軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■23.あなたがとても愛おしいです

数日後。

ヴァルディは魔王城の一階にある購買部で、発注していた品を受け取った。

購買部は基本的に、パンやお菓子や文房具といった日用的な品を扱っているが、棚にないものでも注文すれば大体のものは取り揃えてくれる。

ヴァルディは木箱を大事そうに抱え、早歩きで家に帰った。木箱の中身はシェリネへの贈り物である。

先日、ピトフィたちにもらった券を嬉々として客室の壁に貼るシェリネを目撃したヴァルディは、自分も贈り物をするのだと固く誓ったのだ。

まず最初に思いついたのは、というか思い出したのは、神殿の連中の首をシェリネに渡すことだった。

戦争の責任をシェリネに被せた神殿の上層部各位――ヴァルディが苛立ちをぶつけるべきだった、本来の相手である。

新しく始まったシェリネとの日々に夢中でうっかり失念していたが、まだ奴らの首を切り落とすには遅くないはずだ。可愛い箱に詰めて贈れば、シェリネも「わーい私を売った奴らの首だー」と喜ぶに違いない。

と考えたのだが、箱詰め生首計画は実行前に頓挫してしまった。

定例会議の際、ヴァルディが魔王に「フロギア王国の偉い人間の首取ってきてもいい? べ、別にシェリネに渡して喜んでもらおうとかそんなんじゃないんだけどさ」と許可を伺ったところ、会議の場にいた七星一同から大反対を受けたのだ。

「聖女ちゃんにそれはやめろ馬鹿」

「優しくて親切なヴァルディさん路線を死守しろアホ」

「贈り物に死体選ぶ彼氏とかドン引くっていうかぁ」

「そういうとこだぞお前」

「だから顔はいいのにモテないんだ」

「また洗濯係から苦情が来ます」

と、散々な言われ様だった。

仕方なく箱詰め生首計画を諦めたヴァルディは、それでもシェリネに罪を被せた連中には腹が立っていたので、魔王にもシェリネにも内緒でフロギアの神殿に乗り込んで、上層部各位を元気に殴り飛ばすことで溜飲を下げた。しっかり「無実の聖女を押し付けられて腹が立ったので、真犯人へ報復に来た」と、大声でシェリネの冤罪を晴らすことも忘れずに。

なお、ヴァルディが起こしたこの騒動が引き金となり、フロギアでは神殿上層部による献金の私用等の悪事が白日の下に晒されることになり、民衆の間で「炎の悪魔を改心させ、神殿の浄化のために使いとして寄こした大聖女シェリネ様」なる新・シェリネ伝説が生まれたりするのだが、そんなことヴァルディは知る由もないし、あんまり興味もない。

というわけで、生首の代わりに贈ることにしたのが、足輪だった。

魔族界隈では婚姻の意味を持つ足輪だが、もちろん全くそのような意図は一切ないし、人間の文化では罪人に足枷を嵌めるそうだから捕虜であるシェリネにその立場を分からせるために足に輪っかを付けさせるだけだし、「あなたがとても愛おしいです」という本来の意図は微塵も込めていないし、捕虜に相応しい当然の措置を取るだけなので、この行為に何も特別性はない。

という論理武装を完了したヴァルディは、白銀製の輪に青い宝石を嵌め込んだ、とても美しい足輪を用意した。

ヴァルディが思う最も綺麗な色の組み合わせを考えた結果、シェリネの髪と瞳の色になったけれど、それはまあ偶然だからやっぱり特別な意味はこれっぽっちもない。

あと足輪を発注した際、気を利かせた購買部の店主が「よく分かる求婚の作法」という小冊子をさりげなく渡してくれたが、暇潰しにちょこっと読んだだけなので全く参考になどしていないし、誓いの正しい作法を頭に叩き込んだりもしていない。

「ただいま」

「おかえりなさい、ヴァルディさん」

「これやる」

ヴァルディは努めてなんてことなさそうに、その辺で拾った小石をあげるような態度で、蓋を開けた木箱をシェリネに差し出した。

「わあ、腕輪ですか?」

「腕じゃねえよ、足に付けるものだ。ほら、あれだ、シェリネは捕虜だから足枷を付けないといけないんだ」

「なるほど。でも、私の知ってる足枷とだいぶ違うのですが……?」

「全く、シェリネは無知で困る。これが魔界の標準的な足枷だ。魔族の文化ではこれが常識だぞ」

「魔界は足枷までお洒落なんですね!」

毎日のように吐かれるいつもの嘘を、今日も素直に信じて感心しているシェリネ。その反応にヴァルディは頬を緩ませると、彼女を椅子に座らせ、その前に跪いた。

左足をそっと持ち上げ、靴を丁寧に脱がせ、足輪を嵌める。

この行為自体が「あなたに愛を捧げます」という最上級の宣誓になるので、言葉での誓いは必要なかった。

「できたぞ」

近頃めっきり死ななくなった彼女の目が、足輪を見つめてきらきらと輝く様子に、ヴァルディは幸せな気持ちになる。

「綺麗ですね!」

「ああ、すごく綺麗だと思う」

そう応じるヴァルディの声が、特別に優しいものであることを、シェリネは知らない。