作品タイトル不明
53話(番外編 エミーの決意)
王都に戻ると、そこは思っていたよりも静かだった。
あの日の反乱は終わり、街は再建に向けて動き出している。
その再生の重責を一身に背負っているのが、今の王、ライナーだった。
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王宮の一室で、エミーは、ゆっくりと頭を下げた。
「この度は、お声がけいただきありがとうございます」
顔を上げると、目の前にはあの日、廊下ですれ違った青年が座っていた。
(やはりあの時の方が、新たな王なのですね)
彼の王としての装いは、以前の王族とは違い、質素に見えたが、その眼差しには先代にはない威厳が感じられた。
「礼を言うのは、こちらの方だ。……貴女が引き受けてくれて、本当に心強い」
ライナーはわずかに目を細め、嬉しさを隠すように言った。
(やはりあの時の女性で間違いない……)
「突然の話にもかかわらず、引き受けてくれたと聞いた。感謝する」
「恐れ入ります」
エミーはわずかに頷いた。
「これまで学んできたことが、役に立つのであれば、それはわたくしにとっても嬉しいことにございます」
エミーはわずかに頷きながらも、心のどこかで戸惑っていた。
(……この方は、なぜこんなにも穏やかな目をわたくしに向けるのかしら?)
あの日、ほんの一瞬すれ違っただけなのに、この懐かしさは何かしら。
確かに覚えがある。そして、それは彼も同じように感じているのではないか。そんな不思議な感覚が、二人の間に漂っていた。
しかし、それを言葉にすることはなかった。今は、それよりも優先すべきことがある。
「貴女に無理をさせるつもりはない。辺境伯殿のご息女だ。これまでの経緯も知っている」
その言葉に、エミーはわずかに目を見開いた。
(知っている? 自分が、どう扱われてきたかを)
「それでも、協力したいと申し出てくれた貴女の勇気に、改めて礼を言いたい」
それは真摯な声だった。飾り気のない、本心からの言葉。
エミーは、ゆっくりと息をした。
「もったいないお言葉です」
そして、ライナーの顔をじっと見つめた。
「ですが、これはわたくし自身が決めたことです」
その言葉に、ライナーは彼女の強い意志を感じた。
そしてそれ以上は、何も言わずにただ、彼女の選択を尊重するように頷いた。
ーーーー
「交渉の場についてだが」
ライナーは机にある地図を指差した。
「相手国の王宮では行わない。拘束の可能性を排除するため、中立地での会談を提案した」
それにエミーも頷いた。
「賢明なご判断と存じます。そこでしたら、どちらの国にとっても平等な条件になりますから」
「その通りだ」
ライナーは続けた。
「護衛も最小限にするつもりだ」
そこで、ライナーは、エミーを見た。
「辺境伯殿にも、同行をお願いしている」
その言葉に、エミーの表情がわずかに和らいだ。
「お父様に……」
「国境の状況を最も理解している方だ。交渉にも不可欠だと判断した」
それは、当然の判断であり、同時に、信頼の証でもあった。
ーーーー
その日の午後、王宮の中庭にて。
「エミー」
聞き慣れた声に振り返るとそこには会いたかった父がいた。
「お父様」
エリックが、いつもの落ち着いた様子で立っていた。
「話は聞いた」
言葉は、短いが、その中には多くの意味が込められている。
「無理はしていないか」
「はい」
エミーはしっかりと答えた。
「今回は、自分の意思で決めましたから」
その言葉に、エリックはわずかに目を細める。
「……そうか」
それ以上は問わずに、ほんの少しだけ近づいた。
「ならば、私は私の役目を果たすだけだな」
それは低く、力強い声だった。
「お前が安心して仕事に専念できるよう、守りはすべて引き受ける。だから思う存分やりなさい」
エミーは、父を見つめて微笑んだ。
「はい。よろしくお願いいたします」
そのやり取りを、少し離れた場所からライナーが見ていた。
親子の信頼、そして、それを当然のように受け止める強さ。
(……羨ましいな)
守るべきものがある者の強さ。それは、王として必要なものでもあると、この時ライナーも感じていた。
(いつの日か、きっと私も……)
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こうして、交渉の準備は着々と進められた。
場所は国境近くの中立地。双方が同じ条件で臨める場所。
そこは戦ではなく、交渉で決着をつけるための戦場。
エミーは空を見上げ思う。
あの日とは、確かに違う。命令された役目ではなく、自らが、選択した道。
(わたくしは必ず、この役目を果たしてみせる。それこそが、この国のためになると信じているから。今までの学びを決して無駄にはしない)
彼女は、再び王都を発つ。心から信頼できる者たちと共に。