軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

防御特化と最終決戦。

メイプル達が外壁前で本格的な戦闘を始めようとするころ、王城へ向けて移動するミィに向かって大量の魔法が飛んでくる。

「早いな……!」

皆が空を飛べるわけではない。地面には城攻めのためついてきてくれたギルドメンバーがいる。

一人城まで向かっても戦力不足に陥るだろうと、ミィはイグニスの高度を下げ、周囲で火山が煙を上げ溶岩溢れる大地に降り立つ。

待っていたのは万が一奇襲があった時即制圧するため各ギルドから集められたプレイヤー。

集団戦での有利を確信してすぐに戦場を離脱し、安全のために後方で敵の動きに目を光らせていた者達だ。

「悪い予想って当たるよねー。心配しすぎなだけだったらよかったのになー」

「バフ頼むわ」

「ミィから行こう。やばそうならフレデリカ庇う感じで」

「おっけーおっけー」

フレデリカが杖を構える。遠距離範囲攻撃を得意とし、バフとデバフ、回復から防御まで器用にこなすフレデリカが防衛戦力の中心だ。

バフをばら撒き【多重全転移】を撃って、すぐ戦場を離れたフレデリカはこの防衛に参加できていた。予想していたなら当然対策も取るというものだ。

「押し通らせてもらう」

「私の障壁でその炎は止めさせてもらうよー」

フレデリカの役割はリリィと同じく時間を稼ぐこと。王城にたどり着けなければ勝利もない。

「こっちはベルベットも見ないといけないんだからねー……!」

ペインから届いた短いメッセージがベルベットが高速で移動していることを伝えていた。

まずはミィ、そしてそのまま王城まで引かなければならない。

「はー、よーし皆やるよー!」

「「「おおおおおっ!」」」

フレデリカは声をかけると、全力戦闘用のスキルを解放する。

「【マナの海】」

「【豪炎】!」

正面から放たれるは触れれば焼却は免れないであろう猛火。それに対し、大盾使いではなくフレデリカが前に出る。

「【超多重障壁】!ノーツ【増幅】【輪唱】!」

展開されるは膨大な量の障壁。

一枚、十枚。それを砕くことができるなら百枚ではどうか。

フレデリカの展開する障壁はミィの炎を受けきってなお健在だった。

「よーし。ほらほらー、大丈夫だからやっちゃってー!」

「【超加速】!」

「【戦いの咆哮】!」

フレデリカがミィの攻撃を受け切ったのを見て全員が前に出る。今のフレデリカなら防御は任せて問題ない。

「【矢の雨】!」

「ふふーん【超多重障壁】【超多重炎弾】」

空から降り注ぐ矢の雨を大量の障壁で押し止め、そのまま背後に大量の魔法陣を展開する。

ノーツの支援を受け倍に増えた炎弾はミィの炎にも負けない威力でもって敵へと襲い掛かる。

接近戦でもフレデリカの障壁が邪魔をする。【マナの海】による強化時間は限られているものの、その無尽蔵のMPから繰り出され、クールタイムもほぼ存在せず、好きなだけ展開できる障壁があってはダメージトレードは成立しない。

