軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■17.花畑デート

「着いたぞ」

ヴァルディ的にはただの運搬体勢、世間的にはお姫様抱っこ、シェリネ的には君は羽のように軽いよ子猫ちゃん抱っこによる移動はまことに効率が良く、あっという間に目的地に到着した。

ただし、突然風を切る早さで空中に射出されることになったシェリネにとっては、あまり心穏やかな移動方法ではなかったようで。

「はあ、ふう、と、飛ぶって、ベールが風で飛んでいくと、私たちがお花畑へ飛んでいくの、二つの飛ぶだったんですね……」

抱き上げられた瞬間に感じたはずの頬が染まる系ドキドキを、単なる驚きと恐怖による動悸・息切れ系ドキドキに塗り変えられてしまったシェリネは、ヴァルディの腕の中で大人しく深呼吸をしている。

すっかり蒼褪めた顔ではあはあ言っている彼女を見下ろしたヴァルディは、「なんで歩かせてないのに息切れしてるんだ……? 脆弱過ぎないか……?」と、こっちはこっちで慄いていた。

「体調が悪いのか? 今日はもう帰るか?」

「い、いえ、大丈夫です。ちょっと激しめの空中散歩に驚いてしまっただけです。ヴァルディさんは料理上手なだけではなく、空まで飛べるんですね」

息を整え終わったシェリネから尊敬の眼差しを受け、瞬く間に矜持をくすぐられたヴァルディは、彼女を抱えたまま盛大に胸を張った。

「まあ俺は竜だし。これくらい普通だし。今のは正確に言うと飛んだっていうより跳んだだけなんだけど。でも疲れるからあんまりやらないだけで、炎を爆ぜさせれば本当の飛行だってできるんだぞ」

「炎」

「よーし花畑に着いたぞ存分に拝むといい」

ヴァルディは自分で持ち出した話題を強制的に打ち切り、シェリネをそっと降ろした。

「わあ」

到着直後は周囲を見渡す余裕のなかったシェリネは、促されて初めて眼前に広がる光景を見て、感嘆の声を上げた。

どこまでも続く一面の花畑。

風が吹くたびに、色とりどりの花たちが一斉に波打ち、まるで海である。

花の海には小島よろしく突き出た岩がぽつぽつと点在しており、その中の一つに、ふたりは立っていた。

「花です!」

「そうだ」

「果てしなく広いです!」

「そうだ」

ヴァルディが岩に腰を降ろすと、シェリネも倣って隣に座った。ふたりが足場にしている岩はいい感じの広さと平たさで、座って花を眺めるには丁度いい。

「綺麗ですね。花がたくさんですね」

「そうだな。たくさんだな」

ヴァルディにも人並みに花を美しいと思う感性は備わっているが、わざわざ花畑を訪れるほどの愛着はなかった。

だが、右を見て左を見ていちいち喜んでいるシェリネを眺めているうちに、ヴァルディ内の花の地位が俄かに急上昇である。花は素晴らしい。花畑最高。あとで魔王にお礼のクッキーを焼こう。

「あ、そうだ。花を見ながら飲もうと思って、水筒に蜂蜜レモン水入れてきたんだけど」

「えっ蜂蜜の神再び……?」

ヴァルディは持参しておいた二つ分のカップに水筒の中身を注ぎ、一つをシェリネに渡す。

シェリネは「ありがとうございます」と、さっそく嬉しそうに一口飲み、拳をグッと握ると、「かーっ!」と声を上げた。

「この一杯のために生きてるぅッ!」

「急にどうした……?」

「これは『汝、疲れた身体に染み入る美味しいものを飲んだ時に発すべし言葉なり』と、先代聖女様に教わった言葉です。発言の際、拳の形も重要なのだそうです」

「なんだ、人間の作法か。しかしシェリネは先代聖女が好きだな」

「はい! 人生の指針です!」

「ふーん。……その作法、俺も言ったほうがいいのか? 魔族だけど」

「聖女限定とは教わっていないので、ぜひご一緒に!」

「かー。生きてるー」

「生きてるー!」

ぽかぽかと心地好い日差しを浴び、揺れる花々を眺めながら、一緒に甘い飲み物を味わう。シェリネが「平和ですねー」と笑みを零し、ヴァルディはその通りだと思った。とても平和で、幸せな感覚がする。

「あれ? この岩、文字が彫ってあります?」

何かを発見したらしいシェリネは、自分たちが腰掛けている岩に視線を落とし、彫られている文字を読み上げた。

「失恋岩。……この岩の名前でしょうか?」

「ん? ああ、この花畑にある岩には全部名前が付いてるんだよ。岩の上で起きた何かしらの出来事に由来してる。ほら、内容も彫ってあるだろ?」

「えーと、『この岩はその昔、魔王城に花束持参で十四度目の不法侵入をせし聖剣の勇者ルクスが、ついに魔王軍幹部ミラに結婚を前提の交際を申し込み、秒で振られた場所である。ゆえに失恋岩と名付ける』。わ、わあ……勇者さん可哀想……」

「俺はこの岩が一番寝転びやすいから気に入ってるんだが、他の魔族には不人気の岩だ」

「それは、はい……由来を知ると悲しくなってしまいますものね……」

「逆に、あっちにあるトゲトゲした岩は『勉強岩』で、由来は忘れたが学業の成就に御利益があるとされて、すごく人気の岩だ」

「試験前には行列ができそうな岩ですね」

「そっちにある丸い岩は『コラーゲン岩』。魔王城の初代料理長コラーゲンが毎朝の精神統一に使ったとされる岩だが、なんでか美肌に効果があるという噂が立って以来、勉強岩と双璧を成す人気を誇っている」

「お肌の健康は重要ですからね」

「で、あの猫っぽい岩が……」

得意げに岩の解説をしていたヴァルディは、ふいに口を噤んだ。

ピンと尻尾を立て、険しい表情になる。

「どうされました?」

「……見られてる」