作品タイトル不明
また乙女ゲーム?
やっと一日が終わった。
もう日は暮れている。
疲れた。
本当に、それしか言葉が出てこない。
王妃様とお母様、お姉様は、どうしてあんなに元気なのだろう。
……と考えて、私はそれが愚問だと気づいた。
ウエディングドレスのデザイン案と、使用する布やレース、そして刺繍糸まで決まった。
こんなことで丸一日もかかるなんて!
身体はぐったりしていて動きたくない。
先日の夜会も疲れたけど、これはまた別の疲れだった。
精神的な疲労である。
まだまだ元気だった王妃様とお母様、そしてお姉様は、今夜はパジャマパーティーをするとのこと。
本当は私も誘われたけど、さすがに疲れすぎていたので丁重にお断りさせてもらった。
王妃様のパーティーにはすごく心が惹かれたけど――それよりも。
王妃様とパジャマパーティーができるほど、お母様と仲が良かったなんて。
そこまで親しいご関係だったとは知らなかった。
王妃様とお母様のノリについていけるお姉様にも、素直にすごいと感心してしまう。
もしかしたら、王妃様なりに「王家はそこまで堅苦しくない」と、お母様とお姉様に伝えてくださっているのかもしれない。
……そう言えば、お母様は他国の王女様だった。
それを今日、確認したら、凄く驚かれた。
お姉様も私が知らなかったことに驚いていたし。
リモネンお姉様が知っているということは、レーモンお兄様も知っているはず。
でも、シトラールお兄様は?
お母様が王女様だったなんて知っていたのかな?
私とずっと一緒に育ってきたから知らないよね……と、一人呟いていたら。
「シトラールは知ってるわよ。当たり前じゃない」
と、お姉様に一蹴されてしまった。
えー?
知らなかったのは私だけなの?
ちなみにバウム領民も当然のように知っているとのこと。
何だか、私だけ疎外感。
話を戻すと、確かにベイリーフ王家が堅苦しいと感じたことはない。
きっと皆さん、私に気を遣ってくださっているのだろう。
王家の決まり事は多いけれど、窮屈だと思ったことはなかった。
むしろ、できることが多くて驚いたくらいだ。
そんなことを考えていると、自然と笑みがこぼれていた。
「今日は楽しそうでしたね」
アンジェリカが食後のお茶を淹れてくれながら言った。
どうやら、笑っていたところを見られていたらしい。
私は慌てて顔を押さえる。恥ずかしい。
今夜はローレル様の仕事が押して、夕食はご一緒できなかった。
その代わりに、小さなオレンジ色の薔薇のブーケが届けられた。
一度くらい、仕事で夕食を一緒に食べられないくらい気にしなくていいのに。
私はそのブーケを見つめる。
……本当にマメだよね、ローレル様。
私も何かお礼ができればいいのに。
とりあえず、お礼の手紙は出したけれど。
この薔薇も長持ちしないかな。
せっかくローレル様に、いただいたものだし。
バウム領では、長持ちする青薔薇を改良したけど、あれでも持って二か月くらいだった。
しかもあれは、ほぼ勘で作っただけで、原理は自分でもよく分かっていない。
土地との相性が良かっただけかもしれないし。
……プリザーブドフラワーみたいにできないかな?
オレンジのブーケはとても可愛い。
魔力量が少ない私でもできること――。
とにかく、薔薇の成長を遅らせる方向で魔法改良を試みてみた。
うまくいったかどうかは分からない。
でも、ダメ元である。
「メリッサ様? 無茶はなさらないでくださいね?」
アンジェリカが穏やかな口調で言う。
……目は笑っていない。
少し――いや、かなり魔力は使ったけど、倒れるほどではない。
「今日は精神的にもお疲れだったでしょう?」
呆れながらもアンジェリカは続ける。
そう、そして今日から――。
なんと、アンジェリカは、私の専属侍女になったのだ。
これからは今まで以上に一緒にいられる。
嬉しい。
顔が勝手に緩む。
アンジェリカは、私が持っていたブーケをそっと受け取った。
「どこに飾りますか?」
「この部屋が良いな」
私は今、自分の執務室にいる。
机の上――すぐ視界に入る場所に置いてほしい。
アンジェリカは、ブーケに合う花瓶に花を生け直し、執務机に置いた。
言わなくても場所が伝わっている。
本当によくできた侍女である。
それと――最近気づいたことがある。
王宮の勤務スタイル、かなりブラックでは?
これは改善しなければいけない。
ブラックはダメ、絶対。
福利厚生も考えたい。
私の権限でどこまでできるかは分からないけど、ローレル様と相談していこう。
アンジェリカたち使用人の意見も聞きながら、働き方改革を行っていきたい。
彼女のお陰で王太子妃として、初めて自分からやりたいことが出来た。
このように少しでも、ベイリーフ王国が良くなるように考えていきたい。
「アンジェリカも、辛い時や困ったことがあったら、いつでも言ってね。無理はしないで」
私はしっかり伝えた。
アンジェリカは、少しはにかむ。
「はい、ありがとうございます」
大切な親友がこんなに近くにいてくれる。
それだけで、本当に心強い。
その時、アンジェリカが真剣な表情で私へと書類を差し出してきた。
「……?」
私は首を傾げながら、それを受け取る。
そこにはローレル様のサイン。
「一応目を通してほしい」と書かれていた。
私はさらに首を傾げながら、一枚、めくる。
そこには――。
『フローラ・フラワーに関して』
そう記されていた。
一昨日、私を睨んでいた令嬢を思い出す。
ローレル様から、名前と男爵令嬢であることは聞いていた。
……もう身辺調査が終わったの?
まだ二日しか経っていないのに。
手回しが早すぎる。
王族の情報網、恐るべし。
フローラ・フラワー。
またしても乙女ゲームのヒロインのような名前である。
イニシャルはFF。
某有名ゲームを思い出してしまう。
それとも全部Fになるミステリ小説の方?
そんな、どうでもいいことを考えながら、書類に目を通していく。
……いや、でも。
乙女ゲームっぽい名前なのは完全なる事実。
もしかして、また乙女ゲームが始まろうとしているのでは?
ラズベリーさんの時は、あっさり終わってしまったし。
しかも、私が知らない間にである。
あれは完全に肩透かしだった。
そういえばラズベリーさん、早々に退学していたけど、今どうしているのだろう。
あまり酷いことになっていないといいな……。
それよりも、今の話である。
今、王宮には攻略対象っぽい人たちが勢揃いしている気がする。
ローレル様はもちろん。
ハーツ様、マレイン様、リンシード様、ラヴィンド様。
そして未婚の王弟殿下。
確か二十代後半だったはず。
……これ、乙女ゲームなら隠しキャラもいるよね。
絶対に。
もうすでに、王宮を舞台にした乙女ゲームが開始している気がする。
フローラさんは男爵令嬢。
資料によると、母親を亡くし、父である男爵に引き取られたらしい。
そして――虹色の髪。
そんなヒロイン、乙女ゲームには結構いた気がする。
……あの髪、本当にどうなってるの?
そこまで考えて、私ははっとした。
「もしかして……」
思わず呟く。
まさか、まさか、まさか。
「これって、私が悪役令嬢ポジションなの?」
呆然としながらも、そう言わずにはいられなかった。