軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ラニアの提案

こうして、リリアーナの北の領地での生活が始まった。ラニアは相変わらず、いつもリリアーナのそばにいた。

ある日、城の外で、リリアーナはエドモンド、オルフェウス、そして兵士たちと共に、城の外に植えられた甘甘草へ魔力を注いでいた。その様子をじっと眺めていたラニアが、不思議そうに首をかしげて声をかける。

「どうして、魔力を注いでいるの?」

「甘甘草の品質を良くする方法を探しているのよ」

リリアーナは手を止めずに答えた。

「オルフェウスや、エドモンドの魔力で?」

「そうよ」

「調子はどうなの?」

「始めたばかりだから、難しいのだけど……」

そう言いながら、リリアーナはちらりと甘甘草の様子を見た。

自分が担当している区画の甘甘草は、明らかに勢いよく育っている。しかし、他の三人が魔力を注いでいる区画は、ほとんど変化が見られなかった。

――魔力を注ぐだけじゃ、駄目なのかしら?

同じように「大きくなって」と願って魔力を流してもらっているはずなのに……。

考え込んだまま、リリアーナは言葉を飲み込んだ。

するとラニアが、何かに気づいたように言った。

「もしかして、リリアーナ、わかってない?」

「……何を?」

リリアーナは思わず聞き返す。

ラニアは、こともなげに続けた。

「甘甘草の品質を良くしたいなら、緑の手の能力が一番向いてるってことだよ」

その瞬間、リリアーナ、エドモンド、オルフェウスの三人は、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

オルフェウスは、思わず息をのんで呟いた。

「緑の手、だと……?」

それは植物の成長を促す能力――治癒ほど派手に称えられることはないが、どの領地でも喉から手が出るほど欲される、実に実用的な力だ。甘甘草の品質向上を目指すのであれば、確かに理にかなっている。

「至急、相談した方がいいのでは?」

エドモンドは低く声を落としてオルフェウスに言った。

「……そうだな」

オルフェウスは重く頷いた。

彼らは皆、薄々感じていたのだ。リリアーナが注いだ魔力の区画だけが目に見えて成長していく一方で、自分たちの区画はほとんど変化がない。その差が広がっていく様子を前に、この方法そのものが間違っているのではないか、という不安が胸に積もっていた。

結局、その日の作業は途中で切り上げられた。

ラニアの言葉は、すぐにマルグリットとアグネッタの耳に入った。

「……まさか」

マルグリットは思わず息を呑む。

「それは、きちんと検証が必要だわ」

アグネッタは即座に応じた。

二人とも、これまで甘甘草の成長報告を聞くたび、胸の奥に引っかかるものを感じていたのだ。

「私は公爵夫人に、至急手紙を書くわ」

マルグリットは素早く判断した。

「私は王妃に伝えるわ。ただし……ラニアの存在は伏せなくてはいけないわね。城の皆で出した結論、という形にしておきましょう」

そう決めると、二人の行動は驚くほど早かった。北の領地内に「緑の手」の能力者はいない。しかし、甘甘草の未来を考えるなら、実験はどうしても必要だった。

段取りを進める二人の背中を見ながら、オルフェウスとエドモンドは同じことを考えていた。

――もし緑の手の能力者が来れば、ただ魔力を注ぐだけの仕事は終わるのではないか。

それは希望であると同時に、不安でもあった。

リリアーナと比べられることは、思っている以上に心を削る。その事実を、二人と兵士はすでに痛感し始めていた。

アグネッタはラニアに問いかけた。

「どうして、緑の手の能力だと思ったのかしら?」

ラニアはきょとんとした表情で首を傾げる。

「どうして、欲していないものを与えて、それで成長すると思ってるの?」

「……ラニアには、わかるのかしら?」

半ば疑うようにアグネッタが言うと、ラニアはあっさりとうなずいた。

「そうだよ。見ていれば、わかるよ?」

そして、うっとりとした声音で続ける。

「リリアーナの魔力は最高だよね。成長も、回復も、祈りも、全部が混じってるんだ」

……全く理解不能なのだけど。

それに、聞いているだけで頭が痛くなってきそうだわ。アグネッタは内心でそう嘆いた。

一方、当のリリアーナは、ラニアに褒められて少し驚いたあと、

「え、そうなの?」

と目を瞬かせ、すぐに

「それで良く成長するのね~」

と、にこにこ笑った。

「そうだよ。リリアーナはすごいよ~」

ラニアはそう言って、嬉しそうにリリアーナにすり寄る。

……リリアーナ、もう少し警戒心を持ちなさいよ。アグネッタはこめかみを押さえながら、本当に頭痛を感じていた。

王妃からの返書を待っていたアグネッタのもとに届いたのは、予想外の内容だった。ほぼ同じ頃、オルフェウスのもとにも国王からの書状が届く。

そこに記されていたのは――

ひとつ隣の国が、隣国を恐ろしい程の速さで通過し、国境線を越え、軍を進駐させたという知らせだった。急遽、王国は戦時態勢に移行するという。

アグネッタ宛の手紙には、緑の手の能力者の捜索は続けるが、状況次第では見つけるのは難しいかもしれない、とあった。

一方、オルフェウスには、引率者として兵士を率い、戦線へ向かうよう命じる内容が簡潔に記されていた。引率者は、領主、もしくは後継者を望む、と。

あまりにも突然の出来事だった。

長らく緩やかな緊張を孕みつつも、保たれてきた隣国とそのもうひとつ隣の国の平穏。その均衡が、なぜ今になって崩れたのか。

……誰一人として、その原因を知る者はいなかった。