軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

呪いの魔石、再び

苦しい。

その言葉しか思い浮かばない。

それでも、貴族の基本として微笑みだけは必死に浮かべていた。

……いや、そう言えば私はもう貴族ではなく、王族になったんだった。

やはり実感はない。

「メリッサ様、我慢です」

アンジェリカに耳打ちされる。

分かってるよー。

泣きたくなりながらも、私は笑顔のまま頷いた。

夜会の準備が終わると、私はローレル殿下の執務室へ向かっていた。

そう言えば、結婚してから王太子宮殿を出るのは初めてかもしれない。

ローレル殿下の執務室も気になっていた。

普段はどんなところでお仕事をなさっているのかなって。

でも、今はそれどころではない。

とにかく苦しいのだ。

歩くのも正直つらい。

夜会のドレスってこんなに重いの?

装飾品も宝石が大きいから重みがあるし、ティアラに至っては存在が重い。

ドレスも装飾品も、精神的な重みまで加わっている気がしてならない。

こんな高級なものを身につけるのは初めてだし。

内心、震えが止まらない。

そして一番つらいのが、ドレスの中だ。

コルセットをこれでもかと締め付けられているのである。

息をするのも苦しい。

確かにスタイルはよく見えるけど、生命の危機をかけてまで装着しなければいけないものなのだろうか。

命は大事にしたい。

なんとかローレル殿下の執務室に到着した。

扉の前に立っていた近衛兵が扉を開けてくれる。

私は軽く会釈をして、私は執務室へ足を踏み入れた。

そこにはローレル殿下と、見知った方々がいた。

しかも全員、盛装して。

「メリッサ、とても綺麗だよ」

私を見て、ローレル殿下が嬉しそうに笑う。

……恥ずかしい。

二日前に、『メリッサ、と名前で呼んでも良いだろうか』と打診された。

結婚したのだから『メリッサ嬢』と呼ぶのは変だし、と私は了承した。

そんなこと、わざわざ聞かなくても良いのに、と思った。

そしてその流れで、私もローレル殿下のことを『ローレル様』と呼ぶことになってしまった。

なんか、こういうことが得意だよね、ローレル様。

私が慌てている間に、自然に物事を進めていく。

まあ、嫌なことではないから良いけど。

「ローレル様も、とても素敵です」

私はなんとか答えた。

本当はもっと言いたい。

でも言葉が出てこない。

自分の語彙力のなさがもどかしい。

ローレル様の盛装を見るのは初めてだった。

すごく格好良い。

元々素敵なのに。

後光が差していて眩しい。

ローレル様は改めて私を見て、満足そうに頷いている。

まあ、今の私は全身ローレル様の色で固められていますからね。

普段の着ているドレスと色味はそこまで変わらないけれど。

でも改めて見られると恥ずかしさが倍増です。

そんなに見ないでください。

「そうだ。私の側近を紹介するよ」

ローレル様が上機嫌で言う。

紹介も何も、先月まで魔法学園で同じクラスでしたからね、全員。

しかも三年間。

知らないわけがない。

側近の方々は苦笑しているようだった。

ハーツ・イーズ侯爵令息。

マレイン・ウズイカ公爵令息。

リンシード・アマ公爵令息。

ラヴィンド・グラウン伯爵令息。

そして、なぜか私の二番目の兄、シトラール・バウム子爵令息までいた。

……本当になんで?

「シトラールお兄様、魔法学園でこれからも研究をするのではなかったのですか?」

私の問いに、シトラールお兄様は少しだけ眉間に皺を寄せた。

「……王宮魔法師団の研究所に所属することになった。今は研究所から出向している形になっている」

言いにくそうに説明してくれる。

普通、魔法学園で研究を続け、その成果が認められてから王宮魔法師団の研究所に入るのが定石のはずだ。

まあ、シトラールお兄様が優秀なのは知っている人は知っているけど。

私はちらりとハーツ様を見た。

シトラールお兄様とハーツ様は幼い頃から仲が良い。

ハーツ様の腹黒さがシトラールお兄様にうつったらどうしようと昔は思っていたけど、そこは大丈夫だった。

私は改めてローレル様の執務室を見回した。

落ち着いていて、いかにもローレル様らしい執務室だと思う。

その時、執務机の上に丁重にケースへ収められた石ころが目に入った。

……あれ、ただの石ころよね?

多少魔力は感じるから、魔石なのだろうけど、なぜ?

まあ、物の価値は人それぞれだし。

きっとローレル様には大切なものなのだろうと、私は結論付けた。

私はハーツ様からの強い視線に気がつく。

何か言いたいことでもあるのだろう。

「メリッサ、あの……」

「ハーツ。君とメリッサが遠縁で幼なじみだということは知っているけれど、これからは気を使ってほしい」

ローレル様が、ハーツ様の言葉を遮った。

しかも声が冷たい。

一瞬だけ、その場の空気が張り詰める。

「失礼しました。メリッサ妃、この呪いの魔石の件で聞きたいことがあるのですが」

“メリッサ妃”とハーツ様に呼ばれて、鳥肌が立った。

違和感しかない。

これからずっとメリッサ妃と呼ばれるのは嫌だなー。

なんて思っていたら、今度は不吉な単語が飛び出してきて驚く。

「呪いの魔石?」

思わずこの言葉を繰り返し、聞き返す。

何それ、不吉な魔石。

なんでそんなものをハーツ様が持っているの?

しかも、私に見せる意味も分からない。

思わず一歩後ずさる。

不吉なものは近づけないでほしい。

「これはメリッサ妃が僕に押しつけたものだろう! 持っていなければ不幸になるって!」

ハーツ様が語気を強めて言う。

「?」

私はハーツ様の掌に置かれた石ころを見つめた。

……確かに見覚えがあるかもしれない。

あ、そうだ。

魔法学園に入学してすぐ、私が魔法付与した石ころだ。

すっかり忘れていた。

え、何?

ハーツ様、あれからずっとこれを持っていたの?

うわー、律儀。

あっぱれです。

私は笑おうとして、でも、笑えなかった。

なぜか理由は分からない。

でも、とても嫌な感じがする。

「……もう暫くだけ、持っていてください」

それだけ、私は言った。

確信はない。

でも、間違ってはいない。

この魔石は近々、きっと必要になるものだ。

私の言葉に、ハーツ様は息を呑んでから静かに頷いた。

するとローレル様も、執務机のケースから石ころを取り出す。

「私も持っていた方が良いね?」

石ころを手に取りながら、ローレル様は私に尋ねた。

とても真剣な表情で。

その時初めて、ローレル様が持っているのも、あの時に作った魔石の一つなのだと気づいた。

なぜローレル様が持っているのか、不思議。

でも、そんなことより。

「はい、持っていてください」

私は迷いなく、そう答えていた。