軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エドモンド、帰省する

翌日、皇国は明確に弓矢対策を講じてきていた。前線には大型の盾を持つ兵が配置され、要所には対弓用の結界具が据えられる。さらに、矢を感知して迎撃する少数精鋭の護衛部隊――まるで人ならざる存在を思わせる威圧感を放つ者たち――が前に出てきていた。

その陣容を見た瞬間、エドモンドと友人は視線を交わし、即座に理解した。昨日の戦法は、もう通じない。

案の定、矢は思うように通らず、無理に踏み込めば被害が広がる。両軍は一気に距離を取り、再び戦局は膠着した。だが、それはこれまでの一方的に押し込まれる膠着ではない。互いに手の内を測り、次の一手を慎重に探る、張り詰めた静けさだった。前線には、いつ動いてもおかしくない緊張だけが漂っていた。

エドモンドたちは知らなかった。その同じ頃、アグネッタが皇国へと向かっていたことを。

そして、しばらくして届いたのは、停戦を告げる伝令だった。

なぜ今なのか。

何を目的とした戦いだったのか。

誰もが、その真意を測りかねたまま、戦場に訪れた不自然な静寂を受け止めていた。

国王のもとに、皇国からの書簡が届けられた。

厚手の羊皮紙に記された文字は、整っていながらも感情がなく、ただ事実と命令だけが並んでいる。

――弱小国が身の程を越えて声を上げることは、皇国は許さない。

――現在、薬師アグネッタは皇国が正式に保護・管理している。

――今後、彼女の所在を探ること、接触を試みることは一切認めない。

――また、皇国への敵対行為と見做した場合、次は王都まで進軍する。

――和平を望むのであれば、定められた和平金を期日までに納めよ。

――従わぬ場合、その結果は自明である。

署名には、皇国の正式な官印が押されていた。

疑いようもなく、本物の書簡だった。

国王は文字を追う指を止め、顔から血の気を失っていった。国の総力を挙げ、犠牲を払い、それでもなお、この扱いなのだ。

王妃と重鎮たちが呼び集められ、書簡は回し読まれた。

誰一人として反論の言葉を口にできない。

皇国は、あまりにも強大だった。抗えば、次に失うのは領地ではなく、王都そのものだ。

沈黙の中で、皆が同じ結論に辿り着く。

――従うしか、ない。

国王は深く息を吐き、震える手で書簡を閉じた。

その決断が、どれほどのものを失う選択なのか、誰よりも理解していながら。

そうして、屈辱的な内容ではあったが、国王はそれを受け入れ、停戦へと舵を切った。戦の終結を告げる知らせは瞬く間に広がり人々は長い緊張から解き放たれたように安堵の息をついた。

しかし、国王は皇国から届いた書簡の真の内容を厳重に秘匿した。民衆に知らされたのは、「我が軍の奮戦により、強大な皇国を退けた」という勝利の物語だけだった。

巧妙な情報操作であったが、人々は疑うことなくそれを信じた。戦局に大きく貢献したエドモンドとその友人は、瞬く間に英雄として称えられ、街ではその名が誇らしげに語られるようになった。

国の威厳を保つため、そして民心の動揺を防ぐため、国王はその流れを止めることなく、むしろ積極的に支持したのだった。

凱旋パレードを行うべきだ、という意見も上がった。しかしエドモンドとその友人は、そろってそれを断った。

それぞれに――帰るべき場所で、待っている者がいるのだと。

栄誉を誇るよりも、約束を果たすことを選んだ二人の姿勢は、かえって民衆の心を強く打った。

英雄でありながら驕らない。その在り方は、人々の評価をさらに高めることとなった。

エドモンドは、凱旋の喧騒を背に、北の領地へと急いだ。

同行していた兵士たちには、無理をせず休みを取りながら帰還するよう命じ、自らは単身、馬を駆って駆け出す。

――待つ者のいる場所へ。

戦場とは異なる、もう一つの戦いが、彼を待っているのだから。

「リリアーナ」

城へ戻るなり、エドモンドは彼女の名を呼びながら探し回った。

「……凱旋パレードが、あるのでは?」

リリアーナは目を見開いた。戦争が終わったことは既に耳にしていたが、エドモンドの帰還はもっと先になると思っていたのだ。

「そんなの、やめた」

そう言って、エドモンドは迷いなくリリアーナを抱きしめた。

「言うことが違うよ。ただいま、リリアーナ」

「……お帰りなさい」

リリアーナも腕を回し、二人はしばらく言葉もなく抱き合っていた。

やがて、エドモンドはそっと彼女の顔を覗き込み、眉を寄せた。

「……リリアーナ、痩せた?」

「……そんなに、酷い顔をしていますか?」

リリアーナは一歩、後ずさった。

エドモンドはただ、以前より華奢になったと感じただけだったのだが、その意図はうまく伝わらなかった。

「ラニアにも、言われたのです。細くなったら、エドモンドに却って嫌われると。けれど……」

言葉の途中で、リリアーナは身を翻し、その場を離れようとした。

「待って」

エドモンドはすぐに彼女の腕を掴んだ。

「どっちもリリアーナだ。嫌いになんて、ならないよ」

リリアーナは納得しきれない表情のまま、唇を噛み、それでも小さく頷いた。

……本当に、帰ってきた。リリアーナの胸には、喜びがじわじわと広がっていった。