軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔鳥襲来とラニア

その日から、リリアーナの弓の訓練時間は、明らかに長くなった。

――矢は消耗品だ。

魔石を仕込んだ矢は貴重で、数にも限りがある。もし普通の矢に魔力を乗せ、魔鳥を倒せるようになれば、その分だけ切り札を温存できる。

ラニアは、それをいとも簡単にやってみせた。

ならば、自分にできないはずがない。

そう信じて、リリアーナは弓を引き続けた。

腕が張りつめて感覚を失い、指先に血が滲んでも、決して練習を止めなかった。

「まだ、魔力が弱いよ」

ラニアは少し離れた場所に座り、落ち着いた声で言う。

「うーん……もっと、身体の中で集めるの」

リリアーナは唇を噛んだ。

――分かっている。

自分の魔力は、決して少なくない。

これまで、薄く広げたり、細かく分けたりすることは得意だった。だが、一点に集め、圧縮するとなると話は別だ。

魔力は、意志に反して逃げていく。

何度も、何度も、弓を引いた。

中途半端な魔力では、矢は的を外れ、地面に突き立ち、時には空を切るだけだった。

それでも、リリアーナは諦めなかった。

ラニアは、そんな彼女を静かに見つめていた。急かすことも、嘲ることもなく。

その瞳は――

まるで、精霊が愛し子を見守るかのように、深く、優しかった。

リリアーナは、矢のことを誰にも相談しなかった。

自分にできないことを口にするのは、どこか間違っている気がしたからだ。

オルフェウスも、マルグリットも、アグネッタも――リリアーナが毎日、身体を痛めつけるほどの訓練を重ねていることに、あえて言葉を挟むことはなかった。

それは無関心ではない。

むしろ、彼女が纏う気配が、誰の忠告も拒んでいたと言うべきだろう。

決意。

焦燥。

そして、祈りにも似た強い想い。

それらが入り混じった空気に、誰も踏み込めなかった。

日々は瞬く間に過ぎていった。

痛みは当たり前になり、疲労で、不安は意識の外へと追いやられる。ただ矢をつがえ、引き絞り、放つ――それだけを繰り返した。

そして、ついに。

空を覆う羽音とともに、魔鳥の来襲が始まった。

警鐘が鳴り響く中、リリアーナは息を切らしながら持ち場へと駆け込む。

エドモンドは、魔鳥の襲来に間に合わなかった。戦場はさらに泥沼化している――そんな報せだけが、断片的に流れてきていた。

それでも、エドモンドが負傷したという知らせは届いていない。それだけが、今のリリアーナにとって唯一の救いだった。

町の人々は、広場に立つリリアーナとラニアの姿に息をのんだ。

リリアーナが戦列に加わること自体は、まだ理解できる。かつてエドモンドと共に弓を取り、魔鳥と戦った女性だ。

だが――隣に立つ、あまりにも小さな少女は何者なのか。

子供用に仕立てられた弓矢を手にしてはいるが、本当に戦場に立つつもりなのか。

ざわめきは兵士たちの間にも広がり、困惑と不安が隠しきれずに漏れた。

その空気を断ち切るように、オルフェウスが前に出た。

「すべての責任は、私が取る」

低く、しかし揺るぎない声だった。

「この二人に何が起ころうとも、全ての責任は、私だ。兵士は各々の持ち場を守れ」

その言葉に、兵士たちはなお動揺を抱えたまま、しかし命令に従い配置についた。

こうして、魔鳥襲来への備えが整えられた。

――一日目。

誰もが、後に語り継ぐことになる奇跡の光景を、この目で見ることになるとは、まだ誰も知らなかった。

リリアーナは、魔石の付いた矢を選び取った。普通の矢にも、時折なら魔力を乗せられるようにはなっている。だが、それは常に成功するものではない。一度の失敗が命取りになる戦場で、確実性を欠く手段を選ぶべきではない――彼女はそう判断したのだ。

放たれた矢は、魔力を帯びて一直線に飛び、確実に魔鳥を仕留めていく。

オルフェウスや、魔力を自在に操る兵士、そしてエドモンドと比べれば、その射程は決して長くはない。それでも、ただの兵士の矢よりも鋭く、力強く、魔鳥の急所を外すことはなかった。

リリアーナは、静かに息を整えた。

胸の奥で高鳴る鼓動を押さえ込み、視線を前へ据える。

――できる。違う、やるんだ。

その確信が、彼女の背筋を真っ直ぐに支えていた。

兵士たちの放つ矢を巧みにすり抜け、魔鳥がリリアーナたちのもとへ迫ってきた。群れで襲来する際には、必ずと言っていいほど、そうした個体が現れる。

その姿を目にした瞬間、リリアーナの顔から血の気が引いた。

だが、ラニアは一瞬も迷わなかった。

素早く弓を構え、迫り来る魔鳥を真っ直ぐに見据える。魔鳥は一直線に加速し、こちらへ突進してくる。

――放たれた矢は、まるで吸い寄せられるかのように魔鳥の身体へと突き立った。

悲鳴を上げ、魔鳥は地に叩き落とされる。

その光景を目撃した者は、誰もが己の目を疑った。

子供用の弓矢で、あの魔鳥を一撃で――。

ラニアは弓を下ろし、リリアーナを振り返ってにっこりと微笑んだ。

「大丈夫だよ」

そのあどけない少女の笑顔は、戦場という場所にはあまりにも不釣り合いだった。

けれど兵士たちは、魔鳥への恐怖とは異なる何かが、身体の奥を震わせるのを感じていた。