軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

(回想)全てが無駄だった

魔力切れを起こしてから十日目。

私は、まだイーズ侯爵家にお世話になっている。

「メリッサお姉様、昨夜は執筆作業をして、一睡もしていませんね?」

目の前にいるのは、イーズ侯爵家の長女であるヴィオレ様。

十三歳の美少女である。

可愛いー。

目の保養ー。

「お姉様、聞いていらっしゃる?」

冷静でいながらも怒っているヴィオレ様も可愛いと思ってしまう。

でも、言っていることは正論だ。

「ごめんなさい」

とりあえず謝る。

ヴィオレ様は怒りながらも、私とのお茶を続けてくれていた。

「本当に心配しましたのよ」

大きく息を吐くヴィオレ様。

本気で心配してくれていたのが伝わってくる。

昔からヴィオレ様は、なぜか私のことを慕ってくださっている。

今世では末っ子の私にとって、妹ができたみたいで嬉しい。

しかも、とびきりの美少女。

慕われて嬉しくないはずがない。

魔力切れから目を覚ましたとき、私はイーズ侯爵家にいた。

魅了魔法を無効化する魔石を無理やり押し付けて、ハーツ様の目の前で意識を失ったのだ。

……今思い返しても、だいぶハーツ様に迷惑である。

ハーツ様、本当に申し訳ありません。

一応、心の中で謝罪しておく。

自分でもかなり無茶したことは自覚していた。

いつもなら魔力量に気を配って魔法を使っているのだけど。

緊急事態だったから仕方ない。

と、慢心してのも事実だった。

しかも、意識を取り戻したのは三日後。

改めて魔法を使う危なさを実感した。

ここまでの魔力切れを起こしたことは初めてだったのだ、

これにも驚いたが――。

目を覚ました瞬間、ヴィオレ様の泣き顔が目の前にあったことの方が衝撃だった。

何事かと思ったよね。

でも、見慣れたイーズ侯爵家の部屋とヴィオレ様の姿で、状況はすぐに理解できた。

あれがなかったら、普通にパニックを起こしていたと思う。

その後、ヴィオレ様がお医者様を呼んでくださり診察。

結果は――極度の魔力切れ。

ですよねー。

納得しかない。

最初は思うように身体が動かず、ふらふらしていた。

ここまでの魔力切れは初めてで、改めて魔法の怖さを思い知った。

魔法は万能ではない。

下手をすれば命に関わる。

そして、その日の夕方。

シトラールお兄様とハーツ様に、盛大に怒られた。

……覚悟はしていたけど。

ここまで叱られたのは、初めてだった。

どうやら魔法学園は現在休校中で、二人は王城でローレル殿下の公務を手伝っているらしい。

ハーツ様は分かる。

側近だし。

でも――。

「なんでシトラールお兄様まで?」

そう思っていたら、ハーツ様が推薦したらしい。

……まぁ、シトラールお兄様は優秀だしね。

納得ではある。

だけど。

「バウム子爵家的には、あまりよろしくないのでは?」

と私が軽く口にしたら――。

なぜか説教が追加された。

理不尽。

それでも、目を覚まして三日後には通常生活に戻れた。

寮に帰ろうとしたけど、イーズ侯爵家とシトラールお兄様に止められた。

現在、魔法学園はかなり混乱しているらしい。

原因は――ラズベリー・ハーブさんの魅了魔法。

……うん。

私、あんなに無理して魔石を作る必要なかったよね?

でも、あのときは本当に切羽詰まっていたのだ。

早く魔石を作らなきゃいけない、と頭の中にはそのことしかなかったのだ。

仕方ないじゃん。

とはいえ、結果的に無駄足だったのは事実。

……悲しい。

あんなに大変な思いをしたのに。

時間も魔力も全部無駄だったなんて。

その日の夜、私は静かに泣いた。

(私の時間と魔力、返せー……)

そんな療養生活の中で、思いがけない来客があった。

パトーキ侯爵家のアンジェリカ様である。

同じクラスで、入学当初から「良い子そうだな」と思っていた。

ペアの研究課題が出たとき、思い切って声をかけたのだ。

子爵令嬢の私と、侯爵家の惣領娘。

断られるかと思ったけど――。

あっさり了承してくれた。

すごく驚いた顔はされたけど。

実際、一緒に課題を進めてみると、やっぱりとても良い人だった。

礼儀は完璧。

でも、気取らない。

仲良くなるのに、時間はかからなかった。

そんな中での今回の件。

会いたいな、と思っていたら――。

まさかイーズ侯爵家までお見舞いに来てくれるとは。

どうやらシトラールお兄様が連絡してくれていたらしい。

ありがとう、お兄様!

『ご迷惑かとは思ったのですが、メリッサ様が心配で……』

アンジェリカ様、天使かな?

しかも美少女。

幸せ。

その日はヴィオレ様も一緒に、三人でお茶会。

美少女二人に囲まれるという至福の時間だった。

……興奮しすぎて翌日発熱したけど。

後悔はない。

むしろ、人生に悔いなしレベル。

(イーズ侯爵家に迷惑かけたのは反省してます)

そして問題は昨夜である。

暇だったので、つい執筆を始めたら止まらなくなった。

「……お姉様、書いた小説を私にも読ませてくださいませ?」

怒りを抑えた声で、ヴィオレ様が言う。

可愛い。

「あ、そうだった!」

ヴィオレ様が何かを思い出したように侍女へ指示を出す。

運ばれてきたのは――。

見覚えのある本、約二十冊。

私が書いた小説である。

さらにインクとペンが、当然のように目の前に置かれる。

……あれ?

空気がおかしい。

「これに、お姉様のサインをくださいな」

にっこり微笑む美少女。

断れるわけがない。

ヴィオレ様の侍女やメイドも微笑んでいる。

なんで?

みなさん、この本の作者を全員ご存知ですね?

何も言ってはこないけど。

……いや、それよりも。

「……なんで、私の本がこんなにあるの?」

二ヶ月前に初めて出版した本が、目の前に山積みになっている光景に――。

私は静かに引いていた。