「ミィさん!」

「これだと厳しいです!」

「こちらの攻撃が届きません……」

フレデリカの魔法は本来単発のものを凄まじい量同時に放つというものだ。

ペインとサリーの連携攻撃がダメージ無効化スキルの隙を突いたのと同じく、この魔法は極めて防ぎにくい。

「【灼熱】!移動するぞ、しばらく耐えてくれ!」

「「「はい!」」」

ミィの炎で敵を押し返し、回復をかけてフレデリカから離れるように迂回しての移動を開始する。

しかし、それを見逃してやる理由などフレデリカ達にはない。

「ベルベットの方も気になるけどー……どう?」

「どっちつかずはまずいと思うわ」

「あんたのそれも時間制限あるんだろ。ないとミィは辛くないか?」

「おっけー、確かにねー。じゃあ行こー【超多重加速】!」

意思を統一して全員でミィの方へ向かう。遠くで鳴る落雷の音は気にかかるが焦りは禁物だ。

炎の壁に遮られて開いた距離はフレデリカのバフの分ですぐに詰まる。

「逃がさないよー」

「ああ……私もそう思っている」

「……?」

諦めとはまた違う雰囲気。フレデリカは言葉にできない嫌な感覚に杖を握り直す。

「マルクス。やはり、誰も知らなかったぞ」

火山を背にミィの体から炎が溢れ出す。根拠はない。それでもフレデリカは頭の中で警鐘がガンガンと鳴るのを感じていた。

「【インフェルノ】!」

「【超多重障壁】!」

ミィの炎に対抗すべく、フレデリカは大量の障壁を展開する。しかし予想に反してミィの炎の向かう先は地面だった。

ミィは迸る炎を握り込んで地面に叩きつける。地表に沿って暴れ回るはずの炎は地面に吸い込まれ、赤く輝く亀裂が広範囲に伝播していく。

発生した巨大な火柱が空を赤く照らし、フレデリカの展開した障壁を容赦なく叩き割る。

火柱が収まったその時。ミィは竜のようにうねる巨大な猛炎を操り、太陽のように燃える火球の中心で宙に浮いていた。

「ここまで来るのに随分時間がかかってしまった」

「……何それ」

「マルクスが見つけた地形効果だ。知らなかっただろう?」

マルクスはトラップの設置も探知も他のプレイヤーとは一線を画す。そんなマルクスだからこそこの生ける炎の存在に気づいた。

炎は足元の他プレイヤーの武器にも炎を纏わせる。ミィを中心に発火する地面は影響範囲の広さを物語るようだ。

「はー……もー!皆滅茶苦茶するー!」

「はは。フレデリカがそれを言うのか?」

効果時間に限りはある。だからこそ【炎帝ノ国】は攻めにこの炎を使える水と自然の国を選んだ。押され続け、ここまでやって来るのは遅くなってしまったが、この炎が城を落とすなら誰も文句はない。

「宣言通り、押し通る」

「駄目そうならベルベットの方行っちゃって!」

「分かった!」

全員で燃やされるほど馬鹿らしいことはない。まず脅威度を測る。障壁を準備しつつフレデリカはミィの出方を伺う。

「【炎帝】」

ミィが両手を横に広げると手のひらの前に火球が生成させる。それはうねる炎を取り込んで数倍の大きさに膨れ上がり、フレデリカ達の視界を覆い尽くしながら降ってくる。

「【超多重障壁】!ノーツ【増幅】【輪唱】!」

ミィを止めるのはフレデリカの役目だ。生み出した大量の障壁に隕石の如く降る二つの巨大な火球が直撃し次々に砕け散る。

「【蒼炎】!」

青い炎に赤い炎が混じり、火球につづけて飛んでくる。

「ちょっ……ごめん庇って!」

「【精霊の光】【カバー】!」

「突撃しろ!」

フレデリカが防ぎきれず、巨大な火球が辺りに炎を撒き散らす。それに乗じて攻めに転じた【炎帝ノ国】が炎を纏う武器をふるい、フレデリカに斬りかかる。

「【カバー】!」

「【フラッシュスピア】!」

フレデリカを守りつつ、近づくプレイヤーにダメージを返す。それでも、炎のバフがフレデリカが作ったステータスの有利を埋め、先程までのようにはいかない。

「【超多重炎弾】!」

「【灼熱】」

負けじと攻撃を返すフレデリカが放つ炎をミィの業火が飲み込む。

それは火山そのもののよう。荒れ狂う炎の激しさは、もはや災害のそれだった。

大盾使いはメイプルと同じ【カバームーブ】の高速移動。走れる者は【超加速】でもなんでも使えるものを使えるだけ使うと、フレデリカを引っ掴んで何とかその場を離脱する。

「あいつマジでやばすぎる!」

「フレデリカさん何とかできませんか!?」

「無理無理無理ー!あれは無理ー!」

ここで立ち止まって進撃を食い止めようとしてもたいした時間稼ぎにもならない。あと数度の攻防のうちに【炎帝ノ国】全体を強化する炎はフレデリカ達を残らず飲み込むだろう。

