軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

揺らぎと違和感

アンジェリカは侍女の仕事を終えて、一番に駆けつけてくれた。

今日は侍女の仕事を休んでくれて良かったのに。

「ごめんね、無理させて」

「いいえ。私も気になっていることがありましたので、少し調べてまいりました」

私の謝罪に、アンジェリカはいつもの穏やかな笑みで答える。

どうやら彼女も、フローラ・フラワー男爵令嬢のことを気にしているらしい。

……まぁ、気にならない方がおかしいのだけれど。

それにしても、仕事熱心過ぎる。

働き方改革は早く行わないといけないと本気で思う。

次に来てくれたのは、ヴィオレ・イーズ様だった。

しかも、お茶会の開始予定よりも一時間も早い。

「メリッサお姉様にお会いしたくて、早く来てしまいました」

嬉しそうに言う姿は、いかにもヴィオレ様らしい。

久しぶりに会えて、私も自然と頬が緩む。

相変わらず、可愛い。

――けれど。

一瞬の間のあと、ヴィオレ様は表情を引き締めた。

「兄から話は聞いています。私なりに探りを入れましたが……大した情報は得られませんでした」

小声でそう告げる。

側に控える使用人に聞こえないよう、配慮してくれているのだろう。

その気遣いに、思わず感心してしまう。

本当に私より二つも年下なのだろうか。

ヴィオレ様はしっかりしすぎている。

でも、これが高位貴族のご令嬢なのかもしれない。

私も王太子妃として、いつかヴィオレ様の相談に乗れるようにならなければと、改めて決意する。

「学年も違いますし、仕方ありませんよ」

アンジェリカが静かにフォローする。

ヴィオレ様はわずかに視線を落とした。

「メリッサお姉様のお役に立ちたかったのに……残念です」

「来てくださっただけで、十分嬉しいですよ」

私はそう言って微笑んだ。

実際、このお茶会自体、ヴィオレ様の助言があってこそ形になったのだから。

感謝しかない。

「それにしても……素晴らしい庭園ですね。これがバウム領の青薔薇ですか」

話題を変えるように、ヴィオレ様が庭園を見渡している。

青薔薇が一面に咲き誇る光景に、瞳を輝かせていた。

「昨年の誕生日にいただいた青薔薇のブーケも綺麗でしたけれど、これほどとは……。本当にお姉様は天才です!」

勢いよく言われ、思わず言葉に詰まる。

ヴィオレ様は私のことを過剰評価してくれている節がある。

これは、ぜひとも改めてもらいたい。

(いや、あの青薔薇はほぼ偶然に出来た産物なんだけど……)

とは、とても言えない。

「他にも魔法改良された薔薇があると聞いています。しかも食べられるとか……!」

ヴィオレ様の目は完全に輝いていた。

私は曖昧に笑うしかない。

「家族や領民の協力があってこそですよ」

嘘ではない。

ただ、核心はぼかした。

「妃殿下、ウズイカ公爵家のブランシュ様がご到着なさいました」

年配の侍女が、静かに声をかけてくる。

妃殿下と呼ばれることに、まだ慣れない。

それにしても、お茶会の開始時刻より、かなり早い到着である。

ブランシュ様も何か私に話したいことがあるかもしれない。

それとも王太子妃の候補にもなっていなかった私が王太子妃になったから気になっているだけかもしれないけど。

ローレル様と私の結婚は急な話だったしね。

私自身もいきなりのことだったし。

嫌味の一つでも言いたいのかもしれない。

ブランシュ様もローズマリー様のように王太子妃になるために教育を受けていたはずだから。

「こちらへご案内してもらえる?」

私はすぐに答えた。

嫌味の一つくらいなら聞いて差し上げましょう。

内心、ビクビクしているけど、仕方のないことだとも思ったのだ。

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ほどなくして庭園へ現れたブランシュ・ウズイカ様は、マレイン様によく似た面立ちをしていた。

けれど、その雰囲気は柔らかい。

マレイン様より落ち着いている感じがする。

魔法学園で何度か見かけたことはあったけど、こんなに近くで彼女を見るのは初めてだった。

もちろん、話したことなんてない。

何の接点もなかったから。

「はじめまして、妃殿下。ブランシュ・ウズイカと申します。本日はお招きいただき、本当にありがとうございます」

丁寧で美しい所作だった。

さすが、公爵令嬢である。

そして、彼女からは悪意は一切感じられない。

「はじめまして、ブランシュ様。メリッサです。お越しいただきありがとうございます。良ければ名前で呼んでいただければ嬉しいです」

私も挨拶を返す。

……少し硬かったかもしれない。

緊張で声に抑揚がない。

(大丈夫かな……印象悪くなってないよね)

内心で焦りつつも、笑顔は崩さない。

「お会いできて光栄です。ヴィオレ様からメリッサ様のお話はよく伺っております」

ブランシュ様は私のことを名前で呼んでくれた。

仲良くなれそう。

でも、ブランシュ様に、にこやかに言われて今度は別の意味で不安になる。

(ヴィオレ様、私の何を話したの……?)

「見事な庭園ですね。これが有名な青薔薇……」

ブランシュ様は感嘆の息を漏らす。

「失礼を承知でお伺いしますが、この薔薇は本当にメリッサ様が?」

少し遠慮がちに問われる。

「もちろんです!」

なぜかヴィオレ様が胸を張って答えた。

「メリッサお姉様は天才ですの。“青薔薇の賢妃”の名は伊達ではありませんわ!」

ちょっと待って。

青薔薇の賢妃ってなんのこと?

初耳なんですけど。

ヴィオレ様にその真意を正そうと口を開いた。

――その時だった。

ふと、背筋に冷たいものが走る。

(……誰か、見てる?)

ほんの一瞬。

風でもないのに、庭園の空気がわずかに揺らいだ気がした。

視線を巡らせる。

――まだ、誰も来ていないはずなのに。

なぜか、あの虹色の髪が脳裏に浮かんだ。

「……メリッサ様?」

アンジェリカの声で、はっと現実に引き戻される。

気のせい、だろうか。

けれど――。

胸の奥に引っかかる違和感は、確かにそこにあった。