軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

■11.いかに捕虜を虐めているか魔王に報告した

ヴァルディが聖女シェリネを捕虜にして、ひと月が経った頃。

「来たぞ」

「やあ、ヴァルディ。呼び出して悪いね」

物々しい玉座からヴァルディに呼びかけるのは、漆黒の長い髪をした麗しい女性。

しなやかな手足と豊かな胸の谷間を大胆に晒すドレスを着こなした、妖艶な美女である。しかし、ただの美女ではない証拠に、額から二本の角が生えていた。

彼女こそが魔王。この城の主にして、魔界を統べる存在である。

「あれからどうなったか聞きたくてね。どうだい、聖女ちゃんは元気かい?」

魔王から朗らかに問われ、ヴァルディは己の捕虜の扱いを誇らしげに報告した。

「もちろんシェリネは今日も可愛い、じゃなかった、もちろん全然元気じゃない。捕虜として今日も馬車馬の如くこき使っているからな。今は俺の家で楽しく編み物、じゃなかった、不眠不休で内職をさせている」

「それはそれは、容赦のない。宣言通りに聖女ちゃんを虐めているんだね」

魔王は言葉と裏腹に微笑ましいものを見る目をしているが、虚偽の報告に忙しいヴァルディは気付いていない。

「当然だ。雑用をさせる利便上、仕方なく牢屋から出して俺の家に住まわせているだけであって、仲良く一緒に暮らしてるとか全然そんなんじゃないから。味と栄養バランスに配慮した食事なんて一切与えてないし、食後のお茶も出してやらないし、風呂も石鹸もふわふわのタオルも自由に使わせてやらないし、歯磨き粉はミント味を渡したし。毎日ものすごく虐めてる。昨日もヒンヒン泣かせてやった」

最後の言葉は嘘ではない。昨日、シェリネのおやつに巣蜜載せバタートーストを出してみたら、蜂蜜好きの彼女は「発想が神」と泣いて喜んでくれたのだ。ヴァルディは鼻が高かった。巣蜜の安定供給のために養蜂を検討しているくらいである。

「うんうん、それは酷い。いやー、ヴァルディが楽しそうでよかったよ」

「ああ。毎日超楽しい」

「でもね、聖女ちゃんを構うのが楽し……虐めるのが楽しいのは分かるけれど、たまには外出もさせてあげるんだよ。たぶんだけど、聖女ちゃんを君の家に住まわせて以降、一度も出してあげてないんだろう?」

「? そうだけど?」

ヴァルディはきょとんとした顔で首を傾げた。

何か問題があるだろうか、という純粋に不思議そうな彼の様子に、魔王の顔が穏やかな微笑みから、困った子を見る微笑みに変わる。

「あのねヴァルディ、それは監禁と言って……いや捕虜の扱いとしては妥当かもだけど、君の場合は、うーん……」

古来より竜には、お気に入りの「宝物」を巣の奥に隠し、延々と守る性質がある。

竜にとって、宝物は見せびらかすものではない。むしろ見せたくない。宝物を狙って巣に入ってきた外敵は問答無用で血祭り。竜とはそういう魔族である。

火竜であるヴァルディも当然、その性質をしっかりと受け継いでいた。

外敵への容赦のなさで言えば、大事な居場所である魔界を脅かされた時、誰よりも早く前線へ飛び出しフロギア王国の兵士を皆殺しにしたのがいい例だ。

そして今は魔王の予想通り、宝物を巣の奥で守る性質が遺憾なく発揮されている。

これが宝石などの無機物であれば問題ないのだが、今回の対象は生身の聖女である。傍から見ると監禁である。しかもヴァルディ本人に悪気はない。ゆえに純然たるきょとん顔である。魔王からちょっと将来を心配されていることなど露ほども気付いていない。

「本気で捕虜と見做しているなら、別にどう扱おうが口出ししないんだけど……たぶんヴァルディが聖女ちゃんと築きたい関係は……うーん」

「どうした魔王? 急に唸って」

「ここ最近のヴァルディの様子が証拠だよねえ……めちゃくちゃ機嫌いいし、すぐ家に帰りたがるし、言葉の端々から好意がダダ漏れだし、急に養蜂の勉強を始めるし……」

「魔王ってば。聞こえてるか?」

「好きな女の子に選ぶ手段が無自覚に監禁……このままでは世間からヴァルディへの好感度が下がってしまう……本当は優しくて素直ないい子なんだ……私がそれとなく軌道修正しなければ……」