「町まで走ってー、ベルベットの方もまずいんだからー!」

「分かってる!」

敵の攻めは思った以上に苛烈で、一か八かの賭けや玉砕覚悟の突撃などでは断じてないと、フレデリカ達は町へと急ぐ。

あくまでこの一点、最後の勝機に焦点を合わせてきていたのである。

町に戻る頃には【マナの海】の効果も切れる。防衛戦力に不安はあるが、泣き言を言っても仕方がないのだ。

「バフはかけるからなんとかしよー!というかするしかないしー!」

「まだまだ働いてもらうぞ」

「大盾全員死ぬまで庇うからな!」

炎を宿したミィ本体はおいておくとして、バフを受けた【炎帝ノ国】のギルドメンバーにならフレデリカのバフで対抗できる。

「【超多重炎弾】【超多重風刃】!」

背負われたフレデリカは振り返ると【マナの海】が続く限り後方へ魔法をばら撒き続ける。

ミィが使役する炎はあくまでも火力特化で防御力は伸びない。牽制には意味があるのだ。

「やべー責任重いな」

「守り切ったら褒めてもらわないとね」

「向こうはちゃんと勝ってくれよ!」

天を衝く炎を背にフレデリカ達はひた走る。どんな状況となっても、最早敵は撤退しないだろう。

玉座さえ守れるならそれ以外は何だっていいのだ。

ベルベットが周りのプレイヤーを連れて目の前から消失し、代わりにリリィの召喚兵がその場を埋め尽くす。

倒しても倒しても際限なく湧いてくる兵士達が肉壁となってメイプル達の行手を阻む。

そして文字通り何より大きな壁となっているのが町を守る外壁だ。全員がそれを飛び越えることはできない。耐久値の低い門周りを破壊することで大穴を開ければ全員で突入できるが、兵士の壁がそう簡単には壁に張り付かせない。

