軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

青薔薇のローズガーデン

お茶会当日。

結婚式の準備と並行して進めてきたお茶会の準備は、想像以上に大変だった。

ローレル様が「気楽にやればいい」と仰っていたから、軽く考えていたのが間違いだった。

会場選び。

茶葉の選定。

お菓子の種類。

さらには茶器まで。

ひとつ選ぶだけで雰囲気が変わるなんて、今まで知らなかった。

(……本当に、今まで縁のない生活してきたんだなぁ)

改めて実感する。

これからやっていけるのか、不安がじわじわと広がる。

頼りのアンジェリカは、魔法学園時代からずっと一緒だったせいか、意外にもお茶会には詳しくなかった。

高位貴族だから当然知っているものだと思い込んでいたけれど。

(……そりゃそうか)

一緒にいたのだから、開いていたら私が知らないはずがない。

そこで頼ったのが、イーズ侯爵家のヴィオレ様だった。

二つも年下の彼女に頼ることに、多少の引け目はあった。

けれどヴィオレ様は快く引き受けてくださった。

反対に相談したことを喜んでくれた。

ヴィオレ様は美少女で、成績優秀で、性格も凄く良い。

(……欠点、なくない?)

少し本気でそう思う。

正直、尊敬する。

それに比べて私は――。

(欠点しかない気がするんだけど……)

黒歴史も、思い出したくないものが山ほどある。

いろいろやらかした記憶が脳内で溢れ出す。

(……本当に王太子妃、やっていけるのかな)

そんな不安が、ふと顔を出す。

準備は思った以上に難航し、気がつけば開催は結婚式の一ヶ月前になっていた。

私って、お茶会を開催するセンスが全くない。

そもそも、美的感覚が優れてない。

今回の件で実感した。

(このお茶会、結婚式終わってからでもよかったんじゃ……)

今さらながら後悔する。

結婚式まで、あと一ヶ月もない。

忙しさは増すばかりだ。

マルチタスクができないことが分かった。

得意なことならともかく、苦手なことは二つ同時には出来ない。

うん。

勉強になった。

お茶会の会場は、王太子宮殿の庭園にした。

そこには、いつの間にか青い薔薇が一面に植えられていた。

バウム領特有の魔力を含んだ土まで使われている。

(……これ、絶対大変だったよね)

ここまで整えるのは、相当な手間だったはずだ。

この青薔薇は一度根付けば強いけれど、環境が違う以上、管理は必要になる。

バウム領以外で栽培したことがなかったし。

でも、見事なローズガーデンである。

青薔薇のローズガーデンなんて、この世界では、きっとここだけ。

これ以上の会場はないと思った。

庭園を選んだのには理由がある。

「フローラ・フラワー男爵令嬢を建物内に入れない方がいいかもしれない」

ローレル様の判断だった。

フローラ嬢の魔法特性は、まだ完全には把握できていない。

未知の魔法は、それだけで脅威になる。

ローレル様も警戒されている。

ラズベリー嬢の魅了魔法だって、最初は誰も気づかなかった。

(同じ失敗は、したくない)

そういう意味でも、屋外の方が安全だった。

今回のお茶会の参加者は限られている。

ローズマリー・トスカナ公爵令嬢。

フローラ・フラワー男爵令嬢。

ヴィオレ・イーズ侯爵令嬢。

ブランシュ・ウズイカ公爵令嬢。

そしてアンジェリカ・パトーキ侯爵令嬢。

――フローラ嬢以外は、かつてローレル様の婚約候補だった令嬢たち。

(……これ、私がマウント取ってるみたいじゃない?)

内心、複雑な気持ちになる。

けれど身元の確かな人物しか呼べない以上、仕方がない。

友人が少ない自分を、少しだけ恨んだ。

そのことをローレル様に相談したとき、返ってきた答えは意外だった。

「最初から王太子妃はメリッサに決まっていたから、そんなことを気にする必要はないよ」

きっぱりとした口調だった。

「候補って呼ばれていたのは、外部の人間が勝手にそう言っていただけだし。正直、凄く迷惑だった」

ローレル様は思い出したくもないと言う口調で続けた。

(……最初から?)

いつからなのか。

考えても、答えは出ない。

魔法学園時代の記憶がよみがえる。

ローズマリー様は確かに努力していた。

誰もが彼女が王太子妃になると思っていた。

でも――

ローレル様は、誰も特別扱いしていなかった。

(……そういえば)

魔法学園の時、私はローレル様とよく目が合っていた。

当時は、シトラールお兄様を見ているのだと疑いもしていかなった。

優秀なシトラールお兄様を側近にするか見極めているのだと勝手に思っていた。

(……違ったの?)

あれは、私を見ていた?

一気に顔が熱くなる。

(変なことしてなかったよね、私……)

黒歴史が脳裏をよぎる。

やめてほしい。

ローレル様は、そんな私を見て楽しそうに笑っていた。

(絶対、何か見られてる……)

やだ、怖い。

それに――。

まだ聞けていないことがある。

どうして私の書いた小説を知っていたのか。

執務室に、私の本がすべて揃っていたこと。

私がストーリーを考えた絵本まで置いてあったことには本当に驚いた。

バウム領で作った子供向けの物語。

識字率を上げるために、即興で物語を作り続けたもの。

それが絵本になり、売上はそのまま領地の子供たちへ教材として還元されている。

結果として、バウム領の識字率は大きく向上した。

(……それはいいんだけど)

なぜローレル様が知っているのか。

しかも、購入までしているのか。

(怖くて聞けないんだけど……)

――だめだ。

今はそのことじゃない。

私は小さく息を吐いて、顔を上げた。

まずは目の前のこと。

初めてのお茶会。

それに、集中しなくては。

――そう思ったはずなのに。

なぜか、胸の奥に引っかかる違和感だけが、消えなかった。