだ。

胸の痛みを、ぐっと飲み込む。

そして、無理に口角を上げた。

ラニアは、ゆっくりと、歩き出した。