軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

報告書では本質が見えない

ウエディングドレスの打ち合わせは、一週間にも及んだ。

王妃様とお母様、そしてお姉様は終始ハイテンションだった。

どうしてそんなに元気なのか、不思議でならない。

その三人を見ていると、反対に私は冷静になる。

でも、分からないことばかりの私にとっては、三人の存在は本当にありがたかった。

おかげで大きくセンスを外すこともなく、ここまで決めることができたのだから。

休憩中のお茶会も楽しかったし、家族の近況も聞けた。

それだけでも十分、良い時間だったと思う。

――ただ。

その合間に、例の資料は容赦なく届く。

『フローラ・フラワー男爵令嬢』

追加資料が、細切れに私のもとへ運ばれてきていた。

打ち合わせで疲労困憊でも、目を通さないわけにはいかない。

私は重い身体を引きずるように執務室へ戻り、椅子に腰を下ろした。

今回の資料は、フローラ嬢の現状について。

実母の死亡。

男爵家へ引き取られた経緯。

継母や義妹からの嫌がらせ。

(……どこかで聞いたような話だよね)

いわゆる、乙女ゲームのヒロインの典型的な境遇だ。

しかも今回は、すべて事実だという。

大変だったのだろうとは思う。

けれど、それが――。

(私を睨む理由にはならないよね?)

どうしても、そこが繋がらない。

ローレル様も同じことを考えたのだろう。

私との接点についても調べてくださっていた。

……けれど、何もない。

私はフローラ嬢を知らない。

フラワー男爵家の名前も聞いたことがない。

それに――。

(あの髪、忘れられるわけないよね)

虹色の髪。

一度見たら、まず忘れない。

仕組みが気になりすぎる。

どうなっているのだろうか。

(なんか、ヴィジュアル系バンドのドラマーにいそうな髪色なんだけど……)

でも顔は可愛い。

奇抜な髪色なのに顔の端正さと成立しているのがすごい。

――と、そんなことを考えている場合ではない。

問題はそこではない。

(彼女、私のこと知ってたよね……)

つまり――。

ラズベリーさんと同じように、フローラ・フラワー男爵令嬢も前世の記憶を持っているのだろうか?

可能性は、否定できない。

(もしかして……続編?)

舞台が魔法学園から王宮へ移る。

それなら筋は通る。

ラズベリーさんは、ゲーム開始早々に脱落した。

だとすると――。

(次のヒロインがフローラ・フラワー男爵令嬢……?)

だんだんと、嫌な予感が形になっていく。

(じゃあ、悪役令嬢って……)

そこまで考えて我に返った。

私は、自分を見下ろす。

(……いや、無理でしょ)

そもそも、悪役令嬢って。

美人。

スタイル抜群。

魔力量もトップクラス。

みたいなイメージでは?

私は違う。

(モブ顔だし、魔力量も少ないし……)

こんなのが悪役令嬢だったら。

(プレイヤーやる気なくすでしょ……)

クソゲー確定である。

自分でもやらない。

……乙女ゲームやったことないけど。

そんなくだらないことを考えながら、資料を読み進める。

そして――。

「え?」

思わず声が漏れた。

「どうかなさいましたか?」

アンジェリカが私の異変に気づいて、すぐに近づいてくる。

一瞬、私は口を閉じる。

機密かもしれない、と思ったからだ。

けれどローレル様は、この件を周知すると言っていた。

アンジェリカなら問題ないはずだ。

私は資料をそのまま見せた。

「ああ……例の男爵令嬢ですね」

アンジェリカが小さく呟く。

その瞬間、アンジェリカはわずかに眉をひそめた。

(珍しい……)

彼女がここまで露骨に嫌悪の感情を出すのは。

「知っているの?」

尋ねると、アンジェリカは首を振った。

「夜会の日、少しだけ話しかけてみたのです」

「え!?」

思わず声が裏返る。

いつの間にそんなことを。

「メリッサ様を睨んでいたでしょう? 気になりまして」

さらりと言う。

私は慌ててアンジェリカの手を取った。

「危ないことはしないで!」

思わず強く手を握ってしまう。

もしアンジェリカに何かあったらと思うと、怖くてたまらない。

「大丈夫です。防御魔法は最大限にしていましたから」

にこりと微笑む。

(いや、そういう問題じゃない)

危機感の方向が違う気がする。

「敵意を感じた以上、理由を把握しなければ対策も取れません」

その言葉は正しい。

正しいのだけど――。

「いざという時のために、ウズイカ公爵令息にも待機していただいていました」

さらりと、とんでもないことを言う。

(やっぱりそうだったんだ……)

夜会のとき、アンジェリカとマレイン様が何か連絡を取っているように見えた。

その理由がこれとは……。

納得した。

「ウズイカ公爵令息は見かけによらず、攻撃力が高いので安心でしたし」

「……それは知ってるけど」

マレイン様が類稀なる魔力量が多いことは知っているけど。

攻撃力が高いは思っていなかった。

意外だな。

なんて、思ったけど、そんなこと、今はどうでも良い。

アンジェリカが危険が迫っていたかもしれなかったなんて。

「ですが、声をかけた瞬間に逃げられてしまいました」

アンジェリカが少し肩を落とす。

(そりゃ逃げるよね……)

あの状況で、美人のアンジェリカにいきなり声を掛けられ、その上美形のマレイン様が背後にいたら。

しかも二人とも高位貴族。

滲み出る気品はどうにもならない。

これは何かあると考えるのが普通。

私でも逃げる。

「でも、やっぱり危ないことはしてほしくない」

ぽつりと私の本音が出る。

アンジェリカが傷つくようなことは、絶対に嫌だ。

もちろんマレイン様も。

「ローレル殿下の許可は取っていますし、体制も万全です」

にっこりとアンジェリカは返す。

(ローレル様……)

私は小さく肩を落とした。

――資料を改めて見直す。

やはり、私との接点は全くない。

それなのに、あの視線。

「……フローラ・フラワー男爵令嬢、か」

どんな人物なのか。

資料だけでは、まったく見えてこない。

だからこそ――。

余計に、不気味だった。