「【聖竜の光剣】!」

「【傀儡の城壁】」

ペインが兵士ごと壁を攻撃すると、正面の兵士が再構築され変わりに受け止めてしまう。

数を増した兵士による分厚い防壁は砕けるが、壁にはダメージが入らない。

火力を少しでも下げるため、後衛に死も覚悟のうえでのギリギリの攻撃を仕掛ける敵プレイヤーからユイ達を守りつつクロムは隙を窺う。

できることならユイを無事に壁まで届けたい。

全員に僅かな焦りが浮かぶ中。後方、凄まじい火柱が空へ届く。その場を見ずとも分かる。

あれは間違いなくミィによるものだ。

「サリー、どう思う!」

「ちょっとまずいかもしれないです」

フレデリカを中心に残ったプレイヤーが防衛を担ってくれているのは分かったうえで、これまでに見た以上に大規模なミィの炎とベルベットの参戦は守れると言い切れなくする。

「どうしよう、戻った方がいい!?」

メイプルなら【機械神】を使って空を飛べば間に合う可能性は高い。しかし。

「メイプルは攻めないと。皆もダメージカットとその武器に支えられてるしね」

「カナデ……」

メイプルが頭上に展開する巨大な黒筒。定期的に前方にレーザーを放つ【古代兵器】は召喚兵の撃破に欠かせない。

「でも……大丈夫かな?」

「なら一つ聞きたいことがあるんだ」

カナデは本棚から一冊の真っ白い本を取り出す。

「僕一人なら戻れる。戻っては来られないけどね」

つまりカナデは【楓の木】のギルドマスター、メイプルに聞いているのだ。

戻って時間を稼げば勝ってくれるかと。

「任せて!私頑張るよ!」

「オッケー。じゃあやってみよう。実際心配だしね」

カナデのスキルを全て覚えたサリーもやろうとしていることを理解する。

「こっちは壁さえ壊せれば行ける」

町に雪崩れ込めば移動経路にも自由が生まれる。足止めも今ほどは機能しにくくなる。

「なら俺も戻るか。もう一個方法あるだろ」

クロムは城攻めにそこまで大きく貢献できない。戻れるなら自陣まで戻りたい。

方法を選ばなければやりようはある。

「それって、そういうことよね」

「私はいつでも大丈夫です」

六人は素早く意見を交わして、辺りの大盾使いにも声をかける。どこまでのリスクを許容し、作戦の最終目標を何にするかを決定して、六人は即座に行動に移す。

躊躇している余裕はない。

戦場を上から眺めるリリィは後方で不審な動きを見せる【楓の木】の面々を確認した。

カナデの足元からは白い魔法陣が展開され、イズが取り出した巨大な黒い球体にプレイヤーが次々に乗り込んでいく。

「あれは……」

何をしているかリリィには正確に理解できないが、何かを企んでいるのは間違いない。

リリィは兵士を差し向け、周りのプレイヤーも次々に合わせて突撃する。

「止めるよメイプル!」

「うん!【捕食者】!」

イズは先に集団の中へと避難し、メイプルとサリーは準備が済むまで詠唱中のカナデと乗り込むクロム達、そしてその前に立つユイを守る。

「【攻撃開始】!」

「朧【影分身】!」

「ぐっ……」

「怯むな!」

メイプルの射撃を潜り抜けた【ラピッドファイア】の面々には【捕食者】が襲い掛かる。

中途半端に逃げても勝てはしない。そもそも、もう既に役割は逃げて生き残ることではないのだ。

ダメージを受けるプレイヤー、崩れ落ちる召喚兵、その全てを盾にして全方位からユイとカナデに殺到する。

貫通攻撃も構えて【身捧ぐ慈愛】を使うなら代わりにメイプルを倒せるように。

しかしその直前でカナデとユイの準備も完了する。

「うん。じゃあ勝ってねメイプル!」

「任せて!」

「【テレポート】」

光と共にカナデの姿は消失する。

その隣で大槌を構えるのはユイだ。

「クロムさん!よろしくお願いします!」

振りかぶった大槌がイズの用意した球体を強く叩きつける。

轟音、衝撃。中に大盾使いを詰め込んで、救援部隊は空を飛ぶ。決行前にかけられるだけかけたバフは全てを振り切りクロム達を空の彼方へ吹き飛ばした。

それでも打ち上げがユイにしかできない分、残されるユイにプレイヤーが殺到する。ユイでは全ての相手はできない。何もしなければ死ぬしかない。

それでも、ユイにはあと一つ大仕事が残っている。

両手の大槌を握り直して、振り返りながら聳える壁を見据えた。メイプルとサリーなら守りにくる。残り時間も天秤にかけたうえで、その考えを逆手に取ると決めた。

「【古代兵器】!」

「【鉄砲水】」

バキンと音を立ててメイプルの兵器が変形する。消費エネルギーに見合った最大火力。メイプルが前方の兵士を吹き飛ばすと、続くサリーの生み出す水が兵士のバランスを崩し押し流す。

再召喚までの僅かな時間。しかし、そこに確かに遮るもののない一本の道はできた。

「【ウェポンスロー】!」

ユイはその一瞬を見逃さず、両腕に力を込め【救いの手】が持つ大槌と共に八つの鉄塊を放つ。

エフェクトによる軌跡を残して、正面の外壁に武器が直撃すると同時、回避も応戦も選択しなかったユイを刃が斬り裂く。

それでも、空にクロム達を打ち上げた時とは比べ物にならない轟音。

ユイの放り投げた武器は、一人のプレイヤーによるものとは思えぬ威力で破城槌の役割を果たした。

聳え立った外壁は正面から爆ぜ、舞う砂煙の向こうに守られていた町並みが見える。

ここにメイプル達の進む道はできた。

「あとは、頑張ってくださいっ!」

勝利に大きく近づく一手。兵士を倒しその勢いのままに壊れた外壁を越え、町へ駆け込んでいくプレイヤーを見て、ユイはほっとした様子で消滅していった。