「なあ魔王、さっきからブツブツ言って大丈夫か? 腹でも下したのか? 冷えたんじゃないのか? 部屋暖めてやろうか? 全く、そんな薄着してるからだぞ」

難しい顔で唸る魔王の身を案じたヴァルディは、矢継ぎ早に問いつつ巨大な火球を作り始めた。

普段は魔王に対して敬意の欠片もない態度を取るヴァルディだが、なんだかんだで人一倍、魔王を慕っているのだ。何せボロボロになって地面に転がっていた幼いヴァルディを拾ってくれた、育ての親なので。

室内で使ってはいけないレベルの魔力の気配、及びパチパチと火が爆ぜる音で我に返った魔王は、「あ、ああ。ごめんね、寒くないから大丈夫だよ、ありがとう、火球は消そうね」と、室温を急上昇させつつあるヴァルディをやんわり制止し、話を戻す。

「いいかい、ヴァルディ。人間はお日様に当たらないと元気がなくなってしまうんだよ。君の大事な捕虜が病気になったら嫌だろう? だから閉じ込めるのはやめよう?」

「へえ、そうなのか。分かった、今日は中庭で日向ぼっこさせておく」

「……。……。えーと、たまには聖女ちゃんも、もうちょっと広い庭で息抜きしたいんじゃないかな? 幼い頃からここで育ってきた君にとって、魔王城の敷地はどこもかしこも庭のようなもの。つまり家の外に出たところで、君の庭を案内してあげるのと同じさ。中庭に出すのと大して差はない。ね?」

竜の性質をよく分かっている魔王が、宝物を巣から出すわけではないのだと言外に強調する。その詭弁にうかうかと乗せられたヴァルディは「それもそうか」みたいな顔で頷いた。

魔王はにっこりと微笑み、さらに続ける。

「ぜひ君の聖女ちゃんに、我が城の素晴らしさを見せてやっておくれ。特に西の空き地に作った花畑なんて穴場のデートスポッ……とても自慢の場所なんだ。『魔王城にこんなロマンチックな場所があるなんて』と、百年前に不法侵入してきた勇者くんも驚いていたよ」

「花畑……そういえば、シェリネはいつも『お花畑の香り』を選ぶよな……」

ここ一ヶ月におけるシェリネの入浴剤選びの傾向(一度「古戦場の香り」を使って以来、彼女は「お花畑の香り」一択だった)を思い出したヴァルディは、俄かに花畑の存在に興味を持った。

シェリネは花が好きなのかもしれない。たくさんの花を見せれば喜ぶのでは。彼女の笑顔を想像すると、無意識に尻尾が揺れた。

「今日は天気もいいし、聖女ちゃんを花畑に連れて行き楽しくデー……あー、えー、いかに広大な魔王城に捕らわれているかを哀れな捕虜に分からせてやり、絶望の淵に叩き込むのもいいかもね?」

魔王の言葉に、ヴァルディは「それだ!」みたいな顔で尻尾をピンと立てた。誰憚ることなくシェリネを花畑へ連れて行くのに、なんと完璧な大義名分だろうか。

「ふん、よく分かったな魔王。実はちょうど俺もそう考えていたところなんだ。今日はシェリネに花を見せ、じゃなかった、お前がいるのは魔王城であり逃げ場はないのだという事実を分からせてやるためにも、敷地の広さを見せつけてやろうかなって。精神攻撃ってやつだな。めちゃくちゃ絶望させようと思う」

「それはそれは。いやー、ヴァルディの捕虜いびりも堂に入ったものだなあ」

魔王に感心した様子で称賛され、ヴァルディは鼻が高かった。自分がものの見事に誘導されているという事実にはもちろん気付いていない。

「じゃあ、俺忙しいから、もう帰っていいか?」

「うんうん。早く聖女ちゃんのところに帰っておやり」

報告の任を終えたヴァルディは、軽やかな足取りで退室した。

その上機嫌な後ろ姿を、やはり魔王は微笑ましげに見送り、独り言を漏らす。

「仲良しだねえ」