軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■8.無謀な嘘設定が通じてしまった

ヴァルディが機嫌のいい時の癖で無意識に尻尾を振っていると、シェリネの視線がそちらに向いた。黒い鱗に覆われた尻尾を、興味津々な様子で見つめてくる。

「シェリネは魔族を実際に見るのは初めてだって言ってたな」

「はい。魔界に来てからも牢屋……じゃなくて、待合室に案内されるまで、ずっと目隠しをされていたので。ヴァルディさんが初魔族です」

「そうか。なら無知なお前に教えてやる。俺は火竜だ。よく覚えておけ」

二度と羊呼ばわりされてやるものかと、ヴァルディは腕を組んでふんぞり返り、気高き竜の威厳を誇示する。シェリネは神妙に頷いた。

「火竜……本で読んだことがあります。えっと、魔族の中でも『竜』は特に強い力を持った高位の存在であり」

「うんうん」

「その姿は獣に近い者、人に近い者、果ては植物に近い者と多岐にわたるが、どの竜も必ず角と鱗を持ち」

「うんうん。その通りだ」

「その中でも火竜は、捻れた角と、石炭の如き黒い鱗と、鮮血の如き赤い瞳が特徴で」

「うんうん。それもまあ合ってるな」

「非常に気性が荒く、数多の国をその業火で焼き滅ぼした、残虐なる炎の化け物である。……あれ? 確かヴァルディさんは、炎と無縁の魔族だって言っ」

「全然合ってないな!」

途中まで鷹揚に頷いていたヴァルディは、慌てて話を遮った。

「その記述は事実とは全く異なるから。火竜ほど炎に縁遠い竜もいないから。俺が扱える炎なんてせいぜい台所の弱火と中火と強火くらいだから」

「あ、やっぱり本の方が間違いなんですね!」

火竜が炎に縁遠いという無謀な嘘設定を、シェリネは素直に受け入れてしまった。

「だってヴァルディさんは気性が荒いどころか、親切で優しいですし。残虐だなんて、真逆ですよもう」

人間が書いた本の内容よりも、目の前の魔族の言葉をあっさりと信じるシェリネ。ヴァルディはまた無意識に尻尾を振る。

「そうだ、本が間違いだ。俺は国を焼き滅ぼしたことなんてない」

これは嘘ではない。ヴァルディが焼き滅ぼしたことがあるのは村である。

あと確かに人間の国を丸ごと灰にした火竜は歴史上存在するが、それは別竜の話なのでやっぱり嘘ではない。

「だから信憑性に欠けるその本の内容なんて全部忘れるといいぞ」

「そうですね。鱗の記述だって色は合っていましたけれど、ヴァルディさんの鱗は石炭というより、宝石の方が近いですしね」

「宝石……。ふ、ふーん。宝石。へえ。そう?」

「はい。きらきらしていて、すごく綺麗です」

「綺麗……。ふーん、まあ、特別に触らせてやってもいいけど?」

ヴァルディは尻尾をゆっくりと動かし、隣に座る彼女の膝にそっと載せた。

今までのやりとりから、シェリネなら魔族との接触に忌避は示さないだろうと予想したからそうしたのだが、案の定、彼女は好奇心に満ちた様子で鱗に触れてきた。

剣でも傷つけられない頑丈な鱗を指先でなぞられるくらい、別になんともないはずなのに、妙にくすぐったく感じる。

「へええ……わああ……すべすべ……」

「どうだ。火竜の鱗は鉄より硬いんだぞ。すごいだろ」

「はい! この輝き、滑らかな手触り、まさに黒い宝石……いえ、在りし日に神殿の中庭で作った究極の泥団子に匹敵します!」

「比較対象の価値が暴落したんだが」

宝石宝石と称賛されるつもりで待ち構えていたヴァルディは、まさかの泥団子評価を下したシェリネに白い目を向けた。

「火竜の鱗の記述を『石炭』から『すべすべ泥団子』に書き直す必要がありますね」

「そんな本は絶版になればいい」

速やかに機嫌を傾けたヴァルディだったが、「いつまでも触っていられる至高のすべすべです」と尊敬に溢れた眼差しが返ってきたので、速やかに機嫌を立て直した。

そのまま尻尾を彼女の好きなようにさせる。まるで猫を愛でるような手つきで優しく撫でられるのは心地好かった。

なおこの尻尾、鱗を逆立てれば即座にシェリネの手がズタズタに裂ける、それくらい危険な部位なのだが、それを教えたら怖がられそうだったので言及するのはやめておいた。どうせ鱗が逆立つのは、本気で臨戦態勢に入った時くらいである。

シェリネが本当にいつまでも撫で続けるので、ヴァルディは次第にうとうとしてきた。隣を見れば、彼女もこくりこくりと寝落ちしかけている。火竜の体温は人間より少し高いので、尻尾を膝に載せていると温かくて気持ちいいらしい。

「おい。起きろ。椅子で寝るな。風邪引くぞ」

ヴァルディは自分も寝落ちしかけていたことを棚に上げ、欠伸を噛み殺しつつ立ち上がった。温かい尻尾を離されたシェリネは、ぽやぽやと大変眠そうな様子で見上げてくる。

「ひゃい……?」

「起きろ。飯も食わせたし風呂にも入れたし、俺はもう引き上げる。お前もちゃんとベッドで寝……」

引き上げるという言葉を聞いた瞬間、シェリネがハッと覚醒した。

「ヴァルディさん、行っちゃうんですか?」