軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リリアーナの決意

エドモンドたちを見送った後、リリアーナは静かにオルフェウスへ向き直った。

「魔鳥の襲撃があった時は、私も戦います」

その言葉に、オルフェウスはわずかに眉をひそめた。

「……エドモンドを、ただ待つという選択はできないのか?」

リリアーナは首を横に振った。

「私も、この領地に生きる一人です。彼が守ろうとしている土地を、私も守りたい。それが、私の願いです」

まっすぐに向けられた瞳には、一点の迷いもなかった。オルフェウスはその強さに、言葉を失いかける。

「安全ではないのだぞ」

低く、諭すような声。

「一年目の時に……嫌というほど味わいました」

リリアーナは苦笑した。その指先が、わずかに震えているのを彼女自身がいちばん理解していた。

「それでも、なのか?」

「……はい」

短く答えたあと、リリアーナはきゅっと拳を握りしめた。

「今日から、弓の訓練を始めます」

それは決意の宣言だった。待つだけの存在ではいられない――その想いが、静かに、しかし確かに彼女の中で燃えていた。

リリアーナはマルグリットのもとを訪れ、静かに告げた。

「甘甘草に魔力を注ぐ作業は、これまで通り毎日続けます。でも、魔鳥の襲来までの間、弓の訓練もさせてください」

オルフェウスからすでにリリアーナの決意を聞いていたマルグリットは、小さく息を吐いた。

「……もう、決めたことなのですね」

「はい」

リリアーナは迷いのない声で答えた。

「止めても、無駄でしょうね」

マルグリットの言葉に、リリアーナは何も返せなかった。

「あなたのことは、もう私の娘のように思っているのよ。でも……エドモンドに続いて、あなたまで――」

そこで言葉が途切れた。マルグリットは視線を落とし、感情を押し殺すように唇を噛んだ。リリアーナは一歩前に出て、少し躊躇しながらも口を開いた。

「申し訳ございません。でも……私も、マルグリット様のことを、お母様のように思っています」

マルグリットはしばらく黙っていたが、やがて顔を上げて言った。

「……無茶だけは、絶対にしないで」

「はい」

リリアーナは背筋を伸ばし、神妙に答えた。

その返事に、マルグリットは何も言わなかった。ただ、胸の奥に広がる不安と誇らしさを、静かに抱え込むように目を閉じたのだった。

アグネッタは、リリアーナを正面から見据えて問いかけた。

「魔鳥襲来、とは何なのかしら?」

リリアーナは少し息を整えると、夏になると一週間ほど続く魔鳥の大群による襲撃について語った。多数の魔鳥が領地に押し寄せ、家畜、人々の生活を脅かすこと。ここでは毎年、それに備えた対策を取らなければならないことを。

……そんな危険な土地だったなんて。

アグネッタは言葉を失った。リリアーナは、本気でその魔鳥と戦うつもりなのだろうか。胸の奥に、強い不安が広がる。

リリアーナは一歩前に出て、まっすぐにアグネッタを見た。

「師匠、お願いがあります。私は、弓の訓練を優先したいのです。ですから……魔鳥避けの薬を調合していただけませんか?」

もし魔鳥と直接対峙することになったとしても、その薬があれば、兵士達の生き延びる可能性は高くなる。リリアーナの瞳には、迷いも恐れもあったが、それ以上に強い覚悟が宿っていた。

その真剣な眼差しを受け止め、アグネッタは悩まなかった。

「いいわよ。ただし、材料はきちんと準備しなさい。それが条件よ」

その言葉を聞いた瞬間、リリアーナの顔がぱっと明るくなった。

「ありがとうございます」

リリアーナは思わずアグネッタの手を取り、ぎゅっと握りしめた。その手は少し震えていたが、そこに込められた決意は、確かなものだった。

弓の練習場に、乾いた弦音が響いていた。

リリアーナは的を見据え、息を整え、迷いなく矢を放つ。放たれた矢は、真っ直ぐに飛び、木製の的に深く突き立った。

「リリアーナ、戦うの?」

背後からかけられた声に、リリアーナは振り返らない。次の矢を取り、弓に番えながら、淡々と答えた。

「……そうよ」

集中を切らさぬまま、再び矢を放つ。

ラニアは少し首を傾け、その様子を眺めていた。

「エドモンドは、間に合わないかもしれないよ?」

その言葉にも、リリアーナの動きは止まらない。矢筒から一本を抜き取り、静かに構える。

「……それでも、戦うの」

もう、手は震えていなかった。覚悟は、身体の奥に確かに根を下ろしている。

しばらく黙っていたラニアが、ふいに言った。

「……じゃあ、僕にも弓を教えて?」

その一言に、リリアーナの手が止まった。

ゆっくりと振り返ると、ラニアは少し微笑み、首をわずかに傾けている。まるで「ねえ、いいでしょう?」とでも言うような、無邪気で甘える仕草だった。

「え……?」

リリアーナは瞬きを繰り返す。

「弓を、習うって……本気で?」

「うん」

ラニアは当然のように頷いた。

「だって、リリアーナから離れてたら、守れないでしょ?」

あまりにも自然な言葉に、リリアーナは言葉を失った。ラニアは成長したとはいえ、見た目はまだ十歳を少し過ぎたくらいの少女だ。その身体に合う弓など、この城には無いだろう。

リリアーナは困惑したまま、弓を握りしめた。

――この子は、どこまで本気なのだろう。

風に揺れる草の音だけが、二人の間を静かに満たしていた。