作品タイトル不明
お披露目の夜会
緊張が限界まで達している。
身体の震えが止められない。
夜会の王族専用の入場控室。
国王陛下と王妃様もご一緒している。
どうして、ここに私がいるんだろう。
場違いにもほどがある。
「メリッサ、大丈夫だよ。私がそばにいる」
ローレル様は私を安心させようと、優しい言葉をかけてくれる。
うん、ローレル様が本当に優しいことに異論はない。
でも、今はローレル様の隣に立っていることで緊張が倍増していくのです!
緊張のあまり涙が滲んできた。
泣いてしまったら侍女の方々の苦労が水の泡になってしまう。
メイクを頑張ってもらったのだ。
それだけは避けなければ。
震えが止まらない私を、ローレル様は優しく抱きしめてきた。
「メリッサ、ごめんね。こんな大変な気持ちにしてしまって」
優しい声音で、ローレル様が言い聞かせるように囁いた。
耳元で囁かれて、心臓が跳ねる。
パニックが加速していく。
そんな中でも、ローレル様の優しさに包まれているのは感じていた。
「君が王太子妃になりたくなかったのは分かっている。でも、私にはメリッサを手放すことは絶対にできないんだ」
私は驚きながらもローレル様を見上げた。
抱きしめられているので、顔がこれでもかというほど近い。
今の言葉が本心であることは、はっきりと伝わってきた。
いつもは肝心なことを言わないのに。
その話になるといつも避けられていたのだ。
「本当に私でよかったのですか?」
ずっと、これだけは聞かなくてはと思っていた。
なぜローレル様の妃が私なのか。
なんの変哲もない、どこにでもいそうな地味なモブ令嬢。
少しでもローレル様に、もしくはこのベイリーフ王国に、私はお役に立てることができるのだろうか。
やはり、ローレル様には私では駄目なのではないかと考えてしまう。
「メリッサ以外に考えられないよ」
ローレル様は即答した。
そして私の頬にキスを落とす。
とても自然な流れだった。
私は驚いて頬を押さえ、ローレル様を見つめた。
ローレル様の耳が赤く染まっている。
彼も照れているのが伝わってくる。
私が見ていることに気づいたのか、ローレル様はもう一度、強く私を抱きしめてきた。
この体勢ではお互いの顔は見えない。
でも、ローレル様の優しさだけは伝わってくる。
間違いなく、ローレル様ご自身の意思であることも分かる。
その優しさに、私は少しずつ安心していくのが自分でも分かった。
「まあ、本当に仲が良いのね」
王妃様がほのぼのと言う。
――ここは王族の控室だった。
「うまくいっているようでよかったよ」
安堵したように国王陛下が続ける。
見られていたことが恥ずかしい。
思わずローレル様の胸に顔を押しつけた。
恥ずかしさのあまり、頭がどうにかなりそうである。
「国王陛下、王妃様は、ローレル様の相手が本当に私でよかったのですか?」
顔を上げられないまま、お二人に尋ねた。
どうしても、お二人にも聞いておきたかったことだ。
不敬であるとは重々承知している。
でも、恥ずかしくて顔を上げられないのだから仕方がない。
私の言葉に、国王陛下と王妃様は可笑しそうに笑っていた。
「君以外の人ではローレルの相手にはなれない。メリッサ妃だけが特別なのだよ」
「可愛い娘ができて、私たちも本当に嬉しいのよ」
国王陛下も王妃様も私を気遣ってくださっている。
その上で王太子妃として認めてくださっていることが伝わってきた。
私に何ができるかは、まだ分からない。
でも、王太子妃になったのだから、精一杯頑張ろうとは思う。
「これから、よろしくお願い致します」
私は恐る恐る顔を上げて、国王陛下と王妃様を見つめて言った。
私なりの、小さな所信表明だった。
ローレル様の、私を抱きしめる腕の力が少し強くなる。
「無理はしちゃ駄目だよ」
「!!」
とても甘い声で、ローレル様は私に向かって言った。
「ローレル様も無理はしないで下さいね!」
私も言い返す。
ローレル様は私に気を遣ってばかりだと思う。
今、無理をしているのは間違いなくローレル様の方なのだから。
「一緒に頑張ろう」
ローレル様は少し考え込んでから苦笑して、私に向かって言った。
その言葉に、私は嬉しくなった。
これは私を認めてくださった言葉だと思うから。
一人ではない。
私たちは二人なのだと、改めて感じた。
「はい、一緒に頑張りましょうね」
私の返答を聞いて、ローレル様はこれまでで一番嬉しそうな笑った。
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夜会が始まり、ローレル殿下が結婚したことを国王陛下が夜会に来ていた貴族たちへと報告した。
貴族たちの反応は三者三様。
急な発表に戸惑っている貴族が大半だった。
うん、気持ちはわかる。
しかも相手は弱小子爵家の末娘。
これで混乱しない方がおかしい。
婚約ではなく、結婚していたのだから。
こんな事後報告は、建国以来初めてのことかもしれない。
私はなんとか挨拶を噛まずに、自己紹介を終えた。
ローレル様はいろいろと得意げに説明している。
ちなみに、私も初耳なんですが? と思うことも多かったけど。
そしてオーケストラが演奏をし始める。
曲が流れ、社交の時間へと移っていった。
アンジェリカが私のことを見守ってくれているのを感じる。
何かあったらすぐにフォローできるようにしてくれているのだろう。
ありがとう、アンジェリカ!
存在感をギリギリまで消したシトラールお兄様も、私を気にしているようだし。
本当にありがたい限りである。
「私から絶対に離れないことと、気分が悪くなったらすぐに言うこと」
ローレル様が、私に釘を刺してくる。
私は何度も頷いた。
社交界デビューをしていない私は、はっきり言って場違い感が半端ない。
さらっと勉強はしてきたけど、座学で習ったことと実践は違うのだから。
「ローレル殿下」
颯爽とした声が聞こえた。
声の主は、どう見ても高位貴族の嫡男。
どこかで見たことのある顔だった。
「久しぶりだな、アレックス」
ローレル様が相手の名前を呼ぶ。
高位貴族の令息で、アレックスという名前。
トスカナ公爵家の嫡男の名前がアレックス様だったはずだ。
顔に覚えがあるのは、私が魔法学園の一年生だった時、彼が三年生だったからだろう。
直接お話ししたことは、もちろんない。
でも、とても貴族らしい方だなと感じていたので覚えていた。
そして、私が勝手に悪役令嬢ポジションだと思っていたローズマリー様のお兄様でもある。
まぁ、向こうは私の存在すら知らなかっただろうけど。
とてもゴージャスなローズマリー様のお兄様なだけあって、とてもイケメンでいらっしゃる。
ローレル様と同じく正統派イケメンである。
「ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう、アレックス」
ローレル様が答える。
アレックス様は、ローレル様から私へと視線を向けた。
何かを確認するかのように。
そして私はアレックス様の声に棘が微かにあることに気がつく。
ローズマリー嬢の兄君なのだから、当然だと思った。
誰もがローレル様と婚姻するのはローズマリー様だと思っていたのだから。
アレックス様は、とても真剣な目つきで私を見続けている。
そんな状態で、私はいたたまれないまま、その場に立ち尽くすことしかできなかった。