軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■20.女子会など許さない

カルドロの言を受けたヴァルディは、急いで「失恋岩」に戻った。

シェリネがいるので、どんなに焦っていても岩に亀裂が入るような乱暴な着地はしない。トンッと軽い音と共に、女子三人の間に割り込む形で降り立つ。

「俺だってシェリネと女子会を開いたことないのに……! 開き方を教えろ……!」

そして大事な捕虜を背に隠すように立ち、ピトフィとオールワークスを敵意満々で睨み付けたが。

「おかえりなさい、ヴァルディさん。こちらは通りすがりのピトフィ姐さんと、オールワークスちゃんです」

背後のシェリネから朗らかに告げられた内容に、愕然とした表情になった。

現場から五分も離れていないというのに、なぜこの聖女はちょっと目を離した隙に、初対面の魔族二名を姐さん呼び・ちゃん呼びする仲になっているのか。

「シェリネ、もうこいつらと仲良くなったのか……?」

「はい! お近づきの印もいただいてしまいました。毒殺初回割引券と、もえもえきゅんきゅんオムライス修行券です!」

「意味不明な券を嬉しそうにもらうんじゃない」

にこにこと見せられた各種券をヴァルディは速やかに取り上げたが、シェリネが「あっ……」としょんぼりしてしまったので、無言で速やかに返却した。

そのヴァルディとシェリネのやりとりを、にやにやしたピトフィと、無表情ながら興味津々な様子のオールワークスが眺めている。

その視線に気付いたヴァルディは、再び彼女たちを睨み付けた。

「シェリネになんの用だ。なんの話をしてたんだ」

「何って、アタシたちは偶然出会った聖女サマと楽しくお喋りしてただけよぉ。ねぇ、捕虜の見張り番のヴァルディ?」

「うっ」

「右に同じ。ただの通りすがりであるわたくしたちは、捕虜様と爽やかな挨拶をしていただけのことです。上司の命令も大変ですね、ヴァルディ様。花畑への引率も捕虜監視の重要な業務ですものね、ヴァルディ様」

「ぐっ」

こちらの諸事情をがっつり把握されている上に、話を合わせてもらっている(真実を人質にされているとも言う)状況に、ヴァルディは何も言えなくなった。

「もしかしてヴァルディさん、おふたりと知り合いなんですか?」

そんなヴァルディの葛藤など露知らないシェリネから、またもや朗らかな声が掛かる。

「あー、まあ、知り合いっていうか、まあ……」

「そうそう。アタシたち同僚なのぉ」

「補足。わたくしたちは『七星』という部隊の所属でございます」

「あっこらオールワークス余計なことを」

「ななほし? 綺麗な名前ですね!」

「あらぁ、名称を決めた魔王様が聞いたら喜ぶわぁ」

「追加情報。同じく魔王様がお決めになった、ヴァルディ様の七星における役職名は」

「あああ追加しなくていい!」

ヴァルディは大声で話を遮った。このまま同僚のふたりに好き勝手喋らせていては、シェリネに伏せてきた個人情報の数々が瞬く間に流出しかねない。

先の戦争でヴァルディに対し「戦闘狂」「鬼畜の所業」等々の悪口で盛り上がっていたのが、他ならぬ七星の連中なのだ。その辺りのことは断固シェリネのお耳に入れたくない。

慌てたヴァルディは、有無を言わさずシェリネを抱き上げた。

「もう花畑は見たし帰るぞシェリネ!」

「えっ」

そして本日二度目のお姫様抱っこにシェリネが反応する隙さえ与えず、凄まじい速度でその場から跳躍。

ピトフィとオールワークスの前からヴァルディたちの姿はあっという間に消え、残されたのはシェリネの「にどめー……」という弱々しい悲鳴の余韻だけだった。

花畑からの不自然な離脱については、ヴァルディが苦し紛れに放った言い訳「家の鍵ちゃんと閉めたかどうか気になって」を、シェリネがあっさり信じてくれたことで事なきを得た。

「ごめん、シェリネ。急に帰ることになって」

ただいまふたりは台所にて、シェリネが水筒とカップを洗い、ヴァルディが拭くという共同作業に勤しんでいる。

「本当はもっとのんびりするつもりだったのに……」

「いえいえ、充分に堪能できましたよ。ピクニックって楽しいんですね」

人生初ピクニック大成功です、と嬉しそうに言うシェリネを見て、ヴァルディはしゅんと下げていた尻尾をピッと立てた。

「……あの場所が気に入ったなら、また連れて行くけど。次は弁当も持参で」

「べっ……!? ぜひ!」

瞳をきらきらと輝かせて頷くシェリネ。ヴァルディは思わず緩んだ表情になり、その時は豪華三段弁当を拵えよう、と胸に誓った。

「花畑に連れて行ってよかった……」

花を見せて喜ばせるという本日最大の目標を達成できた今、ヴァルディはとても満ち足りた気分だった。にやにやしながらカップを棚に戻す。

「あんなに広いお花畑でヴァルディさんの同僚の方に出会えるなんて、すごい偶然でしたね。お話しできて楽しかったです!」

途端、にやけていたヴァルディは渋面になった。ふたりきりの楽しいおでかけに水を差したばかりか、話題にまで挟まってくる七星の連中め。

「そうだなー。通りすがりって言ってたなー。ほんと偶然だなー」

奴らのことだ、断じて通りすがりなどではなく、ヴァルディが捕虜を手に入れたと知って野次馬根性でやってきたに違いない。最終的に問題が起きなかったから今回は許すが、もしもシェリネを怯えさせていたら承知しなかった。

と、そこまで考えたヴァルディは、まじまじとシェリネを見つめた。

そう。彼女はピトフィとオールワークスに怯えなかったのだ。

彼女は人間なのに、普通に初対面の魔族と挨拶を交わし、普通に割引券だのお試し券だのを受け取り、普通に仲良くなったのだ。

普通に魔族と接している、それが普通ではない。

初めてシェリネと出会った日に抱き、そのまま今日まで放置していた疑問がぶり返す。

なぜこいつは人間のくせに、魔族を怖がったり、嫌がったりしないのだろうか。