軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と天下分け目3。

【陣形変更】によって大きく距離を取ったリリィ達はそのまま王城方向へと移動を続ける。

最後方では追ってきた時に雷によって牽制するためにベルベットがちらちらと後ろを確認しながら走っていた。

戦闘不能と言ってもいいほどぐったりとしたリリィを抱えて。

「ほ、本当に大丈夫っすか!ちゃんと元気になるんすよね!?」

「ああ……」

一瞬とはいえ【権能・超越】の使用のために制限を解除したことで、さらに量を増した情報が流れ込みリリィの処理能力を超えてしまったのだ。

「やはり私に使えたものではないな」

せめてほとんど人がいない場所であれば話も変わるが、ここから先そんな場面は訪れないだろう。

「追ってくるっすかね?」

「ウィルもいなくなってこちらの先制攻撃のプレッシャーも随分落ちた。十中八九来るだろうね。覚悟は決まったかい?」

「元々そのつもりでいたっす!」

「それだと最初から勝つつもりがないみたいじゃないか」

「そ、そんなことはないっすよ?」

「頼むよ。私は時間稼ぎくらいしかできないからね」

ペインが召喚兵をまとめて吹き飛ばしていたように、リリィはある一定のラインを越えるプレイヤーとの戦いで優位を取るのは苦手としている。

それでも、対処を迫るのは事実であり、一人で戦線を維持することもできる。

ウィルバートが自ら身代わりになった理由もそこにあった。ウィルバートが一人二人撃ち抜くことで戦況を変えられる段階は過ぎてしまっていたのである。

「ミィは?」

「準備できてるっす!」

「ベルベットの方も問題ないかい?」

「勿論問題ないっす!」

「オーケー……最後の勝負といこう」

リリィの体調もようやく回復してきた頃。背後からは地響きと共に砂煙が舞い、正面には町を守る白く高い外壁が聳え立っていた。

【集う聖剣】を中心に、いくつかの大規模ギルドのギルドマスターが密に連携を取り合っていることもあって移動はスムーズに進み、敵拠点の外壁近くまでまでやってきたところで、ついにリリィのスキルで退却した敵集団の姿をその目に捉えた。町の中には出撃せず残っていたプレイヤーもいる。

合流される前にこのまま突撃する。その意思は全ギルドマスター共通だった。

「攻め込む!続いてくれ!」

ペインはギルドマスター達と素早く意思疎通を済ませて号令をかける。

凶暴化した味方モンスターに合わせて、怒号と共に前衛のプレイヤーが駆け出していく。

「【トルネード】!」

「【タイダルウェイブ】!」

基本の魔法の中でも強烈なものが接近を拒否すべく次々に放たれる。

それでも突撃する前衛の足は止まらない。盾で受け、障壁をもらってぐんぐんと距離を詰めていく。

「皆頑張れー!」

メイプルが集団の中心で駆け出したプレイヤーを鼓舞する。もちろんただ応援しているだけではない。発光する地面は【救済の残光】による守護が働いていることの証明だ。強烈なダメージカットと回復効果が進軍を強烈に後押しする。

「【稲妻の雨】!」

正面から雷鳴と共に地面と空を繋ぐ稲妻が次々に降り注ぐ。発生頻度の高い雷に対応するため回復魔法が飛ぶ。

一撃死でないのなら、ヒーラーのMPがある限り問題はない。

「流石に一番後ろまでは届かねえか!」

次々に魔法が飛んでくるものの、それはクロムが防ぐ前に勢いを失っていく。

ユイ、イズ、カナデを守るため後方に陣取るクロムは今のポジションが全ての攻撃の射程外であることを確認し、不測の事態に備える。

先程の戦闘では。

と、ここまで考えてクロムは一つ違和感を覚える。

「ミィ……あいつ、どこいった?」

目の前から飛ぶ魔法にミィの炎がない。クロムは真っ先に奇襲の可能性を考え、辺りを見渡す。

すると探していた人物はちょうど見つかった。

空。強まる赤い炎の尾を引いて遥か遠くを飛ぶその姿はイグニスのものに他ならない。

「ペイン!」

「本当にやるとはな……!」

クロムの声と時を同じくしてペインにメッセージが届く。一足先に戦線を離脱したミィはギルドメンバーを連れて、すれ違うようにこちらの王城を攻めに向かっていたのだ。

「構わない!攻めろ!」

「狼狽えるな!」

それぞれのギルドマスターがギルドメンバーを落ち着かせる。

ミィのとった行動。それはあくまで負け筋としてそれぞれのギルドマスターが考えていた可能性の一つに過ぎなかった。

拠点攻略にはそれ相応の破壊力がいる。

ミィがいないことをむしろ好都合と捉えたプレイヤー達は、自分達のほうが城攻めに割いた戦力が遥かに多いことを根拠として、先に玉座に到達できると判断し、このまま攻撃を継続する決断を下した。

そんな中、何とか門を潜り町へ飛び込んだリリィはベルベットの背に声をかける。

「頼んだよ!」

「そっちこそ。任せたっす!」

準備は整った。これで状況をひっくり返し、一発逆転を狙う策を打つことができる。

ベルベットを中心に、辺りの地面にスパークが駆け巡る。

【極光】か、はたまた【雷神の槌】か、ここまでの戦闘で見せた破壊力。迂闊に踏み入るわけにはいかないプレッシャーが前衛の足を一瞬止める。

「あはっ!勝負するっすよ!【雷の通り道】!」

連続する強烈な雷鳴。次々に降り注ぐ落雷はメイプル達のいる場所すら通り過ぎて、フィールドを横断するように遠くへ遠くへ離れていく。

事前にスキルでマークした指定地点への味方を連れた高速移動。町から逃げるために使ったスキルを、今度は攻めるために起動する。

目の前にいたベルベットは拠点の防衛を放棄し、ミィの加勢へ向かったのだ。

じりじりやっても戦力差は広がるばかり。そもそもここを凌ぎ切るのも難しい。ならばと攻め落とすために出撃し、メイプル達の防衛戦力が手薄になるこの一瞬に全てを賭けたのだ。

「【全軍出撃】!」

外壁上から飛行機械に乗ったリリィがスキルを起動する。

初めから先程の戦闘での負けは覚悟の上、集団戦でなく拠点防衛にスキルを残したことで、町の中から外壁前まで兵士が次々に湧き出してくる。

ウィルバートが身を挺して守った理由、それはこの作戦にリリィが不可欠だったからでもあった。

「時間稼ぎは得意でね。のんびりしていってもらえると助かるよ!」

メイプル達にとって自陣営の拠点はあまりに遠い。どちらが先に攻め落とすか、敵の策に乗るより他はない。

作戦が失敗すればどうせ次などない。町の中からテイムモンスターに乗ったプレイヤーが次々に繰り出し、空を飛んで脆いプレイヤーに相打ち覚悟で突っ込まんとする。

この策を成功させず、自分達の勝利で終わらせるために、メイプル達の最後の戦いが始